『クリミナルボーダー 1st offence』レビュー

点数ブランド発売日
55点Purple software2022-10-28
シナリオ
かずきふみ
原画
さめまんま、CHIHIRO
紹介サイト
1st Offence 萬屋ひな|クリミナルボーダー|Purple software
備考
 

作品概要

本作は全4作予定のロープライスによる連作シリーズ『クリミナルボーダー』の1作目。
現時点で開示されている情報から、作品ごとにフォーカスするヒロインを変えつつ、一本道の長大なストーリーを展開するスタイルであることが予想される。

本作の企画・シナリオのかずきふみは同様の連作方式を採った『9-nine-』シリーズを成功に導いた実績があり、開発元は現在も精力的に活動している老舗のPurple Softwareであることから、少なくとも企画として頓挫せず完結まで走り切ってくれると期待してよいだろう。

あらすじ

陰キャでオタクな主人公・(にのまえ) (いつき)はアニメのMADムービーを作る過程で偶然にも思いもよらないものを作り出してしまう。
それは「見るだけで強い性的興奮が伴う電子ドラッグムービー」。

その電子ドラッグにビジネスチャンスを感じた幼馴染の春夏冬(あきなし) (りん)は、樹にビジネスパートナーにならないかと誘う。
凛は表向きは品行方正な優等生だが、裏では大規模なパパ活斡旋ビジネスに手を染めて大金を稼いでいたのだ。

凛は同じくパパ活斡旋ビジネスのパートナーである萬屋(よろずや) ひなを樹に紹介する。
樹はひなと電子ドラッグを使って稼ぎを上げようと行動を共にするうちに不良やヤクザといったこれまで無縁だった人種が跋扈する裏社会へと足を踏み入れることとなる。

物語はまだ、ボーダーを踏み越えるまでの助走

本作のストーリーの本筋は明快だ。
暴力と性の臭いが色濃く漂う裏社会を相手取り、電子ドラッグ=「性的興奮に作用する催眠装置」ひとつで渡り合う。
ジャンルとしてはピカレスクロマンと呼んでいいかもしれない。いかにもエロゲーらしいギミックでもって、比較的リアルに描かれる裏社会を切り開いていく、というのはエロゲーとしてロマンのある設定だ。

また、4人のヒロインを並べてみると全員が学生・子供であることから分かるように「大人と子供の対立」という軸も見えてくる。

ヒロインの一人でヤクザの用心棒であるメリル・ハサウェイは年齢不詳のキャラクターだが見た目は子供であり、現時点では大人側の論理で動いているキャラクターには見えない。

主人公たちが対峙するものの本質は強者から弱者への搾取構造だ。
本作が描く裏社会は究極的には暴力でもって弱者に理不尽を押し付ける強者の象徴であり、子供である主人公とヒロインはどこまでいっても搾取される側。
必然的に、その構造の逆転が物語のゴールとして設定される。そこから電子ドラッグというチートアイテムと知略でもって子供が大人を打ち負かす、というエンターテインメントが今後展開されていくであろうことが予想できる。

そう、予想できる。
本作『クリミナルボーダー1st offence』では今後どういう展開をするかという予想図をプレイヤーに与え、それを実現するための布石を打つことに終始している。その影響もあって、本作単体として展開されるストーリーはかなり地味である。
終盤にはあるアクシデントが発生することでサスペンスといったんのクライマックスを演出してみせるが、その顛末もはっきり言ってしょぼい。
一応、この「しょぼさ」こそが大人が子供に強いる理不尽そのものである、という構造の巧みさはあるものの、本作単体での満足度には限界があるというのが正直なところだ。

となれば、本作単体での伸び代はキャラクターにあるはず。そのキャラクターはといえば……。

ヒロインは萬屋ひなではなく……

結論から言えば、萬屋ひなはかなり魅力的なヒロインだ。
彼女の登場が約束されているというだけで今後このシリーズを追いかけても良いと思える。つまり、彼女を一作目のヒロインに置いている時点でつかみは上々。

表向きの見た目や言動はゆるふわギャルといった感じで、パパ活仲介役という後ろ暗いことに手を染めており「悪い友達」も多いが、異性と付き合った経験はないほどにガードは固い。
とあるきっかけがあり樹に対する好感度ははじめから高く、冴えない彼を優しく引っ張ってくれる様は近年ミーム化している「オタクに優しいギャル」の類型と言える。
加えて、彼女の家庭環境などを早いうちから開示することで庇護欲を強く掻き立ててくる一方で、プレイしていてずっとその本心を掴みきれない底の見えなさも併せ持っておりそれが物語の推進力のひとつになっている。

この絶妙な距離感を調整するのに貢献しているのがひなの兄である萬屋(よろずや) 辰也(たつや)の存在だ。
不良校である通称極悪高校の生徒でヤクザとも繋がりのある不良グループのリーダー。
その性質上一種の治外法権区域である極悪高校内での電子ドラッグ上映会というアイデアを形にするために接点を持つことになる彼は、ぶっきらぼうな性格ながらも確かに妹のひなを大切にしていることが伝わり、そんなひなが惚れている樹のこともあるイベントを境に認めてくれる。

兄妹のやり取りの中で垣間見えるひなの「(うち)の顔」もかわいい。
それを引き出すのが辰也だが、この男もまた魅力的な兄貴分となっていく。

たまたま電子ドラッグを作ってしまっただけの樹にとって、危険な電子ドラッグビジネスに関わり続けるモチベーションは次第にこの兄妹の存在そのものになっていく。
自分のことを好いて頼ってくれる女性と、男として憧れる兄貴分。ふたりに認められたいという気持ちが樹を動かし、プレイヤーとしてもその気持に共感させられる。ひなを通して辰也のことが、辰也を通してひなのことがより見えてくる見事な相乗効果でキャラクターの魅力を引き出すことに成功している。
つまり本作のヒロインとはずばり萬屋兄妹なのである。

エッチシーンについて、主人公との絡みという観点ではひなにのみ用意されている。
イチャラブもあれば、電子ドラッグによって野性的な一面を見せるシーンも。物語の設定から必然的に「催眠モノ」ジャンルの味があるのは嬉しいポイントだ。
逆に言えば、電子ドラッグという誰とでも簡単にセックスができそうな「催眠モノ」の要素がありながら、ひな以外にまともなエッチシーンが描かれないことこそが、本シリーズの表現の方向性を間接的に示している。

エロゲーというエンタメの難しさ

本シリーズの表現の方向性について触れておこう。
裏社会を舞台にパパ活斡旋に手を染めるヒロインたち、というあらすじだけを読むとイヤな想像が頭によぎるが、この一作目の範囲内に限って言えばそのあたりの描写はかなりマイルドな味付けで、プレイヤーに過度なストレスやショックを与えるような表現は極力排されている。

象徴的なのがはじめて複数人に同時に電子ドラッグムービーを視聴してもらう鑑賞会のシーン。
性的衝動を抑えられなくなったモブの男女が描かれるわけだが、ここではSD絵を用いて100%ギャグとして処理している。
仮にここを真面目に描いてしまうと攻略対象ヒロインたちにも今後ハードな乱交描写や寝取られ展開があるのではないか、という警戒(あるいは期待)をさせかねないため、このように処理したことは理解できる。しかし、理解はできても落胆はしてしまった。

一応、そのような警戒(あるいは期待)が今後シリーズを進めていく上で邪魔になる、と本作の製作側が考えているであろうということはプレイヤーとして汲み取っておくべきだろう。
その本意を汲み取ることで、今後そこから大きく裏切られることはないだろうという心構えができる。

個人として、エロゲーというポルノエンタメに全年齢向けの作品では決して見れない地獄のような表現を求めてもバチは当たるまい。
しかし、作り手としては実際に地獄のような表現をすることはリスキーである。「描くことできる」からこそ難しいということもあるのだな、という気付きが得られたのは個人的には収穫だった。

総括

今作は主人公が裏社会の大人たちを相手に戦うことを決意する動機を描いた序章。本格的なoffenceは次作以降ということだろう。
目標設定は定まり、ここから一気に面白くなっていきそうな雰囲気はある。センターヒロインであり最終的に一番の中心人物となっていくであろう幼馴染の凛が究極的に何を成し遂げようとしているのかなど、フックもばらまかれており興味を引かれる。

個人的には萬屋兄妹の活躍が見られるならばこのまま完結まで付き合う気でいるが、この一作目で合わないなと感じたらここで止める、という選択もできるのは連作形式の良いところではある。
今作だけならサクッと遊べる値段・ボリュームなので、どんなものかと気になるならば一度手を出してみても良いだろう。

最後にビジュアルについて触れると、エロゲーとしてはややリアル寄りの作風であるのに合わせて、従来のPurple software作品群とは路線の異なるキャラクターを描けるエロ漫画出身のさめまんまをメイン原画に引っ張ってきた点は注目に値する。
エロゲーらしい華やかさはあえて抑えめに、それでいながら肉感的なキャラクター造形とビジュアルは作品の雰囲気とマッチしていて好感が持てる。
数年がかりで展開するプロジェクトを仕掛けるにあたって、作品コンセプトに相応しい才能をたとえゲーム原画初挑戦であっても座組に取り込む攻めの姿勢は応援したい。

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