『僕が天使になった理由』レビュー

"「恋愛」と「幸福」の短編集"

僕が天使になった理由
OVERDRIVE (2013-02-28)
点数ブランドプレイ時間
80点OVERDRIVE約25時間
シナリオ
那倉怜司
原画
藤丸
紹介サイト
僕が天使になった理由(わけ) - OVERDRIVE 7th Project
備考
 


人生にはハッピーエンドもバッドエンドもない。ただ諦めなければ、どんな結末が訪れようともきっと受け入れることができる。

恋と幸せを信じない主人公・桐ノ小島巴。そんな彼のもとに舞い降りたのは、愛を唄い人に幸せをもたらすために生まれた天使・アイネ。しかし歌を唄うための道具であるギターの弦が切れてしまい、アイネは天使業を行うことができなくなってしまう。

そこで恋愛観がまるで異なる巴が、成り行きながらも「天使代行」として天使業を行うことになり、様々な人々の恋愛をアイネとともにサポートすることになる。

そんなあらすじのもと、個別ルートに分岐するまでは恋に悩むサブキャラクターたちの恋愛物語が一話完結形式で繰り返される。

本作の各ストーリーでは常に「恋愛」と「何か(将来、世間体、etc…)」を天秤にかけて、プレイヤーへと問いかける。「この恋愛は本当にカップルを幸せにするか?」と。それに対して基本的にアイネは賛と考え、一方で巴は否と考える。

しかし最後に賛否の表明をするのは我々プレイヤーであり、その選択によって様々なキャラクターの結末が変わってしまう。どの選択をすればどのヒロインのルートに進むかといったヒントや含みが作中に一切描かれないことから、ヒロイン攻略とは関係なくプレイヤーに上記の問いを考えてほしいという制作側の意図が見て取れる。

だから少なくとも一周目だけは攻略サイトなしで、うんうん唸って考えながら出した選択肢を選んでその結末を見守るというプレイスタイルをオススメする。それこそが『僕が天使になった理由』がプレイヤーに仕掛けるゲームであり、本作を一番楽しめる方法だろう。

基本的には二者択一で明確な正解がないという物語の性質上、必ずしも全てが丸く収まるわけではない。なのでハッピーエンド以外は見たくないという人にはまず合わない作品だろうから、そこだけは注意した方が良いだろう。

また自分の選択によって各キャラクターが、プレイヤーの目線から見て決して幸せとはいえないような結末を迎えてしまったとしても、共通パート終盤のとあるシーンでそんなプレイヤーの心を癒す対話が用意されている。詳細は伏せるが個人的には本作一の名シーンと位置づけている。

一話完結でフォーカスが当たるキャラクターが各話ごとに変わる作品だけあってキャラクター数は多く、それぞれにちゃんと個性があり魅力的である。しかし、アイネを除いた攻略ヒロインに関しては共通パートでの出番が少なく、個別ルートに入ってから唐突に巴に接近したように見えてしまうのがやや惜しく感じた。

また、原画家の藤丸は本作で一気に躍進したように思える。老若男女問わず魅力的なキャラデザインに、ドラマチックなシーンを視覚的に演出する一枚絵はどれも素晴らしい。

音楽に定評のあるOVERDRIVEだけあって今回も楽曲のクオリティはどれも高い。それぞれのエンディングに添えられたテーマソング(全て作中バンド・CaSが担当)は、そのシナリオに合った余韻を残してくれるだろう。

個別に見れば挿入歌の『Dawn Light』を筆頭に、他にはとある衝撃的なエンディングを迎えて頭が真っ白な状況下で流れる『Glass Bead』にやられた。

作品内容からは少し離れるが、本作はおまけが大変充実している。せっかくなので凝りに凝ってるEXTRAモードは各自購入して確認してもらうとして、特に紹介すべきおまけとして各楽曲のコード譜が収録されているのはこのブランドらしさが出ていて嬉しい。

題材自体は売れ線から少し外した印象でやや人を選ぶものだが、総合的な完成度の高さは本物。「恋愛」と「幸福」というテーマを安易なご都合主義を排して真摯に描いた一作としてオススメしたい。


【関連リンク】(前ブログ)
積みゲー崩し日記『僕が天使になった理由』その1
  第一印象、マウスジェスチャ機能、第一話から予想するその後の展開。
積みゲー崩し日記『僕が天使になった理由』その2
  選択肢の意味、本作のゲーム性、西町美里ちゃん。

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