勝手にふるえてろ – 『勝手にふるえてろ』を観る

はじめに

今年一回目の映画鑑賞。
実は『キングスマン ゴールデン・サークル』を先に見てからの『勝手にふるえてろ』という順番だった。
『キングスマン ゴールデン・サークル』については鑑賞直後のツイートを掲載するだけで留めておく。

前作が年間ベスト級に好きだっただけに、正直ちょっと落胆していた。
だからこそ、その直後に口コミで話題になっていたのが気になって鑑賞した『勝手にふるえてろ』に余計ヤラれたのかもしれない。

作品概要

24歳のOLヨシカは中学の同級生”イチ”へ10年間片思い中!
過去のイチとの思い出を召喚したり、趣味である絶滅した動物について夜通し調べたり、博物館からアンモナイトを払い下げてもらったりと、1人忙しい毎日。
そんなヨシカの前へ会社の同期で熱烈に会いしてくれる”リアル恋愛”の彼氏”ニ”が突然現れた!!
「人生初告られた!」とテンションがあがるも、いまいちニとの関係に乗り切れないヨシカ。
まったくタイプではないニへの態度は冷たい。
ある出来事をきっかけに「一目でいいから、今のイチに会って前のめりに死んでいこうと思ったんです」と思い立ち、同級生の名を騙り同窓会を計画。ついに再会の日が訪れるのだが・・・。

映画『勝手にふるえてろ』公式サイト イントロダクションより

原作は『蹴りたい背中』で有名な綿矢りさの同名小説。

「暴走ラブコメ」と銘打たれているが、その笑いの根底にあるのはコミュ障で非モテで処女(童貞)で……そんな現実を直視することで、この身を彫刻刀でザクザクと削られた結果残る「痛い自分」を浮かび上がらせることだった。

自意識をこじらせたオタクと非モテは必見の一作である。
逆に言えば、ただのラブコメイメージで軽い気持ちの非非モテには絶対に観せたくない。しかし、まさかこのブログの読者にそんな奴はいないだろう。

松岡茉優 = ヨシカ

なんといっても主演の松岡茉優の魅力が本作を成り立たせていると言っても過言でない。

個人的には、オールタイムベスト級の邦画『桐島、部活やめるってよ』でのリアルにいそうなクラスの中心的女子を非常にリアルに演じていたのが印象深い†01。今作で演じたヨシカとは真逆の人物だ。
また、『ちはやふる 下の句』ではかるたクイーン・若宮詩暢を演じ、今作にも通じるコメディタッチなキャラクター演技を見せていた。

元々実力派というイメージがあったが、映画初主演で最初から最後まで出ずっぱり・喋りっぱなしな役を演じた今作でコメディエンヌとしての実力をフルに発揮、きっと彼女にとっての代表的キャラクターとなっていくだろう。

ヨシカ ≒ 私

そしてヨシカというキャラクターは上に載せたツイートで言及しているとおり、私に通じるところがある。

表面的なところでは、雪国出身・上京組である点、悪態の表現が基本「ファック」である点、ときに自分が無敵に思えてしまう点、そんな痛々しさを自覚しつつも声に出してしまう独り言体質な点。

しかし、それらの特徴を生み出す原因であり、かつ根底の共通点は、長期の脳内恋愛をし続けているという点だ。

ヨシカは中学時代の片思いを脳内で10年継続している非モテ女子。
私は片思いではなく二次元だが、脳内恋愛という意味では共通する。しかも私は現在11年目だ。

脳内恋愛を長く続けると、その誰かを愛し続けた時間を裏切ることが出来なくなる。
結果として、現実恋愛に対してどんどんと距離が離れていくのだ。

投資した額が大きくなればなるほど損失が生じると分かっていてもそれまでの投資が惜しくなり引き返せなくなることをコンコルド効果と呼ぶが、現実恋愛をしないことを損失とみなすような方の目には私やヨシカの行動がまさにコンコルド効果のように映るのかもしれない。

しかし、私も(映画中盤までの)ヨシカも現実恋愛にコミットしないことを損失とは見なしていない。
今作では次に述べる映画的演出でもってそのことを間接的に主張している。

内側の世界/外側の世界

恋は人を変えるという。
しかし、私たちは他者が真に恋をしているかどうか、それを確かめる術はない。

この現実は我々の共有財産だが、その財産の使い方は人それぞれであり、それを他人が覗くことが出来ないのだ。

しかし、ヨシカの脳内恋愛は映画という「他人の人生(脳内すらも!)を覗く装置」を通すことで、その恋が真であることを実感できる。

人はそれぞれ自分の内側の世界と外側の世界を持つ。
「ミュージカル映画なんて、突然踊りだすから変だ」という愚者がたまにいるが、ミュージカル映画の登場人物にとっては確かに世界が踊りだしているように映るんだ。外側の世界から眺めていてもそんなことは分かりっこない。

『勝手にふるえてろ』という映画は「脳内恋愛」というギミックに導かれて、ヨシカにとっての「内側の世界」と「外側の世界」を意識して描き分ける。
ある出来事をきっかけにその二つの世界の均衡が崩れたとき、映画が映しだす世界ががらりと変容する。そこが非常にスリリングだ。

脳内恋愛フレンズとしては、崩れいくヨシカを励ましてあげたかった。応援してあげたかった。……うん、あげたかった。
でもアイツ、最後は私にとっては鑑賞直後のツイートで「裏切り者」と思わず言い出したくて仕方のない結末を迎えやがるのがな。そこがほんとダメ。ダメのダメダメ。堕落する準備がまるでできていなかった。

それが本当に悔しくて、だから私はこの恋を好きにはなれない。勝手にふるえてろ。

しかし、私としては恋にこじらされた人物の狂騒した内側の世界を覗ける女性版『(500)日のサマー』として、傑作恋愛映画の棚に収めておきたい一作だった。

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脚注

脚注
01だから松岡茉優に対して若干「恐ろしい」というイメージがあった。
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