魂込みで忠実に – 映画『ちはやふる 上の句』を観る

超大好きなテレビアニメ版『ちはやふる』をついでに語れるということで、実写映画版『ちはやふる』について語ります。



まずは結論

そんなワケで、私は実写版『ちはやふる』、断然支持派です。


原作・テレビアニメ版との展開的な違い

基本的に脚本は原作に忠実な実写版だが、その中での改変部分で思いつくところをまずは三点上げておこう。「ここを改変するとは許せん!」という方は鑑賞を考えたほうが吉という試金石として。

1.千早、太一、新の小学生編を全編通して小出しにする構成
これは劇場版故の尺の都合と、何よりも小学生編のクライマックスがあまりに盛り上がりすぎるため作品全体のバランスを考慮しての措置かなと。上映時間2時間の映画で、初めの30分~1時間であの小学生編をまとめるのは難しく、かつそのタイミングで最大級の盛り上げどころを持って行くと後半息切れしてしまう。妥当な判断だと思います。
この改変により、新のある葛藤部分が時系列的に原作よりも後に置かれています。これは後述する良いアレンジに繋がったかと思います。

2.奏ちゃん、肉まんくん、机くんの入部エピソードを駆け足に
これは完全に尺の都合。この改変に伴い、特に肉まんくんのキャラクター改変が大きく、コメディリリーフとしての役割が原作以上に大きくなっている。また、机くん入部エピソードは人気がありそうなので、ここはやや賛否が分かれそうなポイントか。

3.太一の不運設定をより強化
運命戦に弱い太一。太一自身が考えるその理由が、千早への想いに直結する。1で前述した通り、新の葛藤部分が後回しにされたおかげで新と太一は原作よりも早めに再会を果たし、それにより太一の葛藤がより強化されている。
前編クライマックスでの展開の盛り上がりとしても、太一の心情にケリを付けるという意味でも、この改変は正解だったと思います。


何よりも大事な「音」、そして配役

『ちはやふる』は……というか、競技かるたという題材は映像作品と親和性が高いと考えている。何故なら、競技かるたは百人一首という「歌」が空間を支配し、歌詠みに合わせて静と動が激しく切り替わるからだ。

次の詩が詠まれるまでの静の時間は競技かるたの戦略性とあいまって非常にサスペンスフルだ。緊張感を持続する無音状態から、歌が詠まれてから勝負は一瞬――札に手を伸ばし畳をはたく音が響く。まるで西部劇の決闘のようだ。

今回の実写版では、競技かるたでの描写においてテレビアニメ版での音の使い方をかなり参考にしているように感じた。効果音や劇伴の使い方はもちろんのこと、役者の声質もかなりテレビアニメ版の声優に近い方々を揃えてきている徹底ぶり。

特に奏ちゃん役の上白石萌音と、机くん役の森永悠希の二名の声質、演技はテレビアニメ版の完コピと言ってもいい。もちろんただの口先だけの真似っ子に終わらず、全身の立ち振る舞いまでもキャラクターを体現することに腐心していて本当に偉い。

しかし配役という意味では、やはりというべきか主人公である綾瀬千早役の広瀬すずの存在感が凄まじい。

実写でやるにはちょっと厳しいラインの原作のギャグも入れ込んでいるため正直そこは辛いなと思いながら観ていたが、しかし広瀬すずの体を張ったバカ演技が見れたのは嬉しいし偉いしつまり最高。

一転、競技かるたシーンではまるでキャラクターが降りてきているかのような体現ぶりで、本当に「千早に見える」。今となっては広瀬すず以外には考えられないというくらいにハマっていた。

そういう観点でやや残念だったのは太一役の野村周平。主要キャラクターの中では一番原作から離れた演技で、悪くはないんだけど周囲が完全に『ちはやふる』テンションの中で少し浮いていた。加えて名優・國村隼との絡みが多く、力量の差が目につきやすいポジションだったのも可哀想なところ。しかし、終盤の見せ場のシーンでは現場の勢いも良かったのかグッと太一らしさが出てきて最後には見直した。


『下の句』への期待

最後に、その他の細かいディテールも挙げておこう。

原作連載が開始された2008年ではなく2010年代中盤ごろに年代設定を移したことで原作とは少し異なる手触りになっていたのは個人的には有りだった。また、完全再現されたかるた部の部室の美術や、ビシっと決まった浴衣姿、そしてやはりテレビアニメ版を参考にしたと思われるショットもいくつか見られた競技かるたシーンでの撮影の冴え具合も評価したい。

こうして見るとやはり映画として全体的にクオリティが高い。原作の魅力をしっかりと引き継いでくれているのは当然嬉しいが、「原作のあの感じが楽しい」という域を超えてきてちゃんと「映画として楽しい」ところにまで仕上げてくれたのは原作ファンとして本当に嬉しい。

『上の句』の序盤では「原作に忠実にやります」という目配せとして、実写にするには厳しい漫画的なコメディ描写が挿入されてちょっと危うさもあったが、中盤以降はしっかりと実写青春映画としてのバランスを整えてくれた。

後編に当たる『下の句』ではもうそういう目配せも不要だし、始まりから終わりまでをこのバランスで貫いてくれれば文句なしの一作となってくれそうだ。

どちらにせよ、ここまで愛のある実写化をしてくれるとなるともう『下の句』への不安はない。原作のどこまでを映画として残してくれるのかを楽しみに待ちたい。

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