『みにくいモジカの子』レビュー

"文字の暴力"

みにくいモジカの子 通常版
ニトロプラス (2018-09-28)
点数ブランドプレイ時間
85点ニトロプラス約15時間
シナリオ
下倉バイオ
原画
はましま薫夫
紹介サイト
心身視姦ADV『みにくいモジカの子』|ニトロプラス
備考
 

あらすじ

主人公・種崎 捨(たねざき すてる)は絵にも描けない醜い容姿を持つ少年。
その醜さ故に、クラスでは日々惨いイジメを受けていた。

捨は他人と顔を合わせないようずっとうつむきながら生活する。その理由はイジメとはまた異なる別の暴力から身を護るためだった。

捨は、他人の心を文字として視ることができる。
文字化=モジカと名付けたその能力は、醜い容姿の彼にとっては呪い以外の何物でもなかった。

人は生理的嫌悪感に逆らえない。誰もが捨の顔を見るだけでおびただしい数の罵詈雑言を心に浮かべ、捨を苦しめてきた。
だから捨は顔をうつむけ、人の顔を見ないことでモジカを封印していたのだった。

ある日の放課後、捨はクラスメイトの双葉 みゆに告白される。
しかし捨は察していた。捨ほどではないがクラスでいじめられていたみゆは、命令されてやむなく捨に嘘の告白をさせられていることに。

この出来事をきっかけに、捨は自らを酷い目にあわせるすべてに対して復讐することを心に決め、それまで封印していたモジカの力を解放する。

徹底した一人称視点

本作の物語は主人公である捨の一人称視点で描かれる――とだけ書くとこれといって特別なことではないのではと思われるかもしれない。
しかし、本作は主人公の一人称視点で物語を展開するということに対してゲームデザインが徹底されており、その徹底っぷりこそが本作ならではのユニークな魅力である。

では、いったいどのように徹底しているのかをまとめたい。

まずはゲーム画面にマウスポインタが表示されない。
必然的に、画面上にはオートモードやスキップなどの操作ボタンが設置されていない。

加えてほぼすべてのCGが捨の視界を再現する構図で統一されている。
あらすじにある通り捨は基本的にずっと俯いているため、大量の足元素材でもってその俯き具合を表現している。ここまで主人公の足元がずっと画面に映り続ける美少女ゲームはなかなかないだろう。
もちろん視界の主である捨の顔は最後まで画面に映らない。「絵にも描けないほど醜い」というあらすじの一文はまさにその宣言だ。

つまりはプレイヤーがモニターを通して視るものと、捨が物語を通して視るものとを可能な限り一致させるという演出が最初から最後まで貫かれているのである。

しかしゲームとして物語を進行させるためにはやはりテキストを表示する必要がある。
本作も例に漏れず、画面には捨のモノローグや登場人物の台詞がテキストとして表示される。それは捨が視ていないはずのものが画面に表示されていることを意味する。
ところがこのテキストの表示の仕方が曲者だ。画面の中央に、常に一行だけ表示するのである。

たとえヒロインの顔に重なってでもテキストを中央に配置する意図は明白だ。
それは画面中を覆い尽くす捨への罵詈雑言、そして捨の目を通して映される醜悪な光景の数々から、我々プレイヤーの視線を逃がさないためである。

醜く、不快で、気持ちいい

物語のきっかけは捨に対する苛烈なイジメである。

地元で有力なヤクザである九鬼家の一人娘である九鬼 綺羅々を中心として、周囲の人間がはっきりとした悪意と暴力を醜男である捨に向けてくる。
そんな捨に対して救いの手を伸ばすヒロインも、その優しい言葉に隠された醜い心の内はモジカで可視化されてしまう。

心休まることのない世界に対して復讐を決意した捨の行動も褒められたものではない。
その内側に醜悪な本性を隠し持つヒロインたちの外側も汚してやろうと彼女たちをレイプする捨もやはり哀れで醜悪だ。

更に、レイプという暴力以前にセックス=生殖行為そのものの気味の悪さをも描いている。
女を犯しながら自らが「世界で一番醜い男」であることを強調し、その遺伝子を注ぎ込むぞと脅す捨の言葉責めの不快さは強烈で、「子を宿す」ということのおぞましさを意識させられる。
そんなセックスで得られる快楽への抗えなさも空恐ろしく、理性を溶かされた人々の行動はもはやホラーだ。

事程左様に世界は醜く、不快さに満ち満ちている。
それでもセックスは気持ちいいし、復讐は楽しい。

徹底した一人称視点で世界一の醜男が受ける仕打ちを擬似的に体験することで積もる復讐心。それをモジカでもってヒロインの心を掌握し、暴力とセックスといういかにもエロゲーらしい手段で満たす。
そんなマッチポンプじみた快楽で実際に気持ちよくなって射精する己の醜悪さを自覚することすらも痛快だ。

この不快さを、寧ろ快いものとして受け止められるかが本作を楽しめるか否かの最初の分水嶺となるだろう。

こんな世界にも美しいものはあるか

イジメと復讐。実は本作においてこれらの要素は前半戦に過ぎない。
ルート攻略順にもよるが、ある地点を境とした後半戦ではジャンルがオカルトホラーへとスライドしていく。

なぜ、どうやって捨はモジカの能力を得たのか。この能力でいったい何が成せるのか。
学園という小さな空間を支配するイジメというシステムをモジカで破壊してみせてもなお、捨を取り巻く醜悪さは外の世界にも広がっている。

本作のトゥルーエンドではそれまでプレイしてきた各ルートを下敷きにしつつもまったく先の読めない展開の連続で、プレイ開始時点にはまるで想像もつかなかった地点への見事な着地をしてみせる。
暗くて狭い産道を通って這い出てきたこの残酷な世界で、絵にも描けない醜さという生まれながらの呪いを背負った捨が生きる意味とはいったい何なのか。

エロゲーというメディアの特性を活かして描かれる生への肯定感に、私は圧倒されたのだった。

総評

人を選ぶ作品である。
陰鬱な雰囲気、恐怖と痛みを煽る描写、難解なシナリオ、マニアックなエロ、足元ばかり映る画面、独特なユーザーインターフェース、高い難易度……「好き嫌いが分かれる」と説明するための理由を探しだせば切りがない。

それでも私は本作が好きである。
トゥルーエンドはもちろん好きだし、それ以外のどのルートも良くも悪くも二度と忘れられないインパクトを残して終わる。
エロシーンでの、捨の粘着質な言葉責めの繰り返しと画面中を踊り狂うヒロインの心のモジカとそこに被さるノイジーなBGMが作り上げるちょっと異様なハイテンション具合も、それが行き過ぎてて抜きづらいという問題はあるものの、普段とは異なる角度からエロに対する好奇心のツボを突かれているようでこれはこれで有り、である。

とにかく好き嫌いは分かれるだろうが、本作が意欲作であることはプレイする誰もが認めるところだろう。
まずは体験版でその徹底した一人称視点演出の凄まじさと作品の雰囲気を味わっていただき、それから本作をプレイするかどうかを決めることをオススメしたい。

文字に徹底的にこだわりぬいた本作を文字だけでレビューするには、私にはこれが限界である。

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