『蒼天のセレナリア Full voice ReBORN』レビュー
by こーしんりょー · 公開済み · 最終更新
"未知なるものへの探求は、誰しもが持つ強い欲求である……特に男の子ならば!"
ライアーソフトの看板シリーズであるスチームパンクシリーズ第一作目のフルボイス版。
本作起動時に流れるOP曲『ジュブナイル』が幼き日の冒険心をいきなり刺激する。未知の世界を舞台に小型飛行船で旅をするというコンセプトに惹かれるならば、本作はずばりオススメだ。
蒸気機関が異常に発達した世界。水も大気も濁った世界に生きる女性主人公のコニー・イル・リクールは、帝国に追われる少女ヤーロを救う。彼女らは逃亡の末に世界の果てと恐れられる《世界の水殻》をくぐり抜け、青空の続く未知世界へとたどり着くが、その後すぐにヤーロは姿をくらましてしまう。そこでコニーは目的をヤーロを見つけ出すことと定め、相棒のシェラ・マキスとともに、小型飛行船ウルメンシュを駆り未知世界での旅を始める。
広大な世界を旅する感覚は他のエロゲではなかなか味わえないユニークな魅力であり、それはまさしく冒険活劇。そのワクワク感を強く演出するために、脚本の細部にまで工夫が凝らされているのはもちろん、実際にウルメンシュを操作するSLGパートも用意されている。
専門用語や造語、本編に深く関わらない人物名などが事前に説明のないまま次々と使われる脚本には賛否が別れるかもしれないが、世界観の雰囲気に酔わせる演出として効いている。加えて寓話的な「おとぎ話」を各話の途中で挿入し、それが物語とリンクしていく点も面白い。一方で、この世界観にさっぱり酔えない方には抽象度が高く、とっつきにくい物語に映るかもしれない。
SLGパートはマップ上のウルメンシュを上下左右へと動かしていき、残り燃料に注意しつつ目的地へと向かうというもの。中継地点となる街では交易や情報収集などができる。様々なアクシデントに見まわれながらも街から街へと移動する感覚は旅そのもの。しかし物語本編との関わりはやや薄いため、物語だけを楽しみたいという人には向かない。一応、ゲーム開始時にゲームパートのスキップ設定が可能ではあるが……。
以上から分かるように「未知世界を旅する」というコンセプトに乗れないならば、本作を楽しむのは少し辛いかもしれない。
街から街へと旅をするという物語ゆえに、たくさんのキャラクターが登場するがその誰もが個性的だ。未知世界には人間以外の種も言語を話し、鳥類やトカゲ、果ては魚そのものな外見のキャラクターなどがおり見た目だけでも楽しい。
個人的には敵となる帝国サイドに惹かれるキャラクターが多く、ルビーマンことドゥーガ・ル・ビィ・アダムや、理想の上司と言っても差し支えないほどにかっこいいマタイオス・ノン=デュなどがお気に入り。あれ、男ばかり……。
女性主人公のコニーも頭が切れ、「自分のできることをする」という信条のもと、助けを求める人たちへと手を伸ばす。その様はかっこよく魅力的。
ビジュアル面はややクセのある画風ながらも、そのタッチで描かれる多彩なキャラデザインは世界観にマッチしている。その他ウルメンシュなどのメカデザインや建造物、背景などもスチームパンク&ファンタジーな世界観を補強している。
音楽は本作の大きな魅力のひとつ。暗い既知世界と、明るい未知世界でトーンの異なる音楽は、その数はやや少なめながらもどれも耳に残る。個人的には既知世界サイドでは『VS帝国』、未知世界サイドでは『日常B』がお気に入り。
見たことのない美しい青空が続く世界と、個性的な語り口で展開される物語。本作に続く他のスチームパンクシリーズにも手を伸ばしたくなるほどに酔うことのできる、ロマン溢れる一作だった。
【積みゲー崩し日記リンク】
- 積みゲー崩し日記『蒼天のセレナリア Full voice ReBORN』その1(前ブログ)
- ワクワク・ドキドキとファーストインプレッション