【ネタバレ有り】たったひとつの、私が本作を好きな理由 – 『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』を観る

はじめに

最近はリアルのお仕事が繁忙なためエロゲも進まず、休日に観る映画の量も絞っている有様だ。
当然ブログを書く時間などとれず、先月中頃に『スマガ』の100点レビューを書いたのを最後に放置していた。
できることなら、なぜ私が『スマガ』という作品に100点という言わば”特別”な採点をしたか、そんな総括を含めたネタバレ評を次の記事としたかったのだが、それは執筆カロリーが高すぎてとてもこの忙しい時期にまとめることなどできない。

そんなタイミングで、今回取り上げる新房版『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』を観た。
公開二日目の8月19日。
当然のこと、公開初日の段階で非常に厳しい世評がネット上で形成されていたことも知って……はいなかった。それくらいマジでリアルで忙しいんす。
その中で、本作鑑賞直後の私のツイートがこちら。

「超好き」、である。

世評の悪い中、好きになってしまった作品ということもあり、そして「とある都合の良さ」もあって、執筆カロリーを低めに抑えようと縛りを設けた上で比較的常識的な時間に帰宅できた本日に私の思いをまとめたい。

いきなり結論

ずばり、私が『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』という作品が好きなたったひとつの理由は、「『スマガ』に似ているから」である。

……はいそこ、ブラウザバックしない。

確かに、「好きになった理由」としてはいささか不純な感じは否めないが、新房版『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』と『スマガ』は多くの共通点を持つことは間違いない。
なおかつ、私は『スマガ』という作品に直近で100点という”特別”な点数を付けるほどに溺愛しているのだ。だから、それに似た作品ときたらそりゃあある程度は私のツボを押さえているワケでして。100点とは言わずとも「超好き」くらいは言いたくなる。

ここで両作を鑑賞/プレイ済みの方は共通点を思い浮かべていることだろう。
まずはネタバレにならない程度の表面的な部分から、次の共通点が挙げられる。

  • 『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』と『スマガ』(a.k.a.『打上花火少女隊』†01)、どちらも「打ち上げ花火」がひとつのモチーフとなっている
  • 主人公が同じ時間を繰り返す「ループもの」である

そしてもちろん、ネタバレレベルの部分でも共通点が有り、そこが肝なのだ。

以下、少し空行を挟んだ後に『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』のネタバレはもちろん、『スマガ』についてもある隠された仕掛けを察せられる程度の言及をするため、読み進める際はご注意を†02

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「物語る物語」構造

先述したとおり、『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』はループ構造を持つ作品である。
それを確認した上で、私は本作について、表面上のループ構造を更に包み込む別の構造に注目しており、ずばりそこに惹かれているのだ。
その構造とは、名付けるならば本章タイトルに掲げている「物語<ものがた>る物語」構造である。

別に一般的な定義なんてない私の好む物語のパターンに対して勝手に命名しただけのものだが、一応この構造について説明しよう。

主人公を含む、ある登場人物が「キツい現実」に直面したとき、妄想、あるいはそれに近い思索でもってその現実から逃避を図る。その人物は妄想すること——物語ること——を通して「キツい現実」を超克するための「鍵」を得て、現実へと帰還する。
これが基本構造だ。

基本的に、この構造を持つ作品は「その物語自体が作中の登場人物により物語られているものである」という情報が伏せられているものだ。故に、ある作品を指して「これは「物語る物語」構造だ」と発言するということは、この構造を意識している私にとっては結構なネタバレになってしまう。
そんな中で、数少ないネタバレにならない例を提示しよう、ザック・スナイダー監督作『エンジェル・ウォーズ』である。

本作はまんま上記の説明に当てはまる。
父親にハメられた主人公は精神病院に入れられ、ロボトミー手術を受けることになる(「キツい現実」)。手術の日までに主人公は病院から脱出すべく、同じく患者として囚われた4人の少女と協力して脱出のための5つのアイテム(鍵)を集めることになるのだが、何故かそのアイテムを入手するシーンがファンタジックでフィクショナルな世界での戦闘シーンとして描かれる(妄想する・物語る)。

さて、この構造に当てはめて『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』を見てみよう。
本作は岩井版には存在しない「もしも玉」という小道具が追加されている。
主人公である典道はこの「もしも玉」を投げることで希望する時間へと遡り、「もしも」と願った通りの方向へと物語が分岐する。
こうして見ると確かにタイムループの構造は持つ。そして、この「もしも」が叶った世界は明らかに現実ではない。
そのことは、一周目(=なずなが母親に連れて行かれ、引っ越す現実)で祐介は「花火なんて丸いに決まってんじゃん」と発言するのにかかわらず、二周目(=水泳対決で典道が勝つ世界)では同じタイミング・シチュエーションで「平べったい」と即答することから察せられる。そして実際に、二周目の終点で典道は平べったい花火——非現実的な風景——を目にすることとなる。
しかも、三周目(=なずなと電車に乗る世界)の冒頭ではそれまでの絵のタッチと異なる色鉛筆調のタッチで始まり、それまでの世界と異なることをまさに画で示している。しかもこの三周目からは輪をかけて非現実性・虚構性が増していく。恐らく多くの観客がひっくりかえったか頭を悩ませたかしたであろう、松田聖子からの馬車に乗って飛び立つシーンなどはその虚構描写の筆頭だろう。

そう、「もしも」が叶った世界はやはり現実ではない。現実ではなく、妄想・想像・物語の類なのだ。それも、典道の過去を改変したいという願望に沿った物語。故に、タイムループのように(表面上は)見えるのである。
従って、「もしも」=「現実でなかったこと」を繰り返すことで、どんどん現実から乖離していく物語は虚構性を増していく。

そんな典道の物語を物語として成り立たせるための小道具が「もしも玉」だ。
不思議な光の屈折を見せるこの玉は、『スマガ』におけるミュトス†03である。典道の「もしも」を宿した玉が発する光によって、現実の中に典道の物語が投影されるのだ。それはあたかも、現実のスクリーンに映写される映画のように。

典道は自分の「もしも」を重ねた物語のクライマックスでなずなとの再開を約束する。この約束こそが「物語る物語」構造における「鍵」だ。以上より、映画の最後、二学期の教室になぜ典道が居ないかという映画から観客への問いかけは、少なくとも私の解釈においては一通りの答えしかない考えるが、どうだろう†04

好きな理由の、その原因

この「物語る物語」構造はどうやら賛否が別れやすい傾向にあるようだ。
今回の『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』はもとより、先述した『エンジェル・ウォーズ』も激烈な否定派が多い。

今回の『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』に限って言えば、主人公である典道の物語の中でハッピーエンドを迎えてもそれは所詮夢でしかなく、しかもそこで不都合な事象が起きても「もしも玉」を投げれば解決、という風に見えてしまい「甘ったれんな」という否定意見を見た。割とその通りだと思う。
しかし、私はこの「物語る物語」構造を持った物語……というより、物語る登場人物に対してどうしても感情移入してしまう。私自身、キツい現実に対抗する手段として用いる武器が物語(この単語が格好つけ過ぎと思われるならば想像でも妄想でもいい)だからだ。

希実香「文学じゃ敵は倒せないよ……敵を倒す学問は化学と物理のみ!」
ざくろ「くす、くす、でも文学は負けないよ」
希実香「負けない?」
ざくろ「だから、私は戦えるんだよ……」
ざくろ「文学は勝つための学問じゃなくて……負けないための学問だよ……」

『素晴らしき日々』より

更に、『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』のクライマックスで「もしも玉」を花火のように打ち上げると、その欠片はあらゆる登場人物の夢、あるいは現実とのギャップを映し出す。
キツい現実と夢とのギャップを前にして戦っているのは典道だけでないことが示されるのだ。祐介も、なずなも……己の夢に対して自らを拘束する「子供」という足枷に抗いたいという気持ちに私は思わず共感してしまう。

だから、この幻想的な景色の中で再開を約束する典道となずなの二人の姿に、この歌詞を重ねざるを得なかった。

ちっぽけな臆病風が この手の中で
火花のように散っていく すべてが

『スマガ』主題歌「(a)SLOW START」より

おわりに

やだ、この記事の執筆カロリー高過ぎ……?
でもこれくらいの熱量はあるってことで。
それに、なずなについてこれっぽっちも触れていない『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』評もレアなんじゃないかと思います。彼女、エロいです。最高です。

でもここまでの評を無しにして正直なところを言うと、今劇場でまっさきに観るべきとオススメしたい映画は『ベイビー・ドライバー』です。
こいつはどれだけ言葉を重ねても映画そのものを超えることが難しい「いきなり観て超楽しい」系の映画なので、とにかく以下の冒頭6分間のカーチェイスシーンを観てくだせえ。絶対鑑賞したくなるから!


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ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント (2014-06-25)
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脚注

脚注
01サブタイトルの「STAR MINE GIRL」より、今思いついた
02想定読者層狭すぎィ!
03『スマガ』の内容を知らない・忘れた人向けに簡単に説明すると、ミュトスとは天象儀(カール・ツァイス)と呼ばれる天文台に設置された巨大な投影機で、物語セカイを映し出す装置である。故に、人類の敵である悪魔(ゾディアック)によって破壊されるとセカイは消失してしまう。
04さすがにその答えをそのまま書き記すのは野暮ってもんだぜ。
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