『ぼくの一人戦争』レビュー
by こーしんりょー · 公開済み · 最終更新
"力強いエンジンを積んだ継ぎ接ぎ車"
「タワーディフェンスゲーム」というゲームジャンルがある。プレイヤーは王となり、迫り来る多数の敵キャラクターに侵攻されぬよう、兵を使役することで防衛する――というのが基本的な内容だ。
『ぼくの一人戦争』において主人公たちが巻き込まれる「戦争」とは、「会」という怪奇現象を指す。「会」ではまるでタワーディフェンスゲームのように、主人公を王とし、周囲の友人たちを兵として、謎の敵と戦うこととなる。
兵を呼び出すことしかできない無力な王と、そんな王を護るために戦う兵。その間には堅い信頼関係があってしかるべきだ。そして、「会」はまさにそこを突いてくる。戦いを通して見えてくる絆――それが、『ぼくの一人戦争』のテーマだ。
本作はミドルプライスで、選択肢が存在しない一本道。攻略対象ヒロインを一人に絞るという方針を取っている。従って、まずはメインヒロインである犬塚 るみを好きになれなければ話にならない。
犬塚るみは、ゲーム開始時点ですでに主人公と婚約しているクラスメイトの女の子。家庭的で、優しく、男性慣れしていないため主人公と触れ合うだけでぴょんぴょん跳ねちゃう。主人公への一途な想いが力強く描かれ、不快になる要素はほとんどないと言っていいだろう。黒髪ロングにあどけない笑顔が、「会」において見せる勇敢さとのギャップも生む。
そう、本作の物語は「会」を中心に転がり、この「会」の設定によって多面的な物語が展開される。「会」における戦闘に燃えるバトルものとしての一面、「会」の謎を解いていくミステリーとしての一面、「会」に取り憑かれた人間が壊れていく様を見る難病ものとしての一面……などなど、物語を盛り上げるための種が「会」の設定には潤沢に含まれている。
しかし、「会」の設定があまりにも「ゲーム的」なご都合主義(お約束)をベースにしているために、物語に不自然さを生じさせてしまっているという問題がある。また、「会」の謎を解くというミステリー的な仕掛けのために、大事な情報が後から暴かれていくという展開に陥りがちで、ご都合主義的な後出しジャンケンで辻褄合わせをされるようなおさまりの悪さもある。
そもそも、本作は初めからノベルゲームとして開発されたのか? という疑問も残る。購入者特典として「会」を模したタワーディフェンスゲームが公式から配布されている(本レビューでは割愛)が、技術的な都合か、物語との整合性の問題かは知らないが、初めはこのゲームが組み込まれた形でリリースする企画だったと考えるのが自然だろう。従って、本作からは本来あったはずのものが欠けているような歪さも感じられる。
それでもなお、クライマックスへの盛り上がりにはあり余るほどのパワーがあり、たとえ物語上の欠点の多くが丸見えになっていようとも生理的に泣かされてしまう。この盛り上げ上手っぷりは評価しないわけにはいかないポイントだろう。
クライマックス以外では、ストーリー中盤において展開されるサブヒロインの一人、錦戸 結花を中心とした物語が好みだった。自己評価の低かった少女が、「会」を通してある大切なモノを失い、それを取り戻そうと勇気を振り絞って行動を起こすという王道な物語を丁寧に描いている。
演出・音楽などの的確さも、ベタなところもあるが、物語の盛り上がりに一役買っている。少し変わった演出としてはBGMの使い方が挙げられるだろう。あるシーンで流れるBGMが、アイキャッチを挟んでもなお流れ続けてそのまま次のシーンへと移行する。こうすることで、物語の雰囲気を途切れさせることなく違和感や緊張感を持続させる。
音楽単品としては、やはりOPソングの『sacrifice Love』を取り上げたい。「会」での戦いを想起させる激しい曲調だが、一方で、大切な人のために犠牲になることも構わないと歌う歌詞の切なさも物語とリンクしてグッとくるものがある。
総じて見ると、明らかな欠点や歪なところが散見されるが、それを承知で走り抜けるパワフルさも併せ持った一作となるか。歪な点に関してはそもそも企画自体に問題があったのではないかと邪推したくなるが、それでもここまでまとめ上げた底力には感服する。多くの欠点に目を瞑れるならば、パワフルな小品として楽しめるだろう。