『マルコと銀河竜』レビュー

点数ブランド発売日
70点TOKYOTOON2020-02-28
シナリオ
はと
原画
大空樹、ひずみ、寿司山、かんべぴろきし、杜もり、星野拓、ばんか、こばやしまつり
紹介サイト
マルコと銀河竜
備考
 

作品概要

本作は『ノラと皇女と野良猫ハート』シリーズのスタッフを中心に開発されたアドベンチャーゲームである。
制作したTOKYOTOONは海外展開も見越した全年齢対象タイトルを制作する新規ブランドとして立ち上げられ、本作も英語・中国語版を同日にリリースされた。

あらすじ

銀河をまたにかけるトレジャーハンターのマルコは、ある契約を交わした銀河竜・アルコとともにトカゲ石と呼ばれるお宝を手に入れる。
次のお宝として記憶にない自身の母親を見つけ出そうと思い立ったマルコは、生まれ故郷である地球の金紐市ゴールドコードへ降り立ち、母親探しを始める。

そんなマルコたちの元にトカゲ石を奪い取ろうと画策するヨルムンガンド・ハクアや、ハクアの父によって故郷の星を滅ぼされた恨みを胸に復讐を誓うガルグイユ・シーラといった異星人が集い、金紐市を舞台に大騒動が巻き起こる。

母親の手がかりは一葉の写真だけ。
マルコにとっての宝の地図だ。

シュールでハイスピードなスペースオペラ

あらすじからも分かるように本作はスペースオペラの要素を持ちつつ、基本は一つの街と、その防衛基地である学園を舞台として物語が展開される。

その語り口はとにかくスピーディーでシュール。
地の文を極力排して無駄を削ぎ落としたテキストから繰り出される、デタラメな展開やギャグの連打だ。

すなわち、プレイヤーはろくに説明もされないまま荒唐無稽な現象を受け入れるという心持ちを要求される。
例えば主人公であるマルコと共に旅する銀河竜・アルコが場面によって竜型と人型を行ったり来たりしたり、金紐市の市長が金髪の子供だったりなど、「考えるな、感じろ」の精神でプレイしないと置いてけぼりを食らうことは必至な出来事が次から次へと展開されるのだ。

それさえ受け入れたら本作はジェットコースターの勢いで次々と笑わされながらクライマックスまで走り抜けるだろう。
総プレイ時間はおよそ6時間と、フルプライスにしてはコスパが悪いという印象を持たれそうだが、後述するビジュアルのリッチさと合わさった超高密度な時間を体験できる一作である。

ときおり挿入される銀河ニュースの場面。
やっぱりシュールながらも世界観説明がされたり今後の展開の布石が敷かれたりなど見逃せない。

超高密度を支える物量作戦

本作のビジュアルのリッチさは、この点において本作に比肩する作品を挙げることすら難しいレベルだ。

まずは何と言っても一枚絵の枚数。数クリックで使い捨てられる一枚絵がざらにあるのだ。
この物量は、無駄を削ぎ落としたテキストからこぼれ落ちた情報をビジュアルで伝えることを意図している。
展開の速さも相まって、次から次へと切り替わる一枚絵は他のアドベンチャーゲームでは成し得ないダイナミックさを演出している。

地球に降り立ったマルコとアルコが金紐市に辿り着くまでの一コマ。
この一枚絵は1クリックで出番終了である。

そして本作の目玉でもある要所で差し込まれるアニメーション演出。
主にアクションシーンにおいて、カートゥーン調にデフォルメされたキャラクターたちが実際に動いて暴れまわるのだ。

アニメーションの質も良好で、パロディ満載、やりたい放題。
本作のカオスさを更にもうひと押しする演出として効果的に機能していた。

筆者はジャパニメーションよりも「カートゥーン・ネットワーク」を視て育ったため、カートゥーン演出は非常に馴染み深かった。

はらぺこ同志のシスターフッド

そんなカオスな本作のメインテーマは、マルコとアルコの二人の間にある、恋でもラブでもない関係性だ。
物語の目的として「母親探し」が設定されているが、最終的には二人の関係性に集約されていくのである。

いつもはらぺこなマルコと銀河竜、この二人は食うか食われるかの関係にある。
物語の進行に応じて互いを食う=その身に受け入れることによって成長していく関係性は、銀河にきらめく真のお宝になる。

正直に言えばこの二人の関係性に注力しすぎており、他のキャラクターが説明不足も相まって背景となってしまっているところは気になるが、恋愛をテーマにした作品では味わえない爽やかな読後感が味わえた。

作中屈指のバカキャラであるテラも、はと作品お馴染みの金髪キャラで魅力的だが掘り下げ不足感が否めない……。

総括

圧倒的な物量作戦で繰り広げられるシュールでカオスな作風は間違いなくオンリーワンの本作の魅力である。
『ノラと皇女と野良猫ハート』のシナリオライター・はとの作品としてみても、グラフィック面で明らかにこれまでの作品よりも労力をかけているにも関わらず、まるで守りに入る気がないチャレンジングなシナリオだったことは評価したい。

ただ、それだけの労力をかけた分が、そのまま作品の「面白さ」に直結しているかについては一考する必要があるだろう。
地の文を排してすべてをビジュアルで見せる試みはアドベンチャーゲームとしては物珍しさがあるが、どんどん映像作品に近づくだけでゲームならではの面白さが犠牲になっているのではないかと思わなくもない。

とはいえここまで極端な方法論で作られたゲームも他にはなかなかないため、新しい形のアドベンチャーゲームを求めるならばプレイする価値は確実にある一作と言えるだろう。

Share & Bookmark

おすすめ