『パコマネ わたし、今日から名門野球部の性処理係になります…』レビュー

"青春という美名の下に行われる狂気の搾取"

点数ブランドプレイ時間
60点Frill約5時間
シナリオ
巽ヒロヲ
原画
伊倉ナギサ
紹介サイト
パコマネ わたし、今日から名門野球部の性処理係になります…|Frill official website
備考
 

野球とは、長くて堅い棒から放たれた白い玉を追いかけ回るスポーツである。とりわけ高校野球は、毎年夏になる度に甲子園という聖地に集った画一化された外見の若い男子たちがその身を泥と涙で濡らす様をテレビ放映することで国民的関心を強く集める宗教的祭事である。

それが祭事であるならば巫女の存在はあって然るべき。故に、ベンチに座ることを許された紅一点である女子マネージャーに巫女的な身体的献身が求められるのは必然である。爽やかさに隠匿された男比率高めの汗臭い淫行空間――それが高校野球である。以上、運動部に対するルサンチマンを無駄に溜め込んだ文化系エロゲーマー史観に基づく高校野球の解説でした。

歴史ある名門野球部を持つ箱峰学園に合格した主人公・伊波 咲は、入学前に観戦した春季大会の試合に感動して野球に興味を持つ。入学後、野球部マネージャーの三年生・栗宮 希実にも素質を見込まれた咲は、持ち前の元気と情熱で面接と体験入部をこなし、正式に野球部マネージャーとして入部することとなる。

若い男だらけの空間に、たった二人の女子。野球部の面々ははじめは仲間として咲の入部を受け入れるも、咲が彼らをサポートするに従い次第に性的な距離が縮まっていく。腕を怪我をした選手の体を拭いてあげるところから始まり、その奉仕は次第に性処理的な方向へと傾いていき……遂には恋人としてではなく、マネージャーと選手の関係としてセックスまでも許してしまう。

とにかく咲の処女喪失シーンが秀逸だ。それまで性処理的な仕事に対してこれはマネージャーがすべきことなのかと葛藤しつつも「伝統」というマジックワードや男だらけの環境の中で次第に自らの常識が狂わされていき、とうとう「何だか、すごくあっけなかったな…」と思いながらその処女を散らしてしまう。

野球、青春という爽やかなイメージに隠蔽された罠。それは蟻地獄のように、じわじわと被食者を呑み込んでいき、気づいた頃にはもうどうにもならない状況へと溺れさせてしまう。このように中盤までは洗脳モノとしての面白さがふんだんに詰まっている

その後、マネージャーによる選手の性処理が箱峰学園野球部の「伝統」としてこれまで連綿と受け継がれてきたものであることを希実から知らさた咲は、大切な仲間となった選手たちへの性処理を精力的に勤め始める。

つまりは洗脳完了であり、ここからはやや作品のトーンが変わってしまう。サブタイトルで言えば「わたし、今日から名門野球部の性処理係になります」といった風で洗脳モノとしての面白さやダークさは後退する。

代わりに前面化するのは咲がセックスでもって部員たちの悩みや問題を解決していき、箱峰学園野球部を高みへと導くというサクセスストーリー……つまりはあげまん物語だ。

それはそれでカタルシスもあって悪くはないのだが、中盤までの洗脳され搾取される野球部マネージャーという構図に興奮していた私をノックアウトさせるほどの飛距離は出せず、高く打ち上げられたボールは外野フライに終わってしまった印象である。

せめてエピローグで咲に女子マネージャーの後輩ができ、こんどは洗脳を仕掛ける側となって少女を堕とし始めるといった風に、青春という美名の下に行われる狂気の搾取が「伝統」として引き継がれていく様を見せつけてくれるエンディングだったりしたら個人的には追い風ホームランだったのだが……。これは、中盤までに強く惹かれたプレイヤーの無いものねだりと思っていただければ幸い。

エッチシーンを中心に画面演出では台詞が右から左へ吹き出しの形で順に表示されるバルーンウィンドウモードと、擬音表現をイベントCG上で書き文字アニメーションで表示するセクシャル擬音システムでもって視覚的に盛り上げる。画面全体に淫らな文字が踊る様はなかなかに壮観だ。

公式サイトのコンセプトでも書かれている通り「このヒロインは、ヤラれるだけで終わらない!」。そこに一捻り加えようとした心意気は、個人的にはイマイチ刺さらなかったが失敗だとも言い切れない。ここは一つ、運動部に対するルサンチマンを無駄に溜め込んだ文化系エロゲーマー史観に染まっている私が悪いということでお許し頂きたい。

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