やっぱ磁油2ヒロインはアホでねぇと! – 『君と夏と、約束と。』を読む
『君と夏と、約束と。』。数年ぶりにラノベを絵買いした。そもそも新作ラノベの購入自体が数年ぶりか?
イラストは『マゾ×ラブ』、そして『嘘と真琴にお仕置きを』など10mile作品に参加する磁油2さんだ。この儚げなタッチが僕のツボを突く突く。
著者はこの作品で第9回GA文庫大賞奨励賞を受賞した麻中郷矢さん。あとがきや巻末の著者紹介によると、このペンネームで受賞するまではものすごく長いペンネームでweb投稿をされていたらしく親近感を覚えた。
もうこのタイトルがすでにWEB投稿作品の香りがする。『君と夏と、約束と。』。句読点の使い方が僕が慣れ親しんだゼロ年代WEB投稿作品感。
ざっくりジャンルに収めるならば年の差カップルものだろうか。大学生の主人公と、中学生のヒロイン。
同じくGA文庫で発刊され現在アニメ放映中の『りゅうおうのおしごと!』や、今年1月にあかべぇそふとすりぃから発売された『少女と年の差、ふたまわり。』など、最近オトナとコドモな関係性に焦点をおいた作品が流行中なのだろうか?
しかし、本作を読んで一番に連想したのはアニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』だった。
過去にある「別れ」をめぐって深い傷を負った主人公が、その別れた対象と不思議な再会を果たし、お互いに「別れ」をやり直すことで過去と決別し未来へと歩き始める……。そんな、共通するストーリーラインを持つ。
ここでかなり致命的な事実を述べなければならないのだが、私は「あの花」が結構苦手な作品なのだ。
クライマックスの「別れ」に向けて過剰に情に訴えかけるウエットな演出を盛りに盛って、まるで涙のラーメン二郎かというボリュームでお腹を壊したのであった。
『君と夏と、約束と。』もややその気はあるものの、ここはライトノベルの矜持か、過剰な泣かせに走ることなくサラリとした文章でまとめてくれる。
故に、大きな引っかかりもなくすっきりと読み終えることができた……と、思いきや。
ちょっと、このエピローグはないんじゃないかなあ……?
一言で言えば、青くて甘くてアングリー。
この作品は「別れ」を通して、その苦味を飲み込んで、主人公の成長が達成されたというのに。その後に配置するにはこのエピローグはあまりに甘すぎる。
元はと言えば、「あの花」における幽霊に当たる、主人公とヒロインが「不思議な再会」を果たすきっかけとなるあるギミックを作者が手懐けきれていないと感じる。確かに、本作の設定を駆使すればこのエピローグの展開が実現されることも説明できる。しかし、そんな便利過ぎるご都合主義設定を全面展開してまで、成長したはずの主人公を甘やかすようなエピソードを追加されては興ざめだ。
そんなわけで、絵買い100%、ストーリー的にはnot for meな作品だった。
しかし、一点だけ注目せざるを得ないポイントが本作にはある。
どのような経緯で本作のイラストを磁油2さんが務めるに至ったかは知らないが、明らかに『嘘と真琴にお仕置きを』の仕事が前提にあるということだ。
『嘘と真琴にお仕置きを』は、なんといってもヒロインである真琴のアホ面「ぅへへ」笑いのインパクトで作品全体を引っ張る一点突破型の秀作だ。
そして、『君と夏と、約束と。』はまさにそれを連想させるヒロインの「笑い」が複数用意されている。
「ふひっ」
変なことを考えていたためか、変な笑いが口から出てきていた。
「……んへへ」
私はその言葉を聞いて、だらしなく笑った。
こんな描写があるならもう、この手のアホ面笑みといえば『嘘と真琴にお仕置きを』であり、磁油2だろう! という裏事情がすけて見えるようだ†01。
以上の事情により、磁油2さんが描くアホヒロインが好き、特に『嘘と真琴にお仕置きを』が好きな私にとって、ヒロインのキャラ造形には満足したのであった。
脚注
↑01 | もちろんソースはない。妄想である。 |
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