『あしたの雪之丞』レビュー
by こーしんりょー · 公開済み · 最終更新
"恋愛を競技とした青春スポ根もの"
点数 | ブランド | プレイ時間 |
70点 | elf | 約20時間 |
シナリオ | ||
井上啓二 | ||
原画 | ||
ながせまゆ | ||
紹介サイト | ||
あしたの雪之丞【Windows10対応】 - アダルトPCゲーム - DMM.R18 | ||
備考 | ||
念のために最初に釘を刺しておこう。本作『あしたの雪之丞』のタイトルは明らかに某有名ボクシング漫画のパロディであるが、題材としてボクシングを取り入れているものの、そこが主題というわけではなくボクシングシーンもごく僅かしかない。
向かうところ敵なしの天才アマチュアボクサーである主人公・雪村 雪之丞は、ある事件をきっかけに親元を離れ、ボクシングの強豪校である涼月学園から鹿島学園へとひとり転校してしまう。
重い罪を自ら背負い込んだ雪之丞。彼は世話焼きな隣の席の少女・春日 せりなを筆頭とした鹿島学園の人々との交流をきっかけに次第に心の明るさを取り戻していく。
しかし、そんな雪之丞の後を追うように、彼が起こした事件と関係する幼馴染の久保 晶子が鹿島学園に転校してくることで、雪之丞と晶子、そしてヒロインたちとの関係性に不和が生じてきて……。
本作最大の特徴として裏のメインヒロインとして立ち振る舞う晶子の存在が挙げられる。直接彼女を攻略するルートは存在しないが、すべてのヒロインルートにおいて晶子エンドへの分岐が存在するのである。
心を閉ざした雪之丞を立ち直させた6人の各ヒロインと、雪之丞の幼馴染である晶子。どのルートにおいてもプレイヤーはどちらか一方を選ばなくてはならないのだ。
この構成上の特徴から、必然的にすべてのヒロインに失恋という重大なイベントが展開されることになる。そこで見せる彼女たちの悲痛な表情と、しかし迷い腐った雪之丞に対して、あるいは自分を負かしたヒロインに対して発破をかける「いい女」を演じる姿がたまらなく泣かせるのである。
はじめに冒頭で本作はボクシングが主題でないと述べた。しかし、本作は恋愛を競技とした青春スポ根ものと捉えることができる。雪之丞を賭けてフェアに戦いそして称え合うヒロインたちの関係性に、非常に爽やかな読了感を味わえるのである。
もちろんこの特徴的な構成による欠点も存在する。単純なところで、全てのルートで晶子が登場し雪之丞が同じように迷い戸惑うというストーリー展開をなぞることになるためルート毎の違いが小さい。
また、ここは好き嫌いが分かれるところだがこのストーリー展開のために雪之丞はどうしてもヘタレ主人公として描かれることになる。個人的には天才ボクサーという表面上の男らしさに隠れて精神的には脆いという雪之丞のキャラクター性は良い塩梅だと思うし、迷い続けて思いあぐねた結果ヒロインたちの行為を陵辱という形で踏みにじってしまうバッドエンドの存在もエロゲーとしては美味しいところだ。
以上のように、各ルートに晶子エンドへの分岐と、ヒロイン毎にトゥルー、バッド、その他ノーマルエンドが幾つかといったようにエンディング数は結構多く、攻略はやや難といったところ。しかしスキップ速度は高速なので総当りはそれほど苦ではない。
裏のメインヒロインである晶子の話に偏ってしまったため、少し表のメインヒロインであるところの春日せりなの話をしよう。チャキチャキの下町っ子で付き合いやすい彼女はさすが表のメインヒロイン、自分以外のルートでもそのルートにおける攻略ヒロインと晶子に次いで三番目の位置を常にキープする。
つまりは自身のルート以外においていつでもせりなは失恋するのだ。気立てがよく喜怒哀楽がはっきりした性格の彼女と失恋というシチュエーションの相乗効果は抜群。本心を隠して笑顔で雪之丞の背中を押す、そんなシーンが大量に用意されたせりなは極めてレベルの高い失恋ヒロインである。
2001年発売というだけあって、一部独占NG描写がぶちこまれていたり眼鏡着用ヒロインが2人いるなどなかなか時代を感じさせつつ、魅力的なヒロイン作りで勝負する作品としてクオリティは高い。表向きは王道学園ドラマなのだが、ここはやはり失恋ヒロイン萌えな方にこそオススメしたい。
【関連記事リンク】
・『勝 あしたの雪之丞2』レビュー