『クオリアフォーダンス -Qualiaffordance-』レビュー
by こーしんりょー · 公開済み · 最終更新
"ジェットコースター・エロゲー"
点数 | ブランド | プレイ時間 |
30点 | Shelf | 約10時間 |
シナリオ | ||
二条燐 | ||
キャラクターデザイン | ||
あらひでき | ||
紹介サイト | ||
Home | Qualiaffordance(クオリアフォーダンス) | ||
備考 | ||
本作は、アダルトアニメブランドを複数擁するエー・ワン・シーの新規ゲームブランドShelfの処女作。そのノウハウを活かしてか、作中の各シーンや立ち絵にアニメーションを導入している点がまずは何より目を引くポイントだろう。
アニメ部分は絵柄が少し古臭いものの、最低限のクオリティは保っているように感じる。こればかりは公式サイトで確認していただきたい。
せっかくのアニメーション+ADVゲームという珍しい作品なので、アニメ部分のクオリティのよりも、通常の一枚絵構成では表現できないアニメーションならではの脚本や演出などがあれば高く評価したいところである。しかし、そういったこの手法ならではのフレッシュさをあまり感じられなかった。エッチシーンもおざなりな出来だったこともあり、この点は残念。
しかし一方で、本作はある一点において他では見られないようなユニークさを持つ。それは脚本のジェットコースターっぷりにある。
本作の主人公・市村一樹は、これでもかというほど空気の読める男。そんな主人公が、とある事故で頭に怪我を負い、それを境に他人の気持ちを「色」として視ることができる能力を得るところから物語が始まる。主人公は各ヒロインたちと交流を重ねていき、学祭イベントなどの果てに恋仲になるまでが共通ルート。正直言って、ここまでの脚本はイマイチである。
例として学祭イベントから派生するライブイベントを挙げよう。楽器初心者の主人公やヒロインたちがメンバーの欠けたバンドにヘルプとして入り(この展開も相当強引だが)、学園祭で演奏するというド定番なイベントである。しかし、ヌルい練習描写や、チート級の天才キャラによるテコ入れ展開など萎える要素が多く、その結果ライブシーンのアニメーションに力が入っているものの得られるカタルシスは弱い。
このように起承転結でいう「起承」の部分は退屈の一言で済ませられる程度のもので、ジェットコースターで言えば緩い勾配のレール上をゆっくりと登っている気分だった。
しかしそれが個別ルート――「転」に入ると、まさに急転直下の勢いでそれまでの緩い学園モノの雰囲気から切り離された驚愕の展開へと突入する。その鍵となるのはやはり、他人の気持ちを「色」として視ることができるという主人公の能力にある。
この能力により、「たとえ親しい間柄の人間であっても、その内側にどんな闇を抱えているか分からない」という作品テーマを引き出すこととなるのだが、各ヒロインの抱える闇が深いというよりも突飛すぎて、予測不可能な方向へと物語は爆進する。
頂上へと達したジェットコースターはもう止まらない。垂直落下からの曲がりくねったカーブ地帯を越えて、ぐるんぐるんと回転し、終いにはレールが途切れていてジャンプともなると、もう笑うしかない。
特に超ハイテク侵入サスペンス(!?)をアニメーションで見せられる七瀬春菜ルート終盤は爆笑必至。その他ルートにも、もう笑うしかないというシーンが多々配置されており、後半だけを見れば(変な意味で)面白いと言える。
思えば序盤から中盤までの退屈で薄っぺらな脚本も、そこで変にディティールを詰めると終盤の荒唐無稽さが成り立たなくなるがためだと思うと、なるほどよく練られた脚本だあと唸る他ない。
攻略ヒロインを含む各キャラクターも掘り下げが浅く、交友関係や行動などいまいち納得いかない点が多いのも、後半の圧倒的な納得いかなさを思えば意図的であると思われる。思いたい。思わせてくれ。
その他、空気の読めてないBGMのチョイスや、アニメーションを垂れ流すだけでクリックすると選択画面に戻されるという使いようのない回想モードなど、こなれてなさを感じられる作りが多々見られる。
兎にも角にも、やりたいことを詰め込んだだけのハチャメチャな脚本こそが本作の価値の全て。中盤までの退屈さを乗り越えた先の抱腹絶倒の展開は、よほど暇なら味わってみるのもよいだろう。
最後に。余談であるが、本作の予約特典がコースターであったのも、ここまでくれば全て狙いすまされた演出であると言えよう。あっぱれ。