ノベライズによるアップデート – 『メタルギアソリッド サブスタンスⅡ マンハッタン』を読む

はじめに

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これは驚いた。
ゲームのノベライズ版が果たす役割。それはそのゲームがゲームとして語る物語を抽出し、小説として落とし込み、手軽に追体験できるようにすることだと考えたいた。

しかし『メタルギアソリッド サブスタンスⅡ マンハッタン』(以下『サブスタンスⅡ』)は、2001年に発売された『メタルギアソリッド2 サンズ・オブ・リバティ』をノベライズという形で「10年代版『メタルギアソリッド2』」にアップデートすることに成功している。

そもそもあの(良くも悪くも)問題だらけの原作を小説に落とし込むだけでも相当な労力だろうに、これは恐れ入った!

私のメタルギアソリッド2体験

初プレイ時期は……?

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『メタルギアソリッド2 サンズ・オブ・リバティ』が発売された頃の私はまだまだ子供だった。初プレイはいつ頃だろうか、正確な時期は思い出せない。

私の身近にゲーム選びのセンスで背伸びをしていた友人がいて、私が同時期に発売された『大乱闘スマッシュブラザーズDX』にハマっていた頃には彼は『バイオハザード』シリーズや『メタルギアソリッド』にのめり込んでいた。
多分その流れで私も『メタルギアソリッド2』に手を出したように思う。

難しい、大人なゲームだなあと思いながらプレイを進め、例によってクライマックスの展開にキョトンとしたことを思い出す。

もちろんゲームとしての完成度はかなりのもので、何周もプレイした大好きなゲームだった。しかし、本作が私にとって大切な一本として評価が確定したのは、それからずっと後のことだった。

シリーズファンによるウンチク雑談実況MGS2

『メタルギアソリッド2』はそのメタフィクション性と、これ以上壮大にしようがないというレベルの壮大過ぎる陰謀論が複雑に絡み合い、とっつきにくいストーリーが展開される。

私がこの難解なストーリーの全貌をしっかりと飲み込めたのは上記の実況動画シリーズを視てからだ。この動画を見てこの作品の真の凄さ(恐ろしさ)に気づいた。更に言えば、この動画を見て私は伊藤計劃を知り、そして映画鑑賞にのめり込むきっかけにもなった。

この動画の実況者は、本作の難解な部分の理解は伊藤計劃の受け売りだと正直に告白し、その上で本作の解釈を動画という形で拡散する。この現象自体が、まさに模倣子(ミーム)をテーマとした本作らしいなと思う。

この動画を通して、それまで「好き」な作品だったメタルギアシリーズが、「大切」な作品へと姿を変えたのだ。

極めてよくできたノベライズ版

『メタルギアソリッド サブスタンス Ⅰ シャドー・モセス』

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本作を書いた野島一人が『メタルギアソリッド ピースウォーカー』のノベライズ版で高く評価され、「野島一人=小島秀夫」説なんてのが飛び出していたという話は小耳に挟んでいた。

私は所持ハードの問題で『メタルギアソリッド ピースウォーカー』未プレイという「お前シリーズファンを自称してて恥ずかしくないの?」状態ゆえにこのノベライズ版は未読だったが、この間ふと『メタルギアソリッド サブスタンスI シャドー・モセス』(以下『サブスタンスⅠ』)を読んで、これは極めてよくできたノベライズ版だなと読みふけった。

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MGSシリーズ一作目に当たる『メタルギアソリッド』のノベライズ版はこれが二冊目。一冊目はレイモンド・ベンソンにより書かれ、それが逆輸入的に翻訳されて日本で発売された。正直な話、ベタなノベライズであまり印象には残っていない。

それと比較すれば『サブスタンスⅠ』はかなり挑戦的な一冊だ。ただ物語を小説に落とし込むだけでない。MGSらしいメタなネタや原作に登場しない第三者の語り部も含めて、あの手この手で「『メタルギアソリッド』をプレイする体験」そのものを追体験させるのだ。

特に本作が秀逸なのは、『メタルギアソリッド』が発売された1998年では描きようがなかった2001年のアメリカ同時多発テロ事件があったという前提で、シャドーモセス事件が描かれている点だ。

この点だけでも10年代に新たにアップデートされた『メタルギアソリッド』を実現しているが、この続編として発売された『サブスタンスⅡ』は更にその先を行く。

『メタルギアソリッド サブスタンスⅡ マンハッタン』

さて、ようやく『サブスタンスⅡ』の話にたどり着いた。

本作も『サブスタンスⅠ』に引き続き、原作には登場しない第三者が物語の語り部を務め、アメリカ同時多発テロ事件の記憶が色濃く残るマンハッタンで発生したタンカー沈没事件とビッグシェル占拠事件、二つの事件が原作に忠実に物語られる。

個人的にはシリーズでも影の薄いキャラクターの一人であるピーター・スティルマン周りの描写が丁寧に掘り下げられており嬉しいところだ。それと同時に、スティルマンのある秘密が、本作の語り部の境遇と一致するという二つの物語の接続にクラクラとさせられた。

しかし、本作のハイライトは何と言っても暴走したアーセナルギアがマンハッタンに突っ込む一連の描写だろう。このシーンは発売直前に発生したアメリカ同時多発テロ事件を受けて原作では大幅にカットされている。『メタルギアソリッド2 サンズ・オブ・リバティ シナリオ・ブック』ではアーセナルギアがどこを通り、何を破壊したかの指示が詳細に記載されているが、プロットレベルであるためその大規模破壊が物語的に何を意味するかまでは記述されていない。

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しかし、『サブスタンスⅡ』ではかつて描くことが憚られた大破壊を克明に描写する。†01レイモンド・ベンソン版『メタルギアソリッド2 サンズ・オブ・リバティ』でもこのシーンは描写されるが、『サブスタンスⅡ』のそれと比べるとあまりに物足りない。

アーセナルギアが通過した跡には、倒壊した建築物の瓦礫が山をなし、あちこちで火災が発生していた。黒煙が天にのぼり、夜明け直前のマンハッタンの空を覆っている。しばらくしたら、消防隊や救急隊、さらに軍が出動するだろう。それは、二〇〇一年の九月一一日の再現だった。あのときは、この都市は空からの侵入者に襲われた。今回は海から現れた怪物が都市を蹂躙している。しかも、その怪物はアメリカ海軍によって建造されたものなのだ。内部から出現した異形な存在が、この国の中心地を破壊し尽くそうとしている。倒壊したツインタワーの跡地のように、焦土と化したこの場所もまた、のちにグラウンド・ゼロと呼ばれることになるのだろうか。

『メタルギアソリッド サブスタンスⅡ マンハッタン』より

9・11テロが発生した世界(=現実)と地続きの地点から眺めた、ビッグシェル占拠事件(=虚構)の幕切れだ。

……幕切れではあるのだが、これで終わりではない。
『メタルギアソリッド2』の物語が真に恐ろしいのは、『愛国者達』という「見えない何者か」による支配が物語の後もずっと続くところにある。原作では描かずに続編である『メタルギアソリッド4 ガンズ・オブ・ザ・パトリオット』に譲った「その後の世界」を描写した『サブスタンスⅡ』のラスト数十ページは、『メタルギアソリッド2』を初めてプレイした時のクライマックスのなんとも言えない奇妙な恐怖をまた別の形で体験させてくれた。

ゼロ年代に体験したあの異質な恐怖を、同じ物語でありながらしかし10年代でなければ描き得なかった描写でもって再現してしまう。その志の高さに私は恐れ入ったのだ。

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脚注   [ + ]

01. レイモンド・ベンソン版『メタルギアソリッド2 サンズ・オブ・リバティ』でもこのシーンは描写されるが、『サブスタンスⅡ』のそれと比べるとあまりに物足りない。

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