『カタハネ ―An’ call Belle―』レビュー

点数ブランドプレイ時間
80点10mile約25時間
シナリオ
J-MENT
原画
紹介サイト
カタハネ ―An' call Belle― | 10mile
備考
2007年1月26日発売『カタハネ』のリニューアル版。


特殊な人形技術が発達した世界で、クロハネ編シロハネ編の2つの編から成る群像劇。

クロハネ編は過去の物語。小国である白の国(ヴァイス)を舞台に、一国を治めるクリスティナ姫と彼女の後見人であるアインを中心に繰り広げられる陰謀劇。確定した過去故に選択肢はなく、後の世に悲劇とされる結末に向けて全体的に暗く、そして美しい物語が展開される。

シロハネ編は現代の物語。小説家志望のワカバと歴史学者の卵であるセロを中心とした一行が繰り広げる珍道中を描いた旅行劇。しばしば悲劇として語られる白の国の物語をハッピーエンドに終わる劇に仕上げて演劇祭で披露すべく、仲間を集め、その歴史を追いかける愉快な物語が展開される。

この2つの物語をつなぐ存在として、クロハネの時代に生まれ、シロハネの時代までを生きてきたココという人形がいる。歴史として確定された過去が、"ココ"を通じて、無数に開かれた未来へとつながっていく――歴史という幅を持たせたシナリオ構成はかなり良く練られている

その構成に加えてクロハネ編・シロハネ編を個々に見てもそれぞれ全く異なる雰囲気と魅力を持たせることに成功しており、一粒で二度おいしいを実現している。

表向きの静謐さの裏で渦巻く陰謀を巡るシリアスなクロハネ編、一転してトラブルだらけの旅をコメディタッチで描くシロハネ編。その差を調律する役割を担うココの存在感。

ほとんど人間そっくりな人形も存在する世界において、まさに人形然とした姿形をしたココの言動はまるで子供のよう。そんな"女の子"であるココは、いわゆる「萌え」というハイコンテクストなカワイイではなく、もっとプリミティブなカワイイを体現している

そんなココを常に中心に添えた人物同士のかけあいの上手さ、気持ちよさは両編における共通点として挙げられるだろう。ひとつのシーンの中で少しずつ登場人物同士の距離が縮まっていく様子が台詞から伝わってくる。

ひとつだけ印象に残ったシーンを挙げたい。シロハネ編、鉱山の村クロムでの雨のシーン。旅の途中から合流する舞台女優志望の少女アンジェリナと人形のベルが織りなすかけあいは目を見張るような素晴らしさだ。二人の几帳面な性格がよく表れており、お互いに間接的に伝えられる「好き」の言葉、そして「雨降って地固まる」を文字通り体現した結末――。あまりに完璧すぎて思わず唸らされた。

シナリオ面であえて欠点を挙げるならば、トゥルーエンド以外のルートにおいて終盤がダイジェスト気味になってしまう点は少し気になった。その原因はシナリオの構造上のゴールである演劇祭本番を迎える前に登場人物たちの成長が完了しており、物語としては既に終わってしまっているからだ。従って、演劇祭準備周りのストーリーはボーナストラックとして楽しむのが正解だろう。

以上のようにシナリオの出来栄えは見事なものなのだが、この2つの物語を成立させている重要な要素として凄まじいクオリティの背景画に注目したい。クロハネ編はドルンシュタイン城内をメインの舞台としており、中世ヨーロッパ風の時代を感じさせる美術の数々に惚れ惚れする。シロハネ編は旅行劇ということもあり、様々な地方の町並みが目の前に展開される度にワクワクとさせられた。

背景と合わせて画面構成について触れたい。本作ではテキストフォントに洋画の字幕風のものを使用している。その上でテキストウィンドウが存在せず、背景画像とキャラクター立ち絵が表示された画面下部にそのままテキストを配置している(オプションでテキスト表示欄全体に影をつけることは可能)。ストーリーが片や歴史ドラマ風、片やロードムービー風といった映画的な題材故に、洋画字幕のように表示されるテキストがしっくり来るのだ。

音楽はクロハネ編・シロハネ編で流れるものが重複なく分かれており、それだけで力の入れようが分かるというもの。BGMでは旅情を感じさせる「Anclet capital」を、ボーカル曲ではクロハネ編エンディングソングの「Memories are here」をお気に入りとして挙げたい。クロハネ編エンディングはスタッフクレジットの演出と組み合わさって落涙必至の破壊力である。

百合要素の強い作品であるが、百合好きに限らず広く好感を持たれること間違い無しの完成度の高い逸品である。リメイク版として付けられたサブタイトルである「An' call Belle」にニヤリとしたであろう、オリジナル版プレイヤーたちを羨ましく感じた。


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『カタハネ』等身大ココパネルの裏面

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