『WHITE ALBUM』レビュー

"恋の痛み"

点数ブランドプレイ時間
70点Leaf約25時間
シナリオ
原田宇陀児
原画
ら~・YOU
紹介サイト
WHITE ALBUM|Leaf
備考
・ゲーム性(SLG)有り

ゲーム開始時点で既に主人公に恋人がいる。それもお相手は新進気鋭の人気アイドル歌手という、普通なら手が届かないような、まさに〝ヒロイン〟と呼ぶに値する女の子。

つまり『WHITE ALBUM』は、「ヒロインと付き合い始める」という恋愛モノのエロゲーにおける一つのゴール地点の、その先のみを描いている作品である。

メインヒロインである森川由綺は歌手として成長するにつれて、一般人である主人公との時間がとれなくなる。主人公も、由綺が歌手として活躍するに従って次第に精神的な壁を感じていくようになる。つまりは精神的な長距離恋愛状態となった二人の関係に隙が生じてしまい、それを埋めようと主人公は無自覚のうちに他のヒロインたちに惹かれていってしまう――というのが本作脚本の幹となる。

よって由綺以外のヒロインと結ばれるためには、「由綺を振る」という責任を負う必要がある。そんな恋愛の苦い一面を重点的に描くことで、理想的な恋愛を語りがちな多くのエロゲーの恋愛観からは少し離れたストーリーを物語ることに成功している。それもドロドロとした人間関係をエンタメ的に描くのではなく、切ないラブロマンスとしてやや淡白目に仕上げている点も特徴だろう。

そんな本作が描く責任の重みと痛みとを、作中の主人公だけに負わせるのでは味気ない。ここはゲームとして、主人公に代わって選択肢を選ぶプレイヤーへとその痛みをぶつけてこそ、本作のテーマは真に意味を成す。となれば、少なくともその痛みが現実味をおびる程度には物語のリアリティを維持しなければ、その面白さに関わらず作品としては失敗ということになるだろう。

そこで本作では秋から冬にかけての様々なイベントを通して、それぞれの特別な風景を緻密に描写することで、その季節特有の空気感を演出している。また多くの登場人物が大学生以上の年齢ということもあり、会話のレベルもそれに合わせた内容としたり、各ヒロインの趣味趣向に関して実在するアートや音楽、ファッションブランドなどから引用することで(いささか衒学趣味的なところもあるが)実在感を匂わせたりと、キャラクター造形にもリアリティには気を配っているように感じた。

その配慮と作り込みにより恋することで負う痛みを、少なくとも私は、十分に感じられた。

本作の物語は、毎週頭に一週間分のスケジュールを立て、各ヒロインとのイベントを重ねながらフラグを立てていくという、シミュレーションゲーム形式に乗って進行する。

ここで曲者なのがその日毎にヒロインと会えるかどうかが運次第というランダム要素。なかなかヒロインと出会えないために好感度を稼ぎきれず、そのままノーマルエンディングを迎えることもままある。

従って会話イベントを確実に回収するためにセーブ&ロードを繰り返すという攻略になりがちで、どうしてもプレイしていて作業感が強い。このランダム要素は、浮気という不誠実に手を染めるというハードル超えるため、「偶然の力」をゲーム中に盛り込みたかったが為に導入されたのだろうと推察するが、それならばもう少し攻略難度を下げても良かったのではないかと思わなくもない。

また98年発売の作品というだけあって、全体的に古臭さを感じざるを得ない。脚本的には公衆電話が当然のように使われる辺りなどは今となっては寧ろ面白くもあるが、システムに目を向けるとゲームディスクから音楽を再生する必要がある点や、セーブスロットが5つしかないという点など厳しいところが多い。

しかしグラフィックと音楽は現在でも十分通用する――と言うとこれはさすがに言いすぎな気もするが、それでも発売時期を考えればそのクオリティの高さを認めざるをえない。特にアイドルである作中キャラクターが唄っているという体で演出されているボーカル曲『WHITE ALBUM』『SOUND OF DESTINY』の二曲は、90年代アイドル歌謡の雰囲気も味わえる名曲。

「浮気ゲー」というジャンルの走りとされ、10年の時を経てテレビアニメ化を果たし、また続編が記録的傑作として各所で絶賛されるなど、ある種特殊な立ち位置にある古典的作品。その特殊性故にか、現代にプレイしてもなお、新たな発見がある味わい深い一作だった。

ちなみに脚本をそのままに、システムや絵を一新したリメイク版も発売されたいる。そんな中、私のようにわざわざ初回版に手を出そうというならば、まず公式サイトで2つの修正パッチ(Ver2.01)を当ててからプレイされることをオススメします。これはマジで。


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