『君と目覚める幾つかの方法』レビュー
by こーしんりょー · 公開済み · 最終更新
"実はメカ娘好きよりも幼馴染好き向け"
点数 | ブランド | プレイ時間 |
70点 | Navel | 約25時間 |
シナリオ | ||
かずきふみ | ||
原画 | ||
西又葵、鈴平ひろ、羽純りお、ごろう | ||
紹介サイト | ||
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備考 | ||
あらすじ
舞台は少し未来の秋葉原。
オートマタと呼ばれる人間そっくりのアンドロイドが、特に秋葉原はその土地柄から当たり前のように存在し、多くの人がそれを家族や友人、そしてパートナーとして受け入れている世界。
主人公である伊奈 宗介はオートマタのAIを専門とする優秀なオートマタ整備師にして、祖父から受け継いだオートマタ整備店である伊奈モータースの店長である。
店舗の二階が居住スペースとなっており、アイルとマキノの二体のオートマタに制服と称してメイド服を着せたりしながら生活している。
ある朝、宗介たちは店先に倒れる一人の少女を発見する。その脚には人工皮膚に覆われていないむき出しのオートマタパーツ。
しかし、それは両脚を失いオートマタに偽装された人間であった。
両脚を失った少女・枚方 初音を保護した宗介たちは次第に組織的な人体売買事件に巻き込まれていくこととなる。
一癖ある登場人物たち
本作は舞台が秋葉原ということもあってか(偏見)、妙に怪しげで一癖ある登場人物が揃っている。
主人公の宗介は初音を伊奈モータースで保護する切っ掛けの一つとなる妙なセキュリティ意識の高さなど、ただのやり手のオートマタ整備師という以上の何かを感じさせる。
攻略対象ヒロインは3人だが、そのうち2人は宗介の幼馴染というのも特徴的だ。
京橋 みことは年上の幼馴染。かつて宗介の前からふらりと姿を消して地方で義肢装具士として働いていたがまた宗介の元に戻り、今は伊奈モータースの一角を作業場としている。
彼女の言動は気まぐれで適当。幼馴染らしい近い距離感にありながら、もう一息のところでその本質が掴みきれない、そんな孤高さすらも感じさせる。
八雲 舞花は年下の幼馴染。駆け出し警察官で、オートマタ犯罪を専門とする「人形課」に所属するも致命的な機械音痴である。
さっぱりした性格で、宗介とどれだけ近い位置にいてもさっぱり恋愛沙汰に発展しそうにないところがかえっておいしいところだ。
この2人の幼馴染は様々な観点から好対照をなす。
片や年上、片や年下。
片や不真面目、片や生真面目。
片やひねくれ、片や実直。
エッチシーンではこの2人の乱れ方の違いに注目すべし。
そんなヒロインたちに加えて、オートマタであるアイルとマキノ、そしてオートマタ整備師として宗介の先輩であり何故かオネエである三鷹 弥彦と、弥彦を師と仰ぐ舞花の妹でお調子者の八雲 由里花。
以上の伊奈モータースの面々はゲーム開始時点ですでに疑似家族的な人間関係にある。
そこに来訪者として現れた初音が彼らとどのような関係を結んでいくかがゲーム前半の見どころとなる。
血の繋がりなき家族
オートマタには人の血が流れていない。
人の姿形をした彼らは高度なAIを持ち、あくまでプログラムに従って人間を傷つけるようなことはせずオーナーに仕える。
人間には人の血が流れている。当たり前だが。
しかし娘を虐待しその脚を売り払った初音の両親のように、血の繋がりのある家族に対しても残虐な行為を働けてしまうのも人間だ。
本作はオートマタと人間の対比も用いて心地よい家族関係、その姿を模索する。
主人公の宗介も紆余曲折を経て血の繋がりのある家族とは距離を取っている。その一方で強い繋がりのある幼馴染たちに恵まれている。
元より虐待された経験から家族の温かさとは縁遠い人生を歩んできた初音は、宗介たちからたくさんの親切を受けてなんとかその恩に報いようと動き始める。
そうして次第に伊奈モータースの新たな家族となっていく初音の姿に終始涙腺がゆるんだ。
サービス満点のエンタメ作品
しかし、本作はハートウォーミングなホームドラマにばかり特化した作品ではない。
なんといっても人体売買というハードな事件がドカンと作品の中央に座り込み、いつでも暴力の気配を漂わせている。
そこにSF的な設定であるオートマタをギミックとして物語展開に活用し、更に搦め手としてホラー的な演出すらも動員してサスペンスドラマの緊迫感を強化する。
組織犯罪という個人ではどうにもならない巨大な暴力の影に対して、警察官である舞花の視点を織り交ぜることによって事態を警察小説風に進展させていく。
以上のように複数のジャンルを横断しながら展開されるシナリオは多様な面白さを提供する。
ゲームならではの仕掛けも冴える本作は、まず第一にサービス満点のエンタメ作品なのである。
総評
シナリオの質の高さは先述の通り。
ハートウォーミングなシーンを盛り上げるだけでなく、秋葉原の怪しげな空気感を表現するファンキーなBGMなど音楽も上々。
キャスティングについてはみことを演じた桜川未央さんが控えめに言って完璧。みことの独特なウザかわいさを好演している。
絵については苦言が一点。西又葵さんが原画を担当している、ある2人の人物を横から描いた2枚の対照的な一枚絵があるのだが、どちらも超重要なシーンであるにも関わらず明らかなブラッシュアップ不足を感じさせる。
立ち絵はどれも良質なだけに、ドラマを盛り上げる一枚絵のクオリティアップは課題かもしれない。
以上、個々の要素を並べてみるとそれぞれの質は十分に高い。
しかし、数多くの要素がサービス過剰気味に詰め込まれた結果、クリア後に見返してみるとそれらの要素が一つの作品として綺麗にまとめきれていないように感じた。
とりわけ『君と目覚める幾つかの方法』というタイトルが本作を一言で言い表せているようには思えず、そのことが本作のまとまりのなさを象徴している。
とは言え、引きの強いシナリオとトリッキーな演出でグイグイ引っ張ってくれるためプレイ中の面白さは本物。
ヒロインの可愛さとハードな物語を両立した作品を求めている方、あるいは幼馴染スキーに是非ともプレイしていただきたい一作である。
関連記事リンク
・ファーストインプレッション – 『君と目覚める幾つかの方法』をプレイ その1
・【ネタバレ有り】テーマと構成について – 『君と目覚める幾つかの方法』をプレイ その2