好きだったことを思い出す – 『I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE』を観る
説明不要の超有名キャラクター、スヌーピー。
彼と僕との本格的な出会いは、幼少の頃にカートゥーンネットワークで放送していた『チャーリー・ブラウンとスヌーピー』だった。
まだ、美少女ばかりが出演する創作物に触れる以前のアニメ体験。主人公チャーリー・ブラウンと、その愛犬スヌーピー。彼らを中心としたアメリカンな少年少女たちが繰り広げるコメディだ。
……とんでもなくアバウトな説明だが勘弁頂きたい。何せ視ていたのは15年ほど前のことだ。細かいディテールは遠く記憶の彼方……だけど、憶えていることもある。
例えば、ミニピアノの前に座ってベートーヴェンを練習するシュローダー。
例えば、いつも毛布を手放せずにいるライナス。
例えば、チャーリー・ブラウンが蹴ろうとするとサッとボールをのけてしまう意地悪なルーシー。
ストーリーについては大雑把な記憶しかないが、子供の時に出会った「友人」である彼ら彼女らの特徴は今も思い出せる。
いや、思い出した。
『チャーリー・ブラウンとスヌーピー』を思い出す
さて、アニメ映画『I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE』を観た。
なんといっても掴みでやられた。20世紀フォックスお馴染みのオープニング・ファンファーレをシュローダーが演奏しているという小ネタに上映開始10秒で爆笑。
本編を観終わった感想としては、かつて視ていた『チャーリー・ブラウンとスヌーピー』の雰囲気そのままだった、と。エピソードもカートゥーンネットワークで放送していた各話をミックスしたものだ。
先述したルーシーの意地悪を筆頭に、「凧宙吊り」、「弾丸ライナー」など、『チャーリー・ブラウンとスヌーピー』を視たことがあればこの文字列だけでどんなシーンかを思い出せそうな印象的なシーンの連続で、思わずニヤリ。
あの特徴的な柔らかな絵のタッチも丁寧に3DCGに落とし込み、スヌーピーの毛並みのフワフワ感など「視る触感」をプラスしている。
元のキャラデザインもあって、どこかパペットっぽさもあるキャラクターたちの動きや表情は問答無用でかわいい。
ストーリーには二つの流れがある。
一つ目はチャーリー・ブラウンが転校生の赤毛の女の子に一目惚れしてなんとかお近づきになろうと頑張るお話。
二つ目はチャーリー・ブラウンの初恋に触発されてスヌーピーが妄想たくましく空の男になるお話。(この説明だけだと意味不明だ)
この二つのストーリーは並列して進行するが、分かりやすい形でクロスしたりはせず、ほとんど独立していると言っていい。
チャーリー・ブラウンサイドの素朴な初恋物語に対して、スヌーピーサイドのストーリーは3DCGを活かしたスペクタクル性を際立てるといった役割が強く、「ひとつの映画」としては分裂してしまっている感は否めない。
しかし、スヌーピーというキャラクターはこの自由さこそが魅力のひとつなので、犬小屋型の戦闘機を駆って宿敵レッド・バロンを撃墜するという荒唐無稽な大立ち回りを演じる姿も「らしいな~」と私の目には映った。
一方でチャーリー・ブラウン。一目惚れした赤毛の女の子とまともに目を合わせることも出来ず、それでもなんとか彼女の気を引こうと頑張る。
努力をし、正直を貫き、苦手を克服して、勇気を振り絞る。
そんな「当たり前に難しい」ことを積み重ねていく彼の姿はどれだけ歳をとっても応援したくなる。
クライマックス。この記事の最上段にも動画を貼り付けた「Linus & Lucy」が流れるシーンでは控えめに言って大号泣である。
昔なじみの友人が見せる一世一代のチャレンジに、「行け! 頑張れ! チャーリー・ブラウン!」と、声を合わせて叫びたくなった。そう、かつて『チャーリー・ブラウンとスヌーピー』を視ていた時のように。
幼少期を思い出す
かつてテレビで視ていたキャラクターたちを、十年以上の年月を経てスクリーンで観る。
それは、まるで友人との再会のような感慨をもたらしてくれた。
だから、別にクライマックスの感動的なシーンでなくても、彼ら彼女らが昔視たままの言動を取るだけでどうしても涙が搾り取られてしまう。
思い出補正? 上等だ。それだけでこの映画は僕にとって今年一番のアニメ映画だ。
このキャラクターたちのことを好きだった記憶が掘り起こされるという体験が、一作の映画という器を超えて心の充足を与えてくれる。
本作がなぜここまで僕の記憶を掘り起こすのか。それは、現代のファミリー向けアニメ映画に仕上げるにあたって携帯電話やパソコンといった現代性を表す記号に手を出すことなく、原作『PEANUTS』から続く空気感を連綿と継承しているからかもしれない。
絵柄は少し変わっても、本質的にはかつて視たそのままのスヌーピーたちと再会することで、純度の高い「幼少期の記憶」を傷つけることなく採掘できたのかもしれない。
そういう意味で、この『I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE』は僕にとってまるで宝物のような一作となった。
字幕版でも流れやがる日本版エンディング曲以外は大切に宝箱に保存して、また次の「スヌーピー映画」との再会を待ち続けたい。