『スマガ』レビュー

"生きたり 死んだり 僕らは 恐れず これからはそうさ"

スマガ Nitro The Best! Vol.6
ニトロプラス (2013-10-18)
点数ブランドプレイ時間
100点ニトロプラス約45時間
シナリオ
下倉バイオ
原画
津路参汰
紹介サイト
人生リベンジADV『スマガ』特設 - 『スマガ』&『スマガスペシャル』公式
備考
 


目を覚ますと空から落ちていた。どうやら記憶を失っているらしく自分の名前も思い出せない。そんな主人公が落ちながらに出逢った空飛ぶ3人の少女たち――スピカミラガーネットは、セカイにとっての脅威である悪魔(ゾディアック)と戦う魔女(エトワール)だった。

そんなメインヒロインたちとの出逢いの直後に地面へと激突した主人公は天国へ直行。しかし、天国に置かれた巨大テレビ越しに対面した神様(幼女と眉毛犬)に気に入られた主人公はうんこマンと名付けられ、人生をやりなおすチャンスを授かる。

セカイを救えるような特殊能力もなければ、悪魔と戦う魔女たちを救える根拠もない。つい先程体験したばかりの死の痛みと恐怖には思わず縮み上がる。だけど、こんな意味不明なままで人生を終わらせてたまるかと、うんこマンは甦りの扉めがけて走り出す。

こうして死ぬ直前から人生をやり直せる人生リベンジ能力を手にしたうんこマンは、ヒロインたちとの完璧なハッピーエンドを目指して度重なる死闘へと身を投じる。そんな、少し変わったタイムループ物語のはじまりはじまり。

まずは何と言ってもゲームタイトルが素晴らしい。『スマガ』。このシンプルな三文字にはどこか少年漫画的な響きがあり、うんこマンの熱血漢っぷりともイメージが合致する。それぞれの子音であるS・M・Gは本編のいたる所で印象的に使われ、セカイ観(本作では「世界」を「セカイ」と表記する)に厚みをもたせる演出にも寄与している。

そんな本作のセカイ観を簡単に紹介しよう。舞台となる伊都夏市は20年前より不可視の巨大怪獣である悪魔による空襲(メテオライト)が絶えない地方都市。悪魔に対抗できるのは箒に跨り、魔力(リネア)を操ることができる魔女たちのみ。はじめは88人いた魔女も度重なる闘いの中で次々と墜とされ、先述した3人が今の戦力の全てである。

セカイを護る使命を背負った彼女たちに逃走は許されない。悪魔と同じく20年前に突如として伊都夏市を覆った天蓋(グレンツェン)は非物理的なドーム状の壁であり、それを通り抜けた人間は記憶が失われるという。悪魔と天蓋という2つの謎が、ヒロインたちの終わりのない戦いを作り出し、悲劇的なエンディングへのレールを敷いているのだ。

セカイの謎を解き明かし、不幸を背負ったヒロインを救い出す――そんなストレートなエンタメ性を孕んだ物語は、「人生をやり直す」という誰もが抱くであろう欲求を具現化した人生リベンジ能力をテコとして、とんでもない所までプレイヤーをぶっ飛ばす。

つまりは「ストレートなエンタメ性」×「誰もが抱く欲求」=「面白いシナリオ」なのである。いったい誰がこの方程式に異論を唱えられようか。

そんな本作がまとう雰囲気も特徴的だ。とにかくひたすらにポップなのである。

津路参汰によるキャラクターデザインはメインヒロイン三人娘を見て分かる通りカラフルで目に楽しい。生き死にというシビアな題材を扱っているにも関わらず「うんこマン」という主人公の名称が重苦しい雰囲気をうまく外してくれる。そして何より、作中サウンドをプロデュースしたSwinging Popsicleがグループ名そのままにポップでキャッチーな楽曲の数々を提供し、作品雰囲気を決定的なものにしている。

このポップさは、ただオシャレで楽しいだけでなく、きちんと本作のテーマにも応用される。そのテーマとは……ここで多くは語るまい。それは、ポップにデザインされたセカイの中で七転び八起きするキャラクターたちの姿から見いだしていただきたい。

しかし本作のサブテーマについては言及しておこう。本作はうんこマンの人生リベンジ能力という仕掛けを活用して美少女ゲーム・アドベンチャーゲームに対する批評性を獲得しているのだ。

浅いところで言えば、うんこマンの人生リベンジ能力はプレイヤーである我々がセーブデータをロードしたり、はじめからゲームをやり直すこととどう違うのか? もう少し踏み込むと、分岐した物語をそれぞれ知覚することにより、ヒロイン自身にとって身に覚えのない記憶を主人公(=プレイヤー)だけが保持してしまうとはどういうことなのか? こういった問いが物語の中で投げかけられる。

これらの批評性から導出される物語は人生リベンジを繰り返すことで表面化し、うんこマンにとってもプレイヤーにとっても厄介な問題となっていく。時間がループしているのだから起こる出来事の大枠は変わらないにも関わらず、物語の着眼点、平たく言えば面白さのポイントだけが次々とスライドしていくのが、ループものとして巧みと言わざるをえない。

加えて、ルートロックの概念に物語的な意味を与えたりなど、ゲームという「物語を載せるメディア」そのものを物語で包み込もうとする野心的な試みが多く見られる点も評価したい。

以上、主にシナリオとゲームデザインについて言及してきたが、私が一番評価したい点はとにもかくにもキャラクターなのである。見た目的にも、性格的にもカラーの異なる3人の魔女を含めて、破滅に直面したセカイで自らの存在理由と幸福を追い求める個性豊かなキャラクターたちに胸を打たれっぱなしだった。

メインヒロインではスピカを特別に挙げたい。「天才魔女」を自称し、斜に構えた態度で孤高ぶってはみるものの、実は一番自らの運命に対する諦めの念を抱いた少女。そんな彼女の儚さが、僅かな時間の交流でありながらうんこマンに人生リベンジを決意させることを考えると、ある意味で『スマガ』という物語の元凶のひとりと言えるだろう。

サブヒロインの中では魔女たちの司令官でありながらジョーカー的な振る舞いも見せるアリデッドと、本作のコメディ的おバカさとエロゲー的サービスをブーストさせる神出鬼没の妄想暴走系新聞部部長・日下部雨火がお気に入り。どちらもなかなかお目にかかれないレベルのぶっ飛んだキャラ造形だ。

ぶっ飛んだキャラに、ぶっ飛んだ発想。いかにもエロゲー的な快感第一のご都合主義が、運命なんてツマラナイものをぶっ飛ばす。完璧なハッピーエンドを祝福する花火(スターマイン)が打ち上がるその瞬間まで。走れ、うんこマン!


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