【ネタバレ有り】対俺鬱ゲー – 『ウィザーズコンプレックス』をプレイ1

はじめに

今日一日、まるで仕事に身が入らなかった。思えば朝、起きた時から抜け殻気分だったんだ。

『ウィザーズコンプレックス』をプレイ中。
すでに竜胆ほのかルートと真名鶴一葉ルートを攻略済みで、進行状況も折り返し。昨日は神楽坂鳴ルートを攻略したのだが、こいつがとんだ難物で。翌日のコンディションにも響く始末である。

作品の良し悪しは置いておいて、鳴ルートのクライマックスシーンにはやられちまったんだ。なんなんだ、あの絶望感。もちろん、俺がシナリオライターの意図に沿わずにあるキャラクターに深く感情移入してしまったが故の絶望なのだが、キャラ萌え的にも大きな傷跡を残した鳴ルートについては特別書き残しておく必要性を感じ、こうして筆をとった次第である。

『ウィザーズコンプレックス』

ざっくり俯瞰

本作はジャンルで言えば異能学園バトル物である。
この世界の女性は魔力を持ち、それを使って魔法を扱うことができる——とくればもちろん、主人公は特異体質で男性で唯一例外的に魔力を持ち、男子禁制の魔女の学園に通うことになるという定番シチュエーションに発展する。
この設定に限らず、例えばここでは明かさないが主人公の持つ特殊な能力など、近年の異能学園バトル物にありがちなクリシェが連打されてやや辟易したりもするのだが、ストーリーテリングは丁寧でシナリオが絶対的に悪質ということはない。

物語の推進力として、主人公が通うこととなる国立御久仁学園の特殊なシステムが機能する。
魔女を養成する特殊な学園ということもあり世界中から魔女が集まるこの学園は、国内出身の生徒と留学生とで校舎が分かれている。
前者は東学舎塔、後者は西学舎塔と呼ばれ、双方の生徒会が独立して各棟を管理・運営している。
もちろん、主人公はなんやかんやあって東学舎塔の生徒会役員に任命されるわけだ。

そしてこの学園で最も大きな行事として魔法生徒会大戦というものがある。これは、双方の生徒会役員が塔を代表して魔法バトルをするというもので、先に3勝をあげた生徒会は校則を一つ変更する権利を持つというもの。
魔法バトルは毎回ルールが変わり、例えば学校中にばらまかれた魔法生物を撃墜した数を競ったり、魔法力で動く車でレースをしたりといったものでそれぞれ異なるゲーム性を持っている点は面白い。しかし、そのルールがいかにもシナリオ展開に対する御都合主義の匂いが感じられてしまい、若干のシラけ感もあったりするのだが……。

全生徒がこの一大イベントに注目し、自らが所属する塔の代表の勝利に熱狂する。それはつまり、国内組と留学生組が分断され、お互いがお互いに対してある種の感情を抱くということになる。その感情を競争心と呼んでもいいし、あるいは……皆まで言うまい。

俺なんかは、今まさにリアルで行われているWBC然り、ワールドカップ然り、国際スポーツ大会に熱狂する人々に対して唾棄するほどの嫌悪感を持っていたりする†01ので、この魔法生徒会大戦というシステムにより生じる歪んだ人間関係といったものには身を以て納得のいくものだった。
まさに、そのシステム自体に疑問を投げかけるほのかルートは決して嫌いになれないテーマ的な魅力があった。

鳴ルート。またの名を、ターニャルート

さて、そこで問題の鳴ルートである。

話を始める前に一つ告白すべきことがある。俺は圧倒的にターニャこと、タチアナ・M・パブロワ萌えである。
本作は、主人公が東塔の生徒会所属であるがゆえに敵対することとなる西塔生徒会のキャラクターたちを、攻略対象ヒロインのライバルポジションに位置づける。そこで、鳴のライバルとなるキャラクターがターニャということだ。

ターニャは、まずメガネキャラというだけで300メガネポイントを稼ぐあざといキャラ造形にグッとくるのだが、何と言ってもその他者を寄せ付けない孤高さ、一匹狼的な生き様が魅力のキャラクターだ。
世界トップクラスの格ゲーの腕を持つオタク娘でもあり、自分の世界感こそを至上の価値として外敵から護ろうとする。他人に理解されず、けれどそれで良しとする。ゴーイング・マイ・ウェイの体現者。

そんな彼女は鳴ルートのクライマックスで、その内側に抱えた世界観、そして夢を叫ぶこととなる。
もちろん、それは魔法バトルのルールがまさにそれをさせるためのルールを敷くことで彼女に強いることとなるのだが……。
そこでの彼女の心の叫びが、俺には効いた。その叫びの全てをここに引こう。

「現存する空中楼閣。ターニャはフィクションの夢を見る」
「現実とフィクションが違うなんて戯れ言は受け入れない。あくまで別物として楽しむなんて寝言は認めない」
「それって何言ってるかわかってる?」
「フィクションに憧れてわざわざ外国までやって来た人間はただのバカ?」
「夢と現実は別? 一緒にするのはバカのすること?」
「認めない。ターニャは自分がバカだとは認めない」
「男とくっついて何か解決した気になるリア充の理屈なんか受け入れない」
「夢現一如。夢はここにある」

「何者でもない存在」
「教室の後ろでじっとしてて、みんなからスルーされる存在」
「いてもいないものとして扱われる存在」
「それでも、何者かになれる。ありのままで、何者かになれる」
「普段着の超人。その高貴な精神を示したのが、この国の文化」

「スノッブな俗悪じゃない。高貴な精神ゆえに、世界中の迷える魂を引きつける」
「世界中の、何者でもない存在たちを」
「リア充のものって決まりきってるみたいに見えるこの世界。この国の文化は、それをひっくり返す夢を見せる」

「この国に来て、ターニャは理解した」
「ここでは、高貴な精神は軽んじられている」
「……結局、この国の人たちは認めてた」
「何者でもない存在が、ありのままで何者かになれる……そんな考えは妄想だって」
「ほんと、ありがちなオチ」
「ターニャの夢は、ただの夢だったってわけ?」
「現実は厳しい、だなんて。……くそったれ」
「ターニャは認めない」
「そんなくそったれなありがちは認めない」

「神楽坂 鳴。おまえは、そんなそんなくそったれを認めない側の人間だと思ってた」
「なのに、簡単に世界に屈した。……そう、おまえは敗者」
「ターニャに負けたんじゃない」
「西塔に負けたんじゃない」
「ゲームで負けたんじゃない」
「魔法生徒会大戦で負けたんじゃない」
「おまえは、世界に負けた」
「そんな人間を、すこしでも認めていたなんて」
「自分の愚かさに反吐が出る。さすがコミュ障、人を見る目がない」

「負け犬らしい言葉。だけどターニャは、負け犬なんかに負けない」
「高貴な精神を貶めることはしない。夢を現実で殴り倒すようなことはしない」

「この学園で、夢を現実にする! ——最高の生徒会を築き上げる!」

「何者でもない存在のために世界はある!!」

……孤高でオタクな魔女の魂が叫ぶ夢はしかし、エロゲー的世界観を前に敗北する。
彼女は攻略対象ヒロインではない†02。攻略対象ヒロインの、ライバルなのだ。
だから彼女は、主人公と結ばれたことでどう見繕っても「リア充」に堕した鳴に対して勝つことはできない。
このエロゲーは、少なくとも鳴ルートは、間違ってくれない正しくあってしまう

俺は、フィクションの中でくらいは、間違っても良いと思うんだ。間違った人間が、間違ったまま突き進んで、そんな間違ってるかもしれないけれど信念だけは貫き通した、そんな姿に惹かれるんだ。

そんな俺の趣味趣向は、まさにターニャの夢そのものだった。フィクションの存在であるターニャの夢は、多分、リアルの存在である俺の夢と限りなく近かったのだ。
だから、正しくハッピーエンドを迎えるこの物語は、俺にとってはこの上ない鬱物語だった。
夢は挫折する。リア充のものって決まりきってるこの世界にほだされて——。

おわりに

鳴ルートは、そしてターニャというキャラクターは、きっと俺にとって忘れらないものとなるだろう。
どうあがいても正しくあってしまう世界の中で、真に間違えたかった存在の叫びには、闇い爽快感があった。
そんな爽快感を挫く光はきっと、俺の世界をつまらなくする。

果てしなくメタ的で、果てしなく個人的な。対俺鬱ゲー認定である。

本記事投稿後の関連ツイート

脚注

脚注
01ツイッターがWBCで盛り上がっている現在、タイムラインを見るのを控えているレベルであの手の熱狂は苦手である。
02おまけ的にエッチシーン付きのサブストーリーはあるが、まだ未プレイ。
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