【ネタバレ有り】理想の女を創る方法 – 『エクス・マキナ』を観る
はじめに
憎悪の空より来たりて……
正しき怒りを胸に……
――我等は魔を断つ剣を執る!
汝、無垢なる刃! デモンベイン!
エロゲーマーとしては思わず召喚詠唱したくなるこのタイトル†01。
あらすじは、Googleのような検索エンジンサービスで財を成したインターネット企業「ブルーブック」で働くプログラマーの主人公・ケイレブが社内抽選に当選し、社長・ネイサンが直々に研究している人工知能・エヴァのテスト――チューリングテストに協力するというもの。
その人工知能は美少女型ロボットに搭載されており、ケイレブはその美少女ロボットとの対話を繰り返していくうちに、人工知能とは思えないような人間的反応を見せる彼女に惹かれていくことになる。
……なんだエロゲーか。おっぱいもたくさん出るし!
【ネタバレ有り】アンドロイドはオタク童貞の夢を奪うか
本作タイトルの元ネタは「デウス・エクス・マキナ」である。以下Wikipediaから抜粋。
由来はギリシア語の ἀπό μηχανῆς θεός (apo mekhanes theos) からのラテン語訳で、古代ギリシアの演劇において、劇の内容が錯綜してもつれた糸のように解決困難な局面に陥った時、絶対的な力を持つ存在(神)が現れ、混乱した状況に一石を投じて解決に導き、物語を収束させるという手法を指した。
(中略)
エクス・マキナ(機械によって)とは、この場面において神を演じる役者がクレーンのような仕掛けで舞台(オルケストラ)上に登場し、このからくりが「機械仕掛け」と呼ばれたことによる。由来は、「機械仕掛けで登場する神」ないし、舞台装置としての解決に導く神そのものが機械仕掛けであることとも解される。
この説明を読んで改めて映画を思い返してみると、嗚呼、まさにそういう映画だったな、と。
序盤から中盤にかけて、ネイサンへの不信感を積み立てる演出が続く。山奥に秘密基地的に建てられた邸宅に、天才エンジニアにして肉体派の呑んだくれというキャラクター……怪しい、怪しすぎるぞこの社長!
それに加えて、ケイレブとエヴァが二人きりでチューリングテストを行う中で、ネイサン邸では不可解な停電が起こる。監視の目がなくなった中で、エヴァはケイレブに告げるのだ。「あなたはネイサンに騙されている」と。
ケイレブも別の視点から観客に疑念を与えてくれる。それはエヴァという人工知能に対してだ。彼女はまるで自分のことを見透かされたかのように魅力的な、好みの女性なのである。そして、ネイサンに聴いたところエヴァの人工知能は検索エンジン「ブルーブック」と繋がっているという。
ここから、「我々の日常は何者かに監視されているのでは?」という疑心暗鬼へと物語が突入するのだ。
検索ワードやSNSの友達情報といった俗にいうビッグデータが、web系企業によってビジネスに活用されていることは周知の事実である。あなたもGoogleやFacebook、Amazonなどの広告で身に覚えがあるだろう†02。
更に現在、IoTを旗印に世界中の至る所にカメラやセンサーの類が設置されており、もしもそれらの一部だけでも支配下に収めることができたならば、特定の個人の詳細な趣味趣向のデータを収集することなど容易であることは想像に難くない。
そもそも、人工知能のチューリングテストの判定者なんて専門性の高い仕事を、はたして抽選で決まった人間に任せるものなのか……?
こういった様々な疑心暗鬼が積もりに積もって、「実は、これはエヴァのチューリングテストなんかじゃなくて、俺自身がテストされているのでは――?」といったニューロティックなスリラーへと後半は突き進んでいくのだ。
何を信じればよいのか分からない、そんな錯綜した物語はラストでまさに「デウス・エクス・マキナ」などんでん返しでもって恐ろしい終幕へと至る。ネタバレ有りと宣言したものの、そのどんでん返しの内容と、ネイサン社長の真の目的を書き記してしまうのも味気ないので、ここでは次の一言で本作の全てをまとめようと思う。
童貞にハニートラップを仕掛けるなんて最低だッ!
しかし、それもオタクの夢
『エクス・マキナ』のお話自体はオタクや童貞に優しくない最低(褒めてます)なモノなのだが、それと同時にオタクの夢もふんだんに詰まっている。
女性型アンドロイドと聞くとなるとやはりセクサロイドという発想に至るのは全男性のサガだと思うのだが、本作はそこにビッグデータ、IoT、人工知能といったここ5年ほどのリアルタイムの流行を物語に取り入れることで、高い精度で「実現可能っぽいリアルな夢」を描いているのだ。
つまり、「理想的な女性を創ってしまう」という夢。
映画やエロゲーといった創作も、ある意味では「人物を創る」行為である。それは、「人物を創る」行為の中でも王道であるセックスから出産に至るプロセスよりも、その人物を理想的な存在に育てやすい。
しかし、視覚や聴覚でしか認識できないこれらの人物は文字通り「低次元」の存在となる。では、我々と「同次元」の理想的な存在を創りあげるためには――?
そう、そこで技術の応用である。2016年現在は、先の「低次元」と「同次元」の中間辺りの次元に位置しそうな存在を創れうる技術としてヴァーチャル・リアリティが流行しているが、もちろん人工知能搭載型セクサロイドという究極の夢は捨てきれない。
『エクス・マキナ』ではその夢の光と影の両方を描き浮かばせる。そういう意味ではオタク必見の一作である。
脚注
↑01 | 『デモンベイン』シリーズに出てくる巨大ロボットの名称は「デウス・マキナ」である。念のため。 |
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↑02 | このブログでもGoogleアドセンスを貼り付けていればまさにリアルタイムで「Googleにwebでの動向が監視されている感」を記事中で演出することができたのだが、あいにくアダルトサイト判定を受けてしまい審査落ちしてしまった経緯がある。シクシク。 |