『素晴らしき日々』レビュー
by こーしんりょー · 公開済み · 最終更新
"幸福に生きよ!"
点数 | ブランド | プレイ時間 |
85点 | ケロQ | 約30時間 |
シナリオ | ||
すかぢ、彩音、千歳、藤倉絢一 | ||
原画 | ||
基4%、硯、籠目、karory、すかぢ | ||
紹介サイト | ||
素晴らしき日々~不連続存在~ | ||
備考 | ||
これから続く文章はエロゲをレビューするものであるが、本作ほど「レビューする」という行為を難しいものとするエロゲはなかなかないだろう。
まず何より、この文章を書いている私は『素晴らしき日々~不連続存在~』という作品を正しく理解できていると胸を張って答えることができない。「語りえぬものについては沈黙しなければならない」。ならば私は本作に対して沈黙しなければならない。以上。
……なーんて流すことができればこれほど楽なことはないのだが、語ってこそヲタとしての幸福指数が上がるというものなので、いつものように本編内容に深く入らずに魅力を語っていこう。
本作のシナリオに関しての魅力。それはなんといっても、登場人物たちの細かな台詞や動作にも何らかの意味が考えられうるほどに緻密で複雑な物語を、破綻なくかつ面白くプレイヤーに提示したその構成にある。
6つの物語から成る本作は、基本的に同一の事件を異なる登場人物の視線を通して描いている。序盤の章はどこかオカルティックで謎だらけの物語なのだが、後続する別の物語を読んでいくことでその謎に対する解答と新たな謎が与えられていき、最終的には別々の物語に一本の筋が綺麗に通る。
そんなある種の超絶技巧で成り立っている物語に対して、個人的には「凄い」という単純明快な感想こそが一番ふさわしいかなあと思った。
また文学作品や哲学書などの引用や短く区切られる詩的な文章の多用など、独特なテキストも世界観、ひいてはキャラクターの性格付けに寄与しており、シナリオの完成度を見事に底上げしている。
それ故に小難しい作品であることは否定しないが、それ以上にエンターテインメント作品として大変優れた一作だといえる。ただ凄惨なイジメ描写やグロ描写、狂気を感じるシーンなどのブラックな要素や、シュールさが際立つ独特のユーモアが色濃いのも確かなので、そこに苦手意識を持っているとプレイするのが辛いかもしれない。
こういうと暗い作品のように思われるかもしれないが、キャラクターに関しては萌えもバッチリ完備した可愛いキャラが揃っている。イジメに抗う恋する乙女・高島 ざくろに、ざくろと共に共闘する自由奔放お茶目で危険な化学娘・橘 希実香あたりが個人的にお気に入り。
男キャラにも間宮 卓司、悠木 皆守と二人の主人公がいるが、どちらも対照的な魅力がある。
そんな魅力的なキャラクターが多い作品だが、エロシーンは同性愛、陵辱、フタナリなど全体的に普通でないものが多いことは留意しとくべきだろう。また一部の陵辱シーンに関してはキャラクターの絶望を強く描写するために、プレイヤーの「抜き」を全く意識していない演出をしている。そのため陵辱シーン目当てでプレイするのは得策ではない。
ビジュアル面に関しては透明感のある綺麗な塗りで、複数原画にもかかわらず大きな違和感はない。一枚絵の数も多い。しかしビジュアル的な恐怖・狂気の描写は、テキストの迫力と比べるとやや劣るかなと感じた。
音楽面は大変満足しており、ここぞというシーンで流れる切なさ爆発な『夜の向日葵』を筆頭に良BGMが多い。ボーカル曲も全6曲と豊富に用意されているが、何と言っても素晴らしいのがOPソングである『空気力学少女と少年の詩』! 爽やかなロックソングで本作独特の世界観を見事に歌い上げている。
システムは必要最低限がそろっていて動作も快適、不満はないというレベル。セーブスロット数が64枠なのは少し足りないかなと思うけれど。
一応本作は同ブランドが発売した『終ノ空』の姉妹作となっている。本作中にも「終ノ空」というワードには重要なポジションが与えられているが、それをプレイしていない自分でも十分楽しめたので、事前プレイ必須ということはないだろう。
それぞれの登場人物が、それぞれ違うものを視ている。それぞれの登場人物が、それぞれ違う世界を抱えている。彼ら彼女らの言葉と旋律は干渉し合い、一つの物語が創られる。
「幸福に生きよ!」。そんな誰もが知る存在理由を胸に行動すれば、きっとその物語は素晴らしき日々となる。単純明快なテーマを超絶技巧なシナリオ展開で強烈に訴える本作を、私は強くおすすめする。