『いますぐお兄ちゃんに妹だっていいたい!』レビュー

"アニメファン(非18禁層)へと間口を広げる試み"

いますぐお兄ちゃんに妹だっていいたい!完全生産限定版
fairys (2012-12-14)
売り上げランキング: 1,618
点数ブランドプレイ時間
65点fairys約20時間
シナリオ
堅木功
原画
春夏冬ゆう
紹介サイト
いますぐお兄ちゃんに妹だっていいたい!特設サイト
備考
・全年齢対象


『いますぐお兄ちゃんに妹だっていいたい!』。口に出していますぐいいたい!(?)キャッチーなタイトルの本作は、姉妹ブランドspriteが開発した『恋と選挙とチョコレート』と同一世界の物語。

驚異的なプロモーション力で多くのファンを獲得した『恋チョコ』は2012年夏にアニメ化を果たし、その流れを経て全年齢対象作として発売された『いま妹』は、オタクコンテンツのマジョリティであるアニメファンを獲得しようという狙いを強く感じる作品であった。

表の人気声優を起用。使用ボーカル曲数が全9曲。またグランドOPではTVアニメクオリティのアニメーションムービーを取り入れるなど、金のかけ方も半端ない。それに負けまいと脚本も全体的に見れば水準並みのデキをキープしており、安心して贅沢に楽しめるだろう。

主人公である三谷陸斗は父が再婚したことにより新しい家族を迎え入れることになった。そうして新たに「弟」として迎い入れた三谷歩夢は、この春進学する朝岡学園の合格発表の場で一目惚れした女の子に瓜二つだった。

ここでタイトルの『いますぐお兄ちゃんに妹だっていいたい!』に繋がる。歩夢は「お兄ちゃん」という存在に憧れる女の子なのだが、新しいマンションに入居するまでの間だけ陸斗と相部屋生活をするために弟と偽りながら生活することになるのである。

本作の肝となる歩夢の設定は、これだけでどんな内容なのかと気になるものだ。どのように男であるとごまかし続けるのか? そしてどのように「妹」であることを打ち明けるのか? なかなか無茶のある設定であるのは間違いないが、歩夢周りの物語に関しては丁寧でプレイ中はそれほど違和感を抱くことなくプレイできた。

歩夢以外の攻略ヒロインは、中学時代から「盟友」と呼び合う仲である元気娘・奈々瀬奉莉。歩夢とは別の理由で女でありながら男子として学校に通う武士っ娘・茂森真央。地味目で内気、そして主人公と過去に因縁がある委員長・拝田希実花と並ぶ。

タイトルで明らかに「妹推し」しているように、キャラクターと脚本の質ではメインヒロインである歩夢が一歩抜きん出てるように感じた。逆に、ヒロインとしての魅力はあるものの倫理的にちょっと許せない問題を抱えたシナリオの奉莉に関しては惜しいなあと。

本作のシナリオは基本的に、朝岡学園の目玉となるクラス対抗イベント・桜花祭を通じてヒロインとの結束を固めていき、後半からは次第に各ヒロインが抱える問題へとフォーカスが当てられていくという構成を見せる。

桜花祭は全ルート共通に描かれるイベントであるが、ルートごとにその内容と結果が変化するので、同一のイベントながら各ヒロインの魅力をアピールするのにうまく機能している。しかし序盤で「朝岡学園は毎月イベントが開かれる祭好きの学校」という印象を植え付けておきながら、実際に描かれるのは4月の桜花祭だけというのは少し寂しい。

ややボリュームが足りないと感じるのもこの辺りが原因だろう。学園でのシーンも「クラスみんなで桜花祭に取り組んでいる」雰囲気を出しつつ、しかし基本的にはヒロイン以外との交流がほとんど描かれないので小ぢんまりとした印象がある。

それでも「みんなで何かを成し遂げる」という朝岡学園の雰囲気は、青春ストーリーを効果的に見せるためには大変魅力的な世界観だ。本作が『恋チョコ』と同一世界観の作品であるように、この世界観を継承する次の作品が出ることに期待したい。

絵に関しては『恋チョコ』から定評があるように非常に良い出来。淡い塗りのクオリティの高さはもちろん、背景の描き込みにも余念がない。しかし一部シーンで背景を横へとスライドさせて場面切り替えをする手法が使われていたがそれが演出的に効果を上げているとは思えず、絵の見せ方に関してはどこか小慣れていない感じがした。

そうは言っても一つ「これは!」と思わせるシーンがあって、それが共通ルートでの最後のシーン。仲間たちに囲まれ夕焼けの中、青春を謳歌する登場人物たちとそこに流れる挿入歌。それはまるでアニメ作品のエンディングを思わせて、そこから個別ルートへと分岐する流れには、本作がアニメファンに目を向けていながらも「美少女ゲーム」であることを強烈に主張しているように感じた。

18禁から、全年齢へのシフトへ――『恋チョコ』でその布石を打ち、それに答える形で一般層へと目を向けた作風を見せた『いま妹』。それだけに「全年齢対象作である」ことの意味や狙いを出せたという点は評価したい。

が、やっぱり歩夢が可愛いからエロシーンが欲しいなあと感じるあたり俺は根っからのエロゲーマーなのだなと、股間ではなく枕を濡らすのであった……。


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