『世界でいちばんNG(だめ)な恋』レビュー

"NGだからこそ、憧れる"

点数ブランドプレイ時間
90点HERMIT約25時間
シナリオ
丸戸史明 with 企画屋
原画
みこしまつり
紹介サイト
『世界でいちばんNG(だめ)な恋』
備考
 

社会人でも頑張れば女子○学生といい関係になれる。なれるのだ。

三十路手前で会社をリストラされ路頭に迷っていた主人公・芳村理は、繁華街のスナックで陽坂穂香と運命の出逢いを果たす。出逢いから三ヶ月後、指輪を用意し、プロポーズをしようと穂香が経営するアパート・テラスハウス陽の坂へと向かう。そこで理は穂香が子持ちで、しかもその娘を残して他の男と駆け落ちしてしまったという事実を知らされる……。

己の不運に絶望するも、その隣には自分よりも不運な娘――陽坂美都子がいる。そこで理は彼女を支えるべく、今や彼女が代理の大家となったテラスハウス陽の坂に入居することとなる。それが理の、運命の出逢いの本当のはじまり。

本作の設定でまず目が行くのが主人公である理の年齢だろう。ゲーム開始時点で28歳。この手の非抜きゲータイトルでは学生主人公が大半を占めるため、本作のように主人公が社会人、しかも三十路手前という年齢設定は珍しい。

この年齢設定により導かれる本作のテーマは歳の差恋愛である。メインヒロインである美都子の設定は現実に照らしあわしてみればどう考えても中学生。中の人曰く「…これ、犯罪ですよね?」という題材を扱えるのはX-ratedの強みである。

そんな他ではあまり見ないテーマを扱っているだけでもプレイする価値有りと断言できるが、さらに本作はそのテーマを語るための作劇の巧みさも秀でている

そもそも歳の差恋愛には障害が多く、それだけで物語に強い推進力を与える。加えて親という後ろ盾をなくした美都子の生活や進学はどうなるのかという解決すべき問題も山積みで、地味ながらも先が気になる作りになっている。そんな状況下に、美都子以外のヒロインたちが理の魅力に気付き接近してくることで始まる三角関係!

このように物語に推進力を与える要素がどんどん積み上げられていくため、止め時が見つからないシナリオに仕上がっている。

物語を盛り上げるのはシナリオだけではない。各シーンに挟まる小ネタの数々や、環境音・効果音の使い方、場面転換のタイミングの的確さなどはADVゲーム演出の教科書と呼んでも言い過ぎではない。一話当たり一時間ほどの尺で展開される連続ドラマ風の構成も、地味な物語の中で緩むことなく見せ場を用意できるという点で本作に合っていると感じた。

以上のような地味な「巧い!」の積み重ねが、作品全体の完成度を高めている。細部まで作りこまれた一作である。

当然キャラクター造形にも抜かりはない。主人公である芳村理(ボイス有り)は高身長・高学歴で仕事もできるハイスペック野郎(チクショー!)なのだが、その性格の底抜けな優しさのためにいつも不幸に襲われるためどうしても憎めない。それどころかついつい応援したくなるキャラクターに仕上がっている。

攻略対象ヒロインはみな表向き「いい女」っぷりを発揮したかと思いきや、時にタイトルにあるような「NG(だめ)」な一面を垣間見せるという点で一貫している。その中で個人的には、やはりメインヒロインである美都子が最萌えだった。普段は年齢に見合わないしっかり者なのだが、ずっと年上である理に次第に惹かれて耽溺してしまうあまり、時に歳相応の子供っぽい一面を見せる様がキュート。

物語の構造上、美都子は全てのヒロインを相手に理を取り合うこととなるため嫉妬シーンが多く、その破壊力も凄まじい。嫉妬萌え、更にいえば失恋萌えという業の深い属性持ちならば、美都子は深く突き刺さるキャラクターになるだろう。

更に美都子に関しては、歳が離れた理との関係をプレイヤーに納得させ、そして応援できるようにするための強烈なイベントが多く用意されている。特に序盤、美都子がある料理によって理の胃袋をつかむシーンに注目。理にとって美都子が真に運命的な存在であることに気付かされる名シーンだ。

主人公、ヒロイン以外の全てのサブキャラにも漏れなく一定の活躍が用意されている点も好感が持てる。修羅場などのキツいシーンも、ここぞというタイミングでコメディリリーフとして登場してくれる彼らのおかげでホッと一息吐くことができる。このようにコメディとシリアスのバランスを取るための登場人物の動かし方にも感心した。

絵に関しては作品世界の雰囲気にあった暖かな塗りが映える。個人的には美都子ルートにおける最後の一枚絵で見せる彼女の表情が、会心の一撃として涙腺を襲った。

音楽に関してはやや地味目で、「これぞ!」というBGMはなかった。しかしOP曲である『陽だまりコイゴコロ』は各話の冒頭で何度も流れるために頭に残り、前奏の掴みが強い曲ということもあって、挿入歌としてこの曲が流れる瞬間は非常にテンションが上がった。こういう音楽のチョイスもやはり巧い。

以上のように、これといった欠点の見られない笑って泣けるホームコメディとして極めて高い完成度を誇る秀作だと言えるだろう。過度に尖った要素もなく、広くオススメできる一作である。

……ところで。本作をプレイしていると「巧い!」と膝を打ちすぎてしまい足が痛くなってしまう。だから動く気もなくなり、ずっとこの陽だまりのようで暖かなテラスハウス陽の坂の住人として引き籠もりたくなった。熊さんみたいに。

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