『ぼーん・ふりーくす!ジェネリック版』レビュー

"いつかかならず巡り会う その日目指して Dreht und dreht sich!"

点数ブランド発売日
65点Liar Soft2009-08-28
シナリオ
睦月たたら、桜井光
原画
櫂人、大石竜子
紹介サイト
ライアーソフト第15弾[ぼーん・ふりーくす!]
備考
・2005年10月21日発売『ぼーん・ふりーくす!』パッケージ版に新規要素を追加したDL専売版。

あらすじ

医者である主人公・セルと、彼の妹で幼少の頃から重い病を患っているウラシル

ウラシルの病を治す術はないと思い至ったセルは、その絶望の果てに禁断の秘術に辿り着く。
ウラシルの免疫細胞(白血球)を無理やり強くすることで彼女の体に巣食い蝕む病原体を撃退するのだ。

この奇想を実現するために元恋人の研究者であるフェニルを呼び寄せたセルは、それがたとえ傲慢であろうと、冒涜であろうと、ウラシルを救い出すというたったひとつの願いだけを胸に抱いて最後の治療を開始する。

病魔に侵される健気な妹・ウラシルをCV:一色ヒカルさんが熱演。
必ずや救い出してみせるという決意を抱かせるだけの魅力的なヒロインである。

具体的な治療法はこうだ。
まずは治療に耐えられるようウラシルに特殊な手術を施す。これにより一時的に身体機能が回復し続く治療が可能となるが、代償として完治しなかった場合の寿命が1年ほどに縮んでしまう。
そしてここからが本番。外部から免疫細胞へとDNAを注入することで白血球の強さを書き換え、病原体を攻撃する。
更には倒した病原体からDNAを摂取しそれをまた注入することで白血球をどんどん強くする。これを繰り返して最終的にすべての病原体を駆逐するのだ。

それでは肝心要となるウラシルへのDNAの注入方法とは……もちろん、セルとのセックスである。そうだこれエロゲーだった!

念の為、セックスという手段が最適であると判断したのは研究者特有の冷徹さを備えたフェニルであるとセルの擁護をしつつも、兄妹の道をも踏み外した闘病生活がはじまる。

ゲームの流れ

ゲームの制限時間は50ターン。それまでにウラシルの治療が完了しなければゲームオーバーだ。
1ターンで出来ることは研究室パート探検パートに分けられる。

研究室パート

研究室パートではこのターンにおける白血球のパワーを決める。
基本となる操作はウラシルに注入する23個のDNAチップを決定することだ。

それぞれのDNAチップには白血球のどの部位に装備されるかに応じて5つの効果とコマンドが設定されている。
このターンに注入するDNAチップは前のターンの白血球とランダムに組み合わされるため、狙った効果が得られるかどうかは分からない。
かくも治療とはままならないものなのだ。

その他、DNAチップの強化や複製、遺伝確率の操作などがゲームの進行に応じて行えるようになる。

すべての準備が整ったらDNAチップを注入するため、ウラシルとのエッチシーンだ。

ジェネリック版では全565種類のDNAチップが存在。
ターンを重ねる度にDNAチップの遺伝を繰り返し、白血球を徐々に強くしていくのだ。

探検パート

探検パートではコマンドバトルRPGを通してウラシルに巣食う病原体を撃退する。
はじめにどの臓器に白血球を送り込むかを決定したら探検のスタートだ。

探検パートでは自動的に溜まっていく左上の進行ゲージがMAXになるまで病原体とのエンカウントを繰り返し、最奥のボスを撃破すればその臓器の治療は完了となる。
ちなみにウラシルの白血球はDNAの構成に応じてその姿が変わる。狐耳萌え。
病原体とエンカウント。先に相手のHPを削りきれれば勝利。
右列の23個のDNAチップにそれぞれ攻撃・防御・回避・特殊行動のコマンドが設定されている。
選択が面倒ならばS-Autoボタンでオート進行だ。

探検パートで敗北、あるいは途中離脱した場合は、次ターン以降はその付近から再開することができる。
ちなみに特定のボスにやられた場合には敗北エッチシーンも。白血球のエッチとはいったい(哲学

治療の最大障壁は長くて面倒なゲームパート

以上が本作の大まかな仕様である。ここからは具体的な中身に触れていこう。

まずもって警告しなければならないことは本作のゲームパートは本当に面倒くさいということだ。

研究室パートでのDNAチップ選択について、多数ある中から23個を選んで設定することの面倒臭さは想像に難くないだろう。
探検パートもコマンドバトルのエンカウント回数がやたらめったら多い。一つの臓器をクリアするまでに数十回のエンカウントを乗り越える必要がある。

もちろんそれらの面倒くささは織り込み済みでオート選択やオートバトルの機能もある。
しかし遺伝という成長システムを採用しているため一度極端に弱くなってしまうとなかなか強い状態に戻すのが難しく詰みの危険も。故に結局はある程度手動でケアしてあげる必要がある。

そもそもコマンドバトルの完成度自体が厳しい
敵である病原体の種類に応じた戦略を練る必要はほとんどなく、全編通してそのとき使える最大火力の攻撃コマンドを選び続けるだけでよく面白みがない。
また成長・バトル共に運の要素が強いため、勝てるパターンを引くまでセーブ&ロードを繰り返すプレイになりがち。この点も面倒くささに拍車がかかる。

加えて新たに探索可能な臓器の出現フラグに経過ターン数が絡むため、最短クリアしようにも少なくとも40ターンはかかる点も問題。
この仕様のせいで順調にゲームを進めた場合はターン数を消化するためだけにクリア済みの臓器を探検する必要が出てくる。探検パート開始直後に即離脱することもできるが、実際には次のターンに注入するDNAチップを収集しないと白血球が大きく弱体化するためある程度は時間をかける必要がある。
結果的にどれだけスピードプレイをしようとも一周当たり3時間程度はかかってしまうのだ。

とどめに、ルート分岐の条件が分かりにくい上にノーヒントなのが最悪。
長くて面倒な周回プレイを乗り越えた果てに一周目とまったく同じエンディングを迎えたときの虚無感よ。私も心が折れて最終的には攻略を見たことを告白しておこう。

一応ゲームパートについてフォローを入れておくと、成長システムは白血球の姿が変わることも合わせて面白い。
結局は探検パート開始時の白血球のパワーがそのターンの成果を大きく左右するため、探検パートをもっと簡略化して成長システムを重点的に楽しめるようなバランスだったらもう少しはマシだったかもしれない。

すべて 巻き込み 回れ回れ!

あまりにも面倒くさいゲームパートが立ちふさがるウラシルの治療。
ウラシルが完治するその瞬間を迎えるために、プレイヤーもまたセルと同じだけの固い決意が試されることになる。

妹の死という運命を捻じ曲げようと足掻くセルの悲愴は本作の物語の根幹だ。
ウラシルのためならばあらゆる手段を講じる覚悟であり、必然的に本作はセルとウラシルの危うい兄妹愛が描かれることとなる。

セルの執念は揺るがない。
それがたとえ、最愛の妹以外のあらゆるものを犠牲にしようとも。
この危うさが物語終盤に大きなうねりをもたらす。

一方、本作にはウラシル以外にもフェニルと、ストーリー途中でウラシルと友人になるシスティといった二人のサブヒロインがいるが、彼女たちがヒロインとして魅力的に描かれることはほとんどない
彼女たちの役割はウラシルのためにある罪を犯したセルに罰(呪い)を与えること。サブヒロインとして損な役回りであることは否定できず、やはりセルとウラシルの関係こそが本作の中心なのである。

オリジナルかジェネリックか

最後に「ジェネリック版」の追加要素であるジェネリックモードについて、オリジナルとの違いと初見プレイではどちらがオススメかを述べよう。

ゲーム開始時にオリジナルモードかジェネリックモードのどちらをプレイするか選択することになる。
オリジナルモードはパッケージ版そのままのバージョンで、ジェネリックモードはライアーソフトの過去作をモチーフとしたDNAチップが追加された上でバランス調整が施されたバージョンだ。

結論から述べると初見プレイ時はジェネリックモードをプレイするのがオススメだ。
オリジナルモードは周回プレイをする際にジェネリックモードとの違いを体感したくなったら手を出せば良い。

ゲームバランスの調整について見てみると、1ターンに入手できるDNAチップの量を絞り、かつレベルキャップを新たに設けたことがプレイフィールに特に大きく影響している。
この変更により中盤以降の白血球の成長曲線がオリジナルと比較して鈍化することになる。これは順調にゲームを進めると白血球が強くなり過ぎてしまい、中盤以降が作業プレイになりがちだったオリジナルの弱点を補う効果があった。

いくら苦痛度の高いゲームパートと言えども初見プレイでは試行錯誤する面白さがある程度はあるため、追加要素と合わせて少々難化したジェネリックモードの方がトータルでは楽しみやすいだろう。

総括

運命に抗う兄妹の物語。
なりふり構わず突き進むその姿は主題歌である『Dreht sich!』でも高らかに歌い上げられており、プレイ後にその味わいが深まるのも良い。企画・シナリオの睦月たたらさんが作詞されたこともあって、これ以上なく作品世界とピントが合ったエロゲソング史上に残る名曲である。

ウラシルという魅力的な妹キャラクターや素晴らしい主題歌といった最高の要素がある一方で、長くて面倒なゲームパートという最低の要素もある。この両極端さがある意味で本作のユニークな魅力だろう。
妹を病魔から救い出すために主人公と同じだけの覚悟を持って、ただひたすらに回れ!

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