『凍京NECRO<トウキョウ・ネクロ>』レビュー

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点数ブランドプレイ時間
90点ニトロプラス約30時間
シナリオ
下倉バイオ、深見真
原画
大崎シンヤ
紹介サイト
死者再殺ADV『凍京NECRO<トウキョウ・ネクロ>』 - 凍京都公式ホームページへようこそ|凍京都
備考
 


2199年。東京ならぬ凍京を舞台として、死者を生き返らせてリビングデッドとして使役する技術を持つネクロマンサーと、リビングデッド絡みの事件の対処を請け負う民間委託業者の生死者追跡者(リビングデッド・ストーカー)との死闘を描くSFアクション作品だ。

主人公は、同じ生死者追跡事務所に所属する2人の男女。冷静沈着なボンクラ男の臥龍岡 早雲(ながおか そううん)と、血気盛んなレズビアンの牙野原 エチカだ。基本的にはこの2人の視点を織り交ぜながら物語が進行する。

しかし、主人公である彼ら以上に巨大な実在感を放つ存在として、本作の舞台となる凍京をここでは重点的に紹介したい。現在の東京都の面影を残しつつ、地球の急激な寒冷化に対応して地下熱源を利用したホットパイプを都市一帯に張り巡らせたその街並みは、曇天と降雪が続く薄暗い気候と合わさって暗く、寒々しい印象を与える。

つまりは『ブレードランナー』『ニューロマンサー』に代表されるサイバーパンクな電脳都市感を、洗練されたビジュアルデザインと膨大な数のTipsから成るテキスト情報でもって、未来の東京都の姿として現実感をもともなった形で表現しているのだ。

加えて、この『凍京NECRO』という美少女ゲームそのものが、2199年の凍京を疑似体験するアプリケーションであるという体で全体的に演出されている点が何よりセンス・オブ・ワンダーを掻き立てる。ゲームを通して物語を体験(プレイ)するという行為そのものを、物語内の設定が意味づけするのだ。

……こればかりは文章だけで伝えるには限界のある、プレイしてみて初めて理解できる類の感動だろう。プレイし始めた頃は意味の分からない「ゲーム演出だと思っていたもの」が、物語を読み進め、凍京という世界の知識を付けていくことで理解できてくるという体験は新鮮だった。この説明だけでワクワクできる方ならば、この後の具体的なストーリー内容なんて無視して本作を買いに走っても後悔しないだろう。

さて、本作シナリオは凍京都副都知事の誘拐事件を追う早雲とエチカが、記憶喪失の美少女・宝形イリアを保護するところから物語が大きく動き出す。イリアが持つという特殊な能力を求めて複数の人物・組織が暗躍し、そこにネクロマンサーが介入することで、凍京各地は混迷の戦場へと姿を変えていく。

選択肢によるマルチシナリオが巧く活かされており、「とある条件」が変わることでそれぞれの人物の計画・思惑の成否が変わっていき、そこから物語も大きく分岐していく。それに伴って登場人物間の敵対関係も少しずつ変化し、あるルートでは敵同士だったあのキャラクターと別ルートでは手を組んで……といった熱い展開もきっちり用意されているあたりは流石の手腕といったところか。

早雲&エチカの凸凹主人公コンビのたまに軽口を叩きながらも互いに信頼しあった戦闘スタイルは見ていて気持ちが良い。同じ事務所に所属するもう一人の生死者追跡者である壱原 時尭(いちはら ときたか)も「無類の数字フェチ」というトリッキーなキャラクター性がコメディリリーフとしても、世界観解説役としても活かされており良い役どころを演じている。

ヒロインでは物語のキーマンであるイリアのオタク娘感がかわいい。記憶喪失ながらも明るく、他者と打ち解けることに長けた彼女は、感情表現の希薄な早雲からも多様なリアクションを引き出すことができ、相性の良さを感じさせる。同じ生死者追跡者として敵対関係にある日本刀少女の義城 蜜魅(ぎじょう みつみ)も、対リビングデッド戦でのキリッとした印象から、普段の真面目すぎる性格からイジられ役になってしまうというギャップに悶える。

敵対するキャラクターたちもそれぞれの武器やネーミングなど着目したいポイントはあるが、ここではリビングデッド(=ゾンビ)に注目したい。だってあなたも好きでしょう、ゾンビ。

本作のゾンビはネクロマンシー技術によって死者がネクロマンサーに操られるという設定。我々がよく見知った感じで人間に襲いかかるLo-Fiリビングデッドと、生きた人間に偽装したり戦闘用の改造を施されたHi-Fiリビングデッドに二分される。もちろん数で圧倒するゾンビの本領を発揮するために、老若男女問わず多くのゾンビ立ち絵が用意されており、ゾンビものエロゲーとしては大満足だ。

そんな沢山のゾンビたちも活躍するバトルアクションシーンは、間違いなく本作の白眉となるポイントだろう。背景から人物までも含めて全てを3DCGで造形し、テキスト送りと同調して走る、跳ぶ、撃つといった派手なアクションをアニメーションで見せる。一枚絵では難しい、立体的なカメラアングルを活かしたバトル表現はやはり目新しく映る。

技術的敷居が下がってきたことで今後3DCGを大きく活かした作品が多数登場することが見込まれる中、派手なアクションシーンで大々的に導入した最初期の事例として本作は間違いなく名前が残るだろう。

しかし、だからといって従来の一枚絵・立ち絵演出が目立たないかと言えばそうではない――どころか、全美少女ゲーム演出の中でも現状トップレベルといって差し支えない圧倒的なクオリティだ。特に、背景+人物静止画像の組み合わせで画面を構成する「立ち絵」の構図は、それが主人公の見ている視覚情報そのものであるとして、演出に巧みに活かされている。

例えば、立ち絵と背景の配置によって主人公との位置関係を表現する基本はもちろんのこと、エクスブレインというヘルメット型デバイスを主人公が被ると、画面全体にエクスブレインのインターフェースが映し出される。また、武器を用いるときは画面手前にそれが映りこむFPSゲーム的な演出など、挙げていくと枚挙にいとまがない。

凄いのはアクション演出だけではない。本作の最終ルートには画面全体をテキストで埋め尽くす、ノベルゲーム演出の最新発展版とも呼べるシーンを最大の見せ場として用意している。3DCGアニメーションばかりで読み応えが足りないというテキスト重視のプレイヤーもここには唸らされることだろう。

最後に音。各声優陣の演技や楽曲のクオリティの高さはもちろんのこと、数々のSF的ガジェットの存在感を高める効果音に、あるキャラクターの重要なポイントである音声編集まで、細かい仕事の数々に頭が下がる。お気に入りのBGMは数多くあるものの、やはりクライマックスのある展開でテンションのギアを一気に最高潮まで引き上げる「Information Warfare」が別格か。

まとめると、とんでもなく実験的でありながら、ものすごくエンタメ濃度が高い一作。視覚的にも、ゲーム体験としても新しいことにチャレンジしつつ、未来SFとゾンビを組み合わせたバトル・アクションを全面展開したストーリーは娯楽性が極めて高く清々しい。2199年から183年前に当たる時代の水準で「面白さ」に特化した作品を求めるならば、必ずプレイすべき傑作だろう。


【関連リンク】
ファースト・インプレッション – 『凍京NECRO<トウキョウ・ネクロ>』をプレイ その1

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