どんな話題も政治的にならざるをえない国 – 『トランプがローリングストーンズでやってきた 言霊USA2016』を読む

トランプがローリングストーンズでやってきた 言霊USA2016
町山 智浩
文藝春秋
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週間文春で連載している映画評論家・町山智浩のエッセイをまとめた『言霊USA』シリーズは今回で3冊目。
アメリカ在住の著者が、リアルタイムで見聞きした「言葉」をとっかかりに、映画の話題に限らず様々なニュースや文化について書き記している。

サクッと読め、ゲラゲラ笑え、しかもリアルタイムのアメリカを知ることができる良書ということで、シリーズは全て読んでいます。
今回は昨年3月から今年の3月までのエッセイをまとめていますが、やはり大統領選――特にドナルド・トランプに関連して、人種・宗教に縛られず広く差別問題に言及したものが多かったように思います。

中には「しょうもないセレブたち」の動向に注目したワイドショーネタもあるのですが、これが多民族国家・超格差社会であるアメリカだからだろうか、正当な「怒り」が現地で紛糾している雰囲気が伝わってくるのです。
現在、日本のワイドショーでは舛添都知事の問題がようやく辞任という形で話題が収まりつつありますが、発覚当初は確かにあったような気がする本問題に対する「怒り」もどんどんと消沈。そこに政治性は失われ、最後にはただのイジメショーと化してしまいました。
住んでいる都市の首長の進退問題が、海の向こうの国のセレブのバカ発言に政治性において劣っているように感じちゃうって、ほんと日本は大丈夫なのと思うわけですよ。


個人的に、今回のエッセイで一番面白かったのは「Even if my life is worth less than a speck of dirt, I want to use it for the good of society.(こんなゴミ以下の命でも一度ぐらいは有効に、できれば社会のために立派に使ってみたい)」
黒人教会で9人を射殺した銃撃犯ディラン・ルーフに関する話題で、タイトルの言葉は彼が最も影響を受けたという日本映画『ヒミズ』のセリフです。
ヘイトクライムに手を染めるまでに人種差別主義による視野狭窄が進むと、物語すらもまともに読めなくなってしまうのかと、恐ろしく感じました。

今月12日にはフロリダで100人を超える死傷者を出した大規模な銃乱射事件が起きました。
そちらもやはりゲイを標的としたヘイトクライムでした。

幸いにも、日本ではそう簡単に銃を手にすることができないため、このような大規模な殺傷事件が起きる可能性は低いでしょう。
しかし、仮に日本でも銃の携帯が認められていたとしたら、同様の事件が絶対に起こらないとは私には断言できません。

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