『ひとりのクオリア』レビュー
by こーしんりょー · 公開済み · 最終更新
"ひとりのクオリア"
点数 | ブランド | プレイ時間 |
65点 | 10mile | 約8時間 |
シナリオ | ||
J-MENT | ||
原画 | ||
笛 | ||
紹介サイト | ||
「ひとりのクオリア」「ふたりのクオリア」「クロスクオリアセット」 | ||
備考 | ||
・姉妹作『ふたりのクオリア』と同日発売 |
『ひとりのクオリア』は、姉妹作『ふたりのクオリア』と合わせて二作に分けて発売されたロープライス作品である。こちらのレビューでは『ひとりのクオリア』のシナリオをメインに、『ふたりのクオリア』と共通する基本情報もまとめて掲載することとする。
たとえコミュニケーションが可能でも伝えることのできない感覚がある。そんな、他者に理解されない感覚を強めていくと、人は孤独を感じてしまう。本シリーズでは、そんな孤独をいかにして癒やしてあげられるかということがひとつのテーマとして挙げられるだろう。
どちらの作品も「ある特異な感覚」を持つ少女の元に、どこかミステリアスな少女が同居しに来るという展開で統一されている。同様のアプローチで、異なるカップリングの少女たちが同性愛関係に至るまでが描かれる。そこでは徹底して男性キャラを物語に絡めない姿勢が貫かれており実に潔い。
ゲーム形式としては珍しく縦書き表示のノベル形式が採用されている。それに加えて、
・主要キャラ二人の心情描写を交互に展開することで、どちらか一方に感情移入させない。
・テキスト表示されない音声(主観主が聞き逃した呟きや、電話先の声など)を流す。
などといった演出の工夫により、少女たちの交流を外側から「見守っていく」スタイルへとプレイヤーを自然に誘導させたいという狙いが感じられる。さすが百合に造詣が深いクリエイター陣なだけあって、この視点の置きどころは外さない。
システムと音楽は当然両作とも同じものが用いられている。システムはデザイン面で古臭さがあるものの、現在の必要最低限はきっちり揃えられている印象。現在(2014/10/23)はまだ公開されていないが、後日システム強化パッチを配布されるらしい。音楽に関してはロープライス作ということもあってかボーカル曲はないが、全体的に良質なBGMがそろえられている。個人的に日常BGMのひとつ、『九十九折りサイクリング』の軽快な感じがお気に入りである。
また、特典のドラマCDはどちらも必聴。両作中でカットされているデートシーンが収録されている。
さて、ではここから『ひとりのクオリア』のシナリオについて言及しよう。
毎日ネトゲ三昧の引きこもり少女・美鷹 真希理は、交通事故目前のところを謎の少女・早房 花梨に助けられる。後日再開した二人は、真希理の強引さもあって、同棲生活を始めることになる。
物語の骨格として、引きこもり生活を続ける真希理を復学させようという目標がある。ここで、真希理が引きこもった理由が複合的に語られるため分かりにくかったり、その解決がややご都合主義的であったりするなど、物語のスケールが小さい割には粗が見られるのが惜しい。
では本作の魅力は一体どこにあるのかというと、それは彼女たちの繊細な心理描写の積み重ねにある。花梨のかっこよさに惹かれる真希理は、そのマイペースさから花梨との適切な距離感をなかなか掴めずにいつも空回りしてしまう。花梨は花梨で、ぐうたらな真希理の生活を改善しようと奔走するが、なかなか上手くいかずヤキモキしてしまう。
そんな二人がときに喧嘩し、ときに笑い合う。互いの心の距離が縮み、離れ、そしてまた縮んでいく。コミュニケーションの難しさに直面して迷う彼女たちを、プレイヤーはまさに「見守っていく」。そんなハラハラ感と幸福感とが、他にはあまりない本作ならではの味である。
エッチシーンに関してはあまり過激に見せないという方針故か、ここから本番というタイミングでシーンがカットされてしまう。作品雰囲気との兼ね合いを考えれば理解できるが、個人的にはもう少し見せて欲しかったかなというのが本音。
『ふたりのクオリア』の登場人物との絡みはあるが、「真希理の復学」というストーリーラインの当事者視点であることから、どちらかと言えばこちらの方が単体作品として綺麗に閉じている印象がある。従って、両作ともプレイするつもりならば『ひとりのクオリア』からプレイすることをオススメしたい。
さ、一仕事終わったし牛丼を食べに行こう。