『勝 あしたの雪之丞2』レビュー

"――そして、始まる物語。"

勝 あしたの雪之丞 2
勝 あしたの雪之丞 2

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エルフ (2002-09-27)
点数ブランドプレイ時間
90点elf約35時間
シナリオ
井上啓二
キャラクター原案
ながせまゆ
紹介サイト
勝 あしたの雪之丞2【Windows10対応】 - アダルトPCゲーム - DMM.R18
備考
・2001年8月31日発売『あしたの雪之丞』の続編

前提条件

本作は『あしたの雪之丞』の続編にして完結編である。
前作の雪村 雪之丞から、物語の発端となる事故のもう一人の関係者である久保 勝へと主人公を変え、私立涼月学園での学園生活が描かれる。

今作ではオマケとして前作のメインストーリーのあらすじと登場人物紹介が収録されており未プレイ者への配慮もされているが、プレイするならば是非前作からプレイしていただきたい。
なぜなら今作は新たな主人公である勝の物語であると同時に、前作の主人公である雪之丞の物語でもあるからだ。
ただ同一世界観で前作キャラクターがゲストとして登場するだけでなく、『あしたの雪之丞』というシリーズ全体を総括する大団円も描かれる。

その感動は前作をプレイしてこそ最大化されるものであり、前作をプレイせずに体験するにはあまりにももったいない。

そんな訳で、本レビューでは前作をプレイ済みだが今作をプレイする価値があるか、あるいは今作をプレイするために前作から通してプレイする価値があるかという観点に重きを置きたい。

あらすじ

主人公・久保 勝が三ヶ月に渡る意識不明から覚醒してから半年後の春。
元はボクシングの才能を買われて涼月学園スポーツ特選科に入学した勝だが、怪我の影響でボクシングはドクターストップ。そこに出席日数不足が重なって留年し、普通科に編入されることとなる。

前作ではヒロインだった勝の妹・久保 晶子や、居残り仲間である水島 あきらら仲間たちと過ごす二度目の三年生生活は愉快ではあるが、それまで日常としてあったボクシングから離れざるを得なくなった勝はどこか不完全燃焼な想いを抱きながら日々を過ごしていた――。

構成の特徴として、共通ルートからヒロインルートの途中までをコメディタッチで描く春編と、ヒロインとの仲が深まってからのドラマを描く秋編とに分けることで物語にメリハリを利かせている。
ボクサーの道を絶たれた勝が大切な異性を得て、進路について真剣に考えなければならない秋に一体どのような決断を下すのか。それが物語の肝となる。

前作からの変化

作品雰囲気は前作との比較でかなり明るくなっている。それもそのはず、前作の雪之丞はどこか影のあるクール系の主人公であったが、今作の主人公である勝はおバカだけれども皆の頼れるアニキ的なポジションに立つ気持ちのいいキャラクターだからだ。
同様に、前作は野郎の一人暮らしだったのに対し今作は実家ぐらし。毎朝妹の晶子に起こされるイベントが挟み込まれ、青春学園モノらしさもまた一段と強まった印象だ。

ゲームシステムは基本的に前作と同様。
ゲームの進行方法も変わらず通常選択肢とマップ移動選択肢の組み合わせなのだが、マップ移動選択肢は学園と街とを自由に切替可能になったことで遊びやすさが向上している。しかしその反動か、ヒロインルートに乗せるまでの難易度が前作よりも上がっている。

前作では攻略ヒロイン数が7人と多めで、かつ各ルートでストーリー展開に共通点が多くヒロインごとの差別化が弱かった。
今作では攻略ヒロイン数を5人に絞り、各ルートのボリュームアップはもちろん、ヒロイン毎に特徴的なシナリオ展開でトゥルーエンド以外のエンディングにも強烈な印象を残すものが多い。
ヒロインのキャラ立てという点で前作の弱点を補う大きな変更点といえるだろう。

また、前作にはなかったオープニングムービーが追加されている。
環境によっては再生されない(私はされなかった)が、主題歌の『Hi・Ra・Ri』が素晴らしい曲なのでプレイ前に必聴のこと。

カムバック

今作のキーワードは「カムバック」

登場人物たちは多かれ少なかれ不運によって今の自分を形成する何かを失ってしまう。
例えば生き甲斐、例えば夢、例えば幼馴染……主人公の勝は分かりやすく、ゲーム開始時点でそれら全てを失ったところからのスタートだ。

そうした何かを失うということは生きていれば当たり前に起こることで、失ったものを諦めるという選択をしてしまいがちなのが現実だ。
しかし、それが本当に大切なものならば取り戻したい。そして、その時はやはり闘わなければならない。

本当の「自分らしい生き方」にカムバックしようと恋に人生に勝負をかける登場人物たちの姿が胸を打つ。
今作のストーリーはどのルートでも一貫してそのことを描いているのだ。

思えば、前作はライトな三角関係もので、各攻略ヒロインと晶子との一対一の勝負が描かれた。
勝つ者がいれば負ける者もいる。今作では前作におけるメインヒロイン・春日 せりなルートを正史としており、勝にとって最も近い存在である妹の晶子は片思いをしていた幼馴染の雪之丞から離れてしまったという前提がある。

前作から一年(作中時間でも、ゲームの発売時期でも)。晶子がカムバックする「自分らしい生き方」の着地点を見届ける意味でも、前作から続けてプレイする価値があると断言したい。

総評

前作の舞台である鹿島町の賑やかさと比べて、地味な日常が続く涼月町。
朝は晶子に起こされ、学園の勉強はついていくのがやっと、お昼休みにはあきらにお弁当をたかられ、放課後はぶらりうろつく。

繰り返しの毎日。それは楽しく幸福ではあるのだが、次第に勝はくすぶっていく。

良い家族と良い仲間たちに囲まれた勝の日常は地味ながらも非常に心地よい。その雰囲気の良さは、思わず終わりを迎えて欲しくないと願ってしまいたくなるほどだ。
しかし、最後には決断をしなければならない。最後までくすぶったままではいられない。

前作と合わせると超大作級のボリュームとなるが、最終ラウンドで繰り広げられる二人の男のファイトシーンはノックアウト必至だ。
もちろんそれまでのラウンドにも幾多のドラマがある。厳しい現実を前にして、勇気を振り絞って未来へと歩む登場人物たちに注がれる優しさが、心地よい日常をより愛しいものへと変えていく。

前作プレイを前提とした続編というハードルはあるが、間違いなく青春学園モノの傑作である。

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