【ネタバレ有り】継承と補完、そしてFDならではの展開 – 『景の海のアペイリア カサブランカの騎士』をプレイ その2

プレイ進捗

『景の海のアペイリア カサブランカの騎士』、昨晩攻略が完了した。

プレイ時間は9時間ほど。6000円のミドルプライスとして考えると新規CG枚数も少なめでややボリューム不足感は否めない。

とは言え50分のドラマCDとオリジナルキャラソングもついているし、ゲームの品質としてはかなり満足できるものだったので個人的には普通に元が取れる一作だった。

ということで、ネタバレ有りで今作がファンディスク的サービスとして前作から継承した点、不足を補完した点ををまとめ、加えてファンディスク故に達成しえた今作特有の見どころについてまとめたい。

景の海のアペイリアFD~カサブランカの騎士~
シルキーズプラス(DOLCE) (2017-12-22)

『景の海のアペイリア』の継承と補完

継承

タイムリープ

やはり、これは外せないだろう。

実は『景の海のアペイリア』のレビューでは「タイムリープ」という語を一切使わず紹介するという縛りで書いた。

間違いなくこのシリーズの肝となるギミック故にそのことを伝えるかどうかは相当迷ったのだが、私はこのギミックを事前に知らなかったことで、この『景の海のアペイリア』というゲームがどのような方向性の作品であるかを示すオープニングシーンでガツンとやられたのだった。
だから、まだそのことを知らない人には私と同じ衝撃を受けてほしかったのである。

そんな訳で、当然のことながらFDである本作でもやはりシンギュラリティ後の何が起きても不思議でない世界で、タイムリープという無限の矛盾を孕んだ事象に翻弄されることになる。

この際だから前作レビューのときに発散できなかった想いをここで昇華してしまおう。タイムリープ、タイムリープ、タイムリィィィィープ!

シリアスな下ネタ

そして、これも外せない。

主人公である零一の変態キャラは、確かにヒロイン達へのセクハラ攻撃でも光るのだが、それだけならばそこらのエロゲーでも見られる光景だ。

零一の変態キャラが最も光るのは、デスゲームというスリラー・シチュエーションにおいて生死のかかった攻防の中で展開されるオナニーネタだ。

特に、今作ではシリーズでもぶっちぎりでバカバカしいにも程があるネタがぶち込まれる。精子加速器、ブラックホールスペルマ、ブラックホール受精卵……このあたりのパワーワードっぷりには思わずひっくり返った。

補完

サブヒロインの昇格

何と言っても今作の肝はサブヒロインである七海と沙羅のメインヒロイン昇格にある。
この点については後で深掘りするためここでは簡単に済ませるが、とりあえず七海がすげーエロかったっす。おっぱい! ナース服! いえーい! 好きです。

ライバルキャラとの共闘

前作では零一とのライバルキャラとして死闘を繰り返しながら、たまに一緒にシリアスな下ネタに真面目に乗っかることで人気を博したシンカーが記憶を失い登場。

バトル物のエロゲーではあるルートでは敵対していたライバルキャラが、別のルートでは手と手を組んで……というのが王道だ。
しかし、前作は最初から最後までシンカーとの腹の探り合いを展開することでサスペンスを持続させる作りだったため、協力するにしても何かしら裏があるのではという疑惑を抱き続けることになり、従って完全な共闘と呼べるようなシーンはなかった。故に今回それが用意されているだけでも燃える。

加えてラストシーン。
前作では自らが零一のスワンプマンであることを認め、零一を現実世界へと送り出すために潔く消失したシンカー。
それが今作では現実世界でハーレムという状況に迷い、逃避してしまった、いわば「桐島零一」であることを見失ってしまった零一に対して、「桐島零一」とは何たるかを思い出させる役目を果たす

本物が偽物に堕してしまいかけたところを、偽物がすくい上げるという構図である。

零一が「桐島零一」を取り戻した姿を見て、消え行く最中に放つ最後のセリフが印象的だ。

「ああ、実に君らしい。やはり、私とは違う」
「では、さらばだ、絶剣」
「また会おう」

仮想世界の海に溶けゆくスワンプマンは、自らと全く同一であるはずの本物に対して確かな相違を見出し、他者としての再開を望む。まことに綺麗な結末で、いいところを全部持っていくおいしいキャラクターに仕上がっていた。

そして、FDならではの展開

本作はファンディスクという形式を取り、前作ではサブヒロインであったキャラクターをメインヒロインに昇格し、攻略することができるという特色がある。

この特色故に、意識する/しないに関わらずファンディスクでなければ描きえない、ある種の(サブ)ヒロイン論を自動的に孕むこととなる。

そして本作ではそのことを意識した作りになっていると感じた。個人的には結構グッとくるポイントだったのでここで「FDならではの展開」として書き残そう。

メインヒロインになれなかった彼女たち

今作のヒロインである七海と沙羅は前作ではもちろん、実はそれ以前にも「メインヒロインになれなかった」ことが今作で明かされる。

それぞれのルートで、ふたりとも学生時代にある出来事により心に傷を負った経験を主人公に告白するのだ。
この時に負った心の傷により男性への苦手意識が生じ、間接的に女の子が好きになるというキャラクター設定の補完がなされるのだが、加えてこのエピソードから次の情報が得られる。

つまり、学生時代の彼女たちの前には学園物エロゲーにおけるヒーロー(主人公)が現れることがなかったということだ。

前作でメインヒロインになれなかったキャラクターが、それぞれメインヒロインになれなかったことにより負ったかつての傷を吐露するというエピソードにより、サブヒロインという立場の痛みを浮き彫りにする。
そんな彼女たちの痛みを確認した上で、今回メインヒロインとして救済できるというのは嬉しいポイントだ。

メインヒロインであったことに気づけなかった彼女たち

さらに、ここに彼女たちが百合カップルであるという設定が乗っかる。
彼女たちは前作で結ばれていた。つまり七海は沙羅にとっての、沙羅は七海にとってのメインヒロインであったはずなのだ。

しかし、彼女たちはお互いに心の傷を告白することなくここまで来てしまった。

今作のクライマックスではその告白を零一にしたにも関わらず、どうして私にはしてくれなかったの、私と零一とどっちが好きなの?! という不満が爆発し、緊迫した状況をまるで無視した長い長いぶつかり合いに発展する。

このぶつかり合いの中で、別の時間軸で零一のメインヒロインとなった彼女たちが、今度は改めてお互いがお互いにとってのメインヒロインにもなるという重婚状態に至るのだ。

こうして今作のメインテーマに結実するという展開は素晴らしい。それもシリアス一辺倒ではなく、無駄に長くてヒートアップするやり取りが妙に笑えるというのも本作らしさが出ている。

今作がなくてもすでに彼女たちはメインヒロインだったんだ。しかし、そのことに気づけていなかっただけ。
ぶつかり合いの中で得られた未来にこそ、メインヒロインの幸福がある。

プレイ中のツイートまとめ

関連リンク

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