持つべきものは有能従順な犬系幼馴染 – 『ブラック・スキャンダル』を観る
僕にはいわゆる「幼馴染」と呼べる関係性で繋がる他者がいない。
辛うじて中学時代から付き合いの続いている友人はいるが、やはり幼馴染といえば小学校以前からの交友関係というイメージだ。
幼少期の記憶を共有する他者。
大半の時間を共にしてきたが故の固い絆。
「幼馴染」という属性は、一見して表面上には現れないが、しかし確かな魅力を内側から輝かせる。
故に、僕も人並みには幼馴染という関係性に憧れを抱いている。
エロゲーでは現在のところ爆発級にドハマりした幼馴染ヒロインに巡り会えたことはないが……。
このブログを読んでいただいているエロゲーマー諸氏にも幼馴染には目がないという方も多いだろう。
そこで、最新の良質な幼馴染映画を紹介しよう。
ジョニー・デップ主演、『ブラック・スキャンダル』である。
『ブラック・スキャンダル』あらすじ
本作は実録犯罪ドラマである。
ジョニー・デップが演じるのは、かつてサウス・ボストンの裏社会を取り仕切っていた犯罪王であるジェームズ・”ホワイティ”・バルジャー。
FBIの最重要指名手配リストで、ウサマ・ビンラディンに次ぐ懸賞金がかけられた男である。
そして、ホワイティの幼馴染であるジョン・コノリーはFBI捜査官だ。
1970年代、FBIはマフィアの浄化に躍起になるのだが、そこでジョン・コノリーはホワイティにある提案を持ちかける。
ホワイティが敵対しているイタリアン・マフィアの情報をFBIに売らないか、と。
ホワイティの弟はマサチューセッツ州議会議長にまで上り詰めたカリスマ政治家だから地元警察は手が出せない。
その上、彼がFBIの情報提供者となればFBIからも摘発されることもない。
こうした自由を得て、ホワイティは裏社会の犯罪王として君臨する――というのが本作のあらすじ。
『ブラック・スキャンダル』が描く幼馴染
ここでホワイティとジョンの関係に注目しよう。
ジョンは幼少の頃いじめられっ子で、ホワイティに救われたことから彼に心酔するようになる。
確かに、ジョンがホワイティに対して情報提供者にならないかと持ちかけるのは、ジョン自身の出世のためにホワイティを利用しようという意図があったかもしれない。
しかし、ホワイティが狂気を深め、凶悪犯として暴走していく中、ジョンは次第にホワイティを庇うようにFBI内でも振る舞うようになる。
それは幼き日から抱き続けた尊敬の念と、現在でもなお悪党としてのカリスマ性を放ち続ける彼に魅了されているからだ。
幼馴染という固い絆が、立場を超えて互いに利をもたらそうという動力となるのだ。
そこには絶対に裏切りが生じない。この邪悪な安心感がバイオレンス映画の中である種の心地よさを演出する。
作中でホワイティがしつこく「裏切り」に対する嫌悪を示すことからも分かる通り、この固い絆こそが本作のテーマの一つと言って良いだろう。
実際にホワイティは、裏切り者に対しては表情一つ変えずに躊躇なく死を与えていく。
裏切りに対するシビアさを克明に描くからこそ、絶対に裏切らない幼馴染という関係性がより際立つという構図だ。
話はそれるがホワイティの殺しっぷりがまた素晴らしい。
会話の流れの中で「ああ、こいつ殺されるな」と直感的に分かる脚本が巧みで、では一体いつ殺されるのかという嫌な緊張感の中、最高のタイミングでホワイティが銃弾をぶっ放す様には何度となく肝を潰した。
こうしてギャングのボスとして皆から慕われながらも、その狂気と才気から孤高をも感じさせるホワイティ。
彼の目から見れば、幼き日に救ってあげた幼馴染という存在は確かに固い絆で結ばれた友人であるが、同時に利口な飼い犬のようにも映ったことだろう。
そう、ジョンはまさに有能で従順な犬系幼馴染ヒロインなのである。
ヒロインかどうかは議論の余地が少なからずあるかもしれないが、個人的にはこの関係に萌えだったのでこう断言させていただいた。
映画自体、どんよりと薄暗い実録犯罪ドラマとして悲劇とバイオレンスに満ち満ちた見事な良作なので、ぜひ鑑賞していただきたい。
特に『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズでのジョニー・デップの印象が強い方には、非常にシリアスな役を演じる今回のジョニー・デップ演技に驚かれることだろう。