『ウィザーズコンプレックス』レビュー
by こーしんりょー · 公開済み · 最終更新
"複雑怪奇な劣等感"
点数 | ブランド | プレイ時間 |
55点 | うぃんどみるOasis | 約30時間 |
シナリオ | ||
近江谷宥、元長柾木 | ||
原画 | ||
こ〜ちゃ、成瀬未亜(SD) | ||
紹介サイト | ||
ウィザーズコンプレックス | ||
備考 | ||
なかなかどうして、歪な作品である。
一見して私たちが生きる現代とそう変わらない作品世界にはひとつの大きな特徴がある。魔力を宿した女性――魔女の存在だ。魔力によって行使される魔法についての研究も進み、それは魔科学としては日常に溶けこんでいる。しかし、どれだけ研究が進んだとしても「魔法は女性だけのもの」という常識が覆されることはなかった。
そんな中、主人公である東雲蒼は男性でありながら生まれつき魔力を宿した特異な存在として誕生した。しかし、蒼の魔力は微弱なもので、魔法を行使することもできない。そんな蒼が優秀な魔女である姉・桜子の策謀により、魔女が通う学園である国立御久仁学園に入学するところから物語は始まる。
まずは物語の舞台となる国立御久仁学園について見ていきたい。まず、魔女が通う学園というだけあって周囲に男性は一切存在しない。また世界中から魔力を宿した女性を集めていることもあり多くの留学生を有した学園は、日本国内の生徒が所属する東学舎塔と、海外からの留学生が所属する西学舎塔に別れている。
物語の主軸となるイベントは東塔・西塔の両生徒会役員が魔法を用いた競技で魔女としての技量を競い合う生徒会監査会――通称、魔法生徒会大戦だ。話の流れで東塔生徒会の副会長となってしまった蒼は、一人魔法が使えないにも関わらず東塔の威信を背負った闘いに参加させられることとなる。
本作の歪さはこの魔法生徒会大戦にまつわるところが大きい。こ〜ちゃ原画のうぃんどみる印な見た目の本作は、その爽やかで明るい外見とは裏腹に妙にギスギスした人間関係を物語ろうとする。
魔法生徒会大戦で勝利を収めた生徒会は御久仁生徒総会となりその後一年間の全権限を与えられる。更に、生徒総会会長は学園の校則を一つ書き換える、または書き加える権利を得る。
この制度により国内組と海外組に別れて加熱する帰属意識と敵対心が何とも言えない居心地の悪さを演出する。生徒会長の選出方法が選挙制ではなく、前生徒会長からの指名制であることも意地悪な設定だ。立候補もできずに選ばれなかった凡人(モブキャラ)たちの期待と嫉妬が主人公とヒロインたちにより強く向けられるからだ。
自らと所属(国籍)が異なる人々に対する露骨な悪意を煽り立てるシステムを物語として描くことは、世界的に排外主義の波が大きく広がった2016年の国際情勢を4月の時点ですでに予見していたと評価できなくもないが、はたしてそれは本作に期待されている役割かと問われれば……どうだろう。ここ、評価します?
東塔生徒会長となる竜胆ほのかは国内随一の才能を持つ炎の魔女にして、ほんわかとした性格の世間知らずなお嬢様。もともと魔法生徒会大戦のことも知らずに生徒会長となった彼女が、魔法生徒会大戦によって生じている学園全体の問題にぶつかり、それを改善しようと決断するシナリオは個人的に思うところもあり高く評価したい。
対して西塔生徒会長となるアイリス・ラインフェルトは学園長の娘にして稀代の才能を持つ光の魔女……なのだが、気が弱く周りに流されやすい性格もあって色々と不憫な目に遭うことになる。ほのかが表ならばアイリスは裏。その才能が大きな災厄を招いてしまう。
その災厄の一因として、西塔生徒会の他の面々がアイリスを追い詰めるための舞台装置として働いているということがある。バトルジャンキーにネクラ、嫉妬深いエロババアと個性豊かな彼女たちはとにかく自分勝手で人の話を聞かず、幾度とトラブルを招く。ここは人によっては不快ポイントになり得るだろう。
ちなみに、このユーザー受けの悪そうなサブヒロイン達にも主人公と結ばれるアナザーストーリーが用意されている。しかし、オマケに見合った短い尺では本編でのアクの強いキャラクター性を維持したまま主人公とくっつかせることは難しかったようで、無理のある話運びで強引にエッチに繋げるのが精一杯といった様子が伝わってくる。
エッチシーン自体はそこそこ高いクオリティだ。一点、気になったのが男性器の呼称で、各ヒロインごとに「おち○ちん」「ち○ちん」「おち○ぽ」の内どれか一つに固定されている。個人的には、そこでヒロインの差別化をされても……というのが本音で、あまり効果的ではないと感じた。
演出面では声優・成瀬未亜が描くSDキャライラストが効果的に使われており、開催される度に異なる競技が行われる魔法生徒会対戦を視覚的に盛り上げる。画面に映るヒロイン同士が互いに会話しているように見せかける立ち絵演出も細やかながらいい仕事をしている。
音楽について、どうしても気になったのがエンディングテーマ曲で、決してクオリティが低いということはないのだが作品雰囲気と似つかわしくない桜川めぐの熱唱ぶりに違和感。佐藤ひろ美&KOTOKOという豪華な面子のオープニング曲も含めて、耳に残る曲がなかったのは残念。
繰り返しになるが、本当に歪な作品だ。少なくとも、公式サイトのキャラクター紹介でわざわざご丁寧に「欠点」を記載する程度には歪だ。
萌え&燃えなストーリーに癒され、感動するといった効果は弱い。しかし、ヒロインたちが内に抱える欠点が培ったコンプレックスの、そのこじらせ具合に共感できたならばグッと刺さる展開も用意されている。安心感のある市販薬ではなく上等な劇薬としてオススメしたい。
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第一印象、鳴(ターニャ)ルートの絶望。
【関連外部リンク】
・「2016年エターナル・インポテンツ・エレクション」エロゲ対談「ウィザーズコンプレックス」(1)企画趣旨説明 : 発作的対談企画「庭が出るまで(仮永遠)」
参加させて頂いた対談企画。本作の各ルートについて濃密な議論を繰り広げております。全対談の掲載完了済み。