『相思相愛ロリータ』レビュー
by こーしんりょー · 公開済み · 最終更新
大の大人の男でも、往々にして誰かに甘えたくなるときがある。誰に甘えたいかは人それぞれ、嗜好によりけりだが、私はどうせなら若い――を通り越して幼い――少女にこそ甘えたい。『相思相愛ロリータ』はそんな甘えた願望を満たしてくれる、ひとりの少女に甘えることに特化したビジュアルノベルだ。
社会の荒波にもまれ、日々疲労だけを背負って生活する主人公はある日、混雑した電車の中で少女と出逢う。身体の小さな彼女を気遣い、疲れた心身をなんとか総動員して彼女のためにスペースを作ってやると、彼女はこちらを見上げて笑ってくれる。こうして彼女に気に入られた主人公は少女・千島 まこと交流を重ねていく。
一見して、小学校中~高学年ほどの見た目の幼い少女とラブイチャでくんずほぐれつな印象を受けるタイトルやパッケージで、もちろんその手の欲求にも十分に応えるロリータジャンルの一作としての面も強いのだが、本作はそれだけに終わらない。
まずは開始早々、プレイ開始直後から展開される主人公のくたびれた心理描写に感心。まこちゃんとの会話を通して彼女の中に幼き日の自分を見つけ、それを今の自分と比較する心の動きが非常にリアル。
社会に出て、仕事をして、だから「大人らしく」振る舞う必要があって、そうやって擦り切れていく男。しかしその魂は、好きになった、そして好きでいてくれる少女の前でだけは子供に還る。この「子供に還る」気持ち、その心地よさには共感できる。見た目や会話だけを抽出すれば大人の男と幼い少女の恋愛なのだが、それが次第に少年少女の恋愛にも見えてくるから不思議だ。
本作はそんな主人公の心の機微を描き出し、それを読むプレイヤーをも巻き込んで子供に還らされる。その筆力と、後述するまこちゃんという特異なキャラクターとの相乗効果が産み出す、プレイヤーをある意味で堕落させるパワーは強烈。内容はこれ以上なくミニマムなストーリーだが、読み物としての完成度は極めて高いといえる。
それでは本作の肝心要であるヒロイン・まこちゃんに目を向けてみよう。タイトルの「ロリータ」を満たす幼いルックスで、詳細は語られないが複雑な家庭の生まれで普段は施設で生活しているらしく、そこで更に幼い子たちと接しているためか癖になっているお姉さん口調でこちらに語りかける。これらは全てまこちゃんのかわいさの土台となる部分だ。
加えて、まこちゃんがどこか特別なキャラクターとして印象強くしている重大要素は、その聡明さにある。
彼女は性的な欲望も含めて主人公の心身をコントロールする。彼女にしたいこと、言われたいこと、その全てをつぶさに察して実行してくれる。こうして「大人の男が少女に甘える」という本作のコンセプトを決定的にした彼女のことが、私には人間離れした聖女に見えた。
身体的には小さくて、少したどたどしい口調が幼さを強調する、まさにロリータな彼女だが、そこには聖女としての器がある。リアル的少女とも、「お兄ちゃん」連呼なエロゲ的少女とも異なる、聖女的少女――聖少女として記憶に残るキャラクターとなることは間違いないだろう。※某原画家とは一切関係ない。念のため。
まこちゃんも、そして本作自体も、ミニマムな器の中に一点特出した魅力が敷き詰められているという印象だ。コンセプトがはっきりしており、そのコンセプトを一人のキャラクターで完全に表現しきっているという意味では、なかなか突き抜けた一作といえるだろう。