2016年日本公開映画 個人的ベスト10

はじめに

2016年が終わる。

『サウルの息子』『サウスポー』、そして『怒り』など、劇場で観ようと思っていたが時期悪く見逃した作品が多くある。
『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』『ポッピンQ』など、劇場で観るつもりがあるものの年内には間に合わなかった作品もいくつかある。

そんな状況ではあるが、現時点での2016年公開作品の個人的な記録を残したい。

2016年ベスト10

10位『淵に立つ』

浅野忠信の不気味な存在感が目に焼き付いて離れない。
あの赤いシャツがな〜! イヤだよな〜!

過去に犯してしまった罪が時を超えて、人の形をして、巨大な罰を与えにやってくる。
その逃れられなさに深い絶望を覚えてしまう。

今年一番、観終わった後に体調が悪くなった作品です。

  

9位『ドント・ブリーズ』

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盲目ジジイがコソ泥に入ったバカな若者にお灸をすえる!

ワンアイデア物のジャンル映画的なお楽しみポイントをふんだんに盛り込みつつ、確かな演出力でそれらを繋げ、はじめ考えていた終着点よりも遥か先の狂気の世界に連れて行かれた。

最初から最後まで退屈な瞬間が一切ない88分間。
特に(ネタバレになるから詳細は伏せるが)最後の後味のあの感じがタマラン。

  

8位『ソーセージ・パーティー』


神に中指を立てるシリーズその1。

個人的には裏『ズートピア』だと考えてます。あるいはフードピア。
かたや動物の擬人化、かたや食物(だけじゃないんだけど)の擬人化でそれぞれの「理想郷」を描いている。
そのことからも未だ人類は人の形をした集団からなる理想郷を信じられないのかなと。

正直、最初20分と最後20分が面白く、中だるみする作品ではあるが、クライマックスに用意された「こんなの観たことねえ!」と叫び声をあげてしまいたくなるあるシークエンスで完全にやられた。サイテーでサイコー!

  

7位『神様メール』

神に中指を立てるシリーズその2。

エアちゃん萌え。

ジャコ・ヴァン・ドルマル映画では初めてのコメディだがその独特な映像美は健在。水上歩行、左手のダンスシーンなどなど、ため息の出るような美しいシーンの連続。

映画の出来とは関係ないが、原題の『LE TOUT NOUVEAU TESTAMENT(新・新約聖書)』と比較しちゃうと焦点がブレまくりな邦題に辟易。

  

6位『この世界の片隅に』

辛くて、悲しくて、だけど笑えるくらいに楽しいこともある。
人生はそういうものであり、それは戦時中でも変わらない。

アニメーションという抽象化された表現故に成しえた、あの戦争が現代へと繋がっていく感覚は重く、そして感動的だ。

……この真上に『ソーセージ・パーティー』が位置しているとは考えられない程度に、本作については真面目なことしか言えない。

  

5位『PK』

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神に中指を立てるシリーズその3。

初めてまともに観たインド映画は、宇宙人がインドにやってくるSFコメディだった。
長尺にこれでもかとたくさんの要素を詰め込み、当然のようにミュージカルシーンが挿入されるが、これこそがプリミティブな映像の面白さと言わんばかりだ。

特にラブロマンス要素の搾涙力よ!
後半の「恋は時間の無駄だから」と歌いながら恋するPKの姿にボロッボロに泣かされた。

  

4位『ヒメアノ〜ル』

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映画館に入る前と出た後でこれほど世界の見方が変わる映画はなかなかない。

予告編の構成と同じように、本作は前半ラブコメ、後半サイコサスペンスといったように全く異なるトーンで演出されている。
そのブリッジとなるちょうど映画の真ん中に配置されたタイトルシーンの息を呑むようなかっこよさに痺れた。

また、まともに観もしないくせに邦画を叩く連中たちの狙い所であった「漫画原作」と「ジャニーズ主演」という要素を両方とも満たす傑作として、非常に攻撃力の高い作品であるなあと。

  

3位『スティーブ・ジョブズ』


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遅れてやってきた個人的ジョブズブーム。

新製品発表プレゼンの40分前を3回繰り返すという驚きの構成で繰り返される、ジョブズ組手。
時代を超えて繰り返される身近な人との衝突を通して、スティーブ・ジョブズという人間の父親としての顔を浮き上がらせることに見事成功している。

伝記ドラマのように見えて骨太な人間ドラマ。
アップル製品への知識など多少のリテラシーは要求されるものの、あまりジョブズをよく知らないという方にも観てもらいたい一作だ。

■本ブログ記事
題材をどのように調理するか – ダニー・ボイル版『スティーブ・ジョブズ』を観る

  

2位『帰ってきたヒトラー』

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これをイギリスEU離脱国民投票の前日に観たのはいい思い出。

『ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』と同じく、一般人の目の前にあるキャラクターを配置することで人々の内側に潜む差別意識を浮き彫りにするドキュメンタリー手法をヒトラーでやるというこの危なさよ。
その手法と掛け算されるメタフィクション的な展開が、今まさに現実で起きている現象とシンクロしてしまっている。
社会的ホラーというか、とにかく恐ろしい一作だ。

正直、本作を観た直後は「これは今年の一位は決まったな」と確信していた。

あいつが現れるまでは。

  

1位『シン・ゴジラ』

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ちょうどこの記事を書いているただ中に鈍器こと『ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ』が届いた。
三ヶ月くらい延期したかな(エロゲかな?)。

映画から発せられるエネルギーという点においては年内どころかこれまで観てきた映画の中でもトップレベル。
楽しすぎて嬉しい、楽しすぎて言葉も出ない。そんな感覚に陥ったのは初めてかもしれない。

子供の頃に平成ゴジラシリーズをいくつか観た思い出があるが、本作でもって初めて「ああ、これがゴジラなのか」という畏怖の念を抱いた。

ぶっちぎりだと思っていた『帰ってきたヒトラー』を軽々と超える、文句なしの2016年ベスト映画だ。

■本ブログ記事
とにかく観やがれ – 『シン・ゴジラ』を観る

■参加した企画
「批評の凋落?ーーゆずソフトからシン・ゴジラ、そして無限批評地獄へ」ーー1「死霊の盆踊りは良いぞ」(1) : 発作的対談企画「庭が出るまで(仮永遠)」:

2016年総評

トップ10の中で「神に中指を立てるシリーズ」としてまとめているが、今年は宗教問題を描いた映画に刺さる作品が多かった。
複数の信仰が混ざり合うこの世界のカオスに真正面から挑戦し、一定の成果として何らかの気づきを与えてくれる、そんな作品に惹かれたのだ。
特に『PK』は初出が2014年公開ということもあり、今尚続くISISなどの宗教を利用したテロ組織への恐怖が描かれていたことが興味深い。
10位圏外だが『スポットライト 世紀のスクープ』もカトリック教会との闘いを描いたヘヴィーな一作だ。
そして、日本では来年2月に公開される『沈黙-サイレンス-』がこのジャンルの決定版となることに期待したい。

また、マイノリティーへと目を向けた作品が、特にアカデミー賞がらみで多く見られたのが印象深かった。
LGBTを描いた『リリーのすべて』や『キャロル』。移民を描いた『ブルックリン』、赤狩り時代の共産主義者を描いた『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』など。
アカデミー賞がらみでなければ学問のためにインドからイギリスへと移住した数学者ラマヌジャンを描いた『奇蹟がくれた数式』や、聴覚障害を題材とした『FAKE』や『聲の形』もそこに属するだろう。

この世界にはたくさんの差異に溢れており、各人が各人を分類している。
その差異に対して互いに憎悪(ヘイト)をぶつけ合う『ヘイトフル・エイト』はクラシックな雰囲気を醸し出した西部劇でありながら強固な現代性を帯びたスリリングな一作だった。
そんなカオスに昨今の格差問題(『マネーモンスター』、『マネー・ショート 華麗なる大逆転』)や現代的な組織犯罪(『カルテル・ランド』、『ボーダーライン』)が組み合わさって、万人にとっての理想郷なんてものは夢のまた夢。

イギリスはEUを離脱し、トランプ旋風が吹き荒れる。
差異を受け入れられない不寛容が表出し、侵食する。

そんな中、擬人化という表現技術を駆使した『ズートピア』と『ソーセージ・パーティー』は、雰囲気は真逆だがしかし共に理想郷を模索する物語で、まさに裏表の関係であると感じた。
これら強力な表現が、私を含む万人の内側に潜んだ差別意識を抑えてくれればいい(殺すことはきっとできない)。
ヒトラーが帰ってこない程度には。『この世界の片隅に』のような悲劇が繰り返されない程度には。

不可逆な破滅を迎えてしまう直前まで、私たちは差異のある他者と協力することができるんだと信じたい。
『オデッセイ』のように、『シン・ゴジラ』のように。

……と言いつつ、『クリーピー 偽りの隣人』の西野なんかとはまるで協力できる気がしないのであった……。

62位から11位まで

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