2020年03月に観た新作映画を振り返る

はじめに

昨日、日本政府より緊急事態宣言が発令された。都内の映画館は「基本的に休止を要請する施設」として指定され、少なくとも一ヶ月はほぼすべての劇場が休館することとなる。つまり来月はこの「20XX年XX月に観た新作映画」シリーズもお休みとなる目算だ。まさかこんなことになろうとは。

今年はこのシリーズを始めたこともあってスタートダッシュも決まり、内々に目標としていた「年内に新作映画100本観る」という計画がここに来て大きく狂うこととなった。しかし、そもそも映画がかからないのであればしょうがない。ここで本業のエロゲーに本腰を入れろということだろう。

それでは2020年3月に私が劇場で鑑賞した新作映画について、それぞれ鑑賞直後のツイートと予告編動画、そして簡単な感想を並べよう。

2020年03月に観た新作映画

『SHIROBAKO』

TVアニメシリーズから5年。続編としては結構間が空いたが、オリジナルアニメ『SHIROBAKO』の劇場版である。

そもそも『SHIROBAKO』本編で登場人物たちも成長しきっている訳で、いったい劇場版で何をやるのやらと思ったら今度は劇場版アニメを作るというお話。2019年春、TVアニメシリーズから4年後の武蔵野アニメーションのシビアな現状確認から始まる。テレビアニメをまったく視なくなって久しいが、この5年間で日本製アニメーションの流行りや環境も映画同様に様変わりしていることは想像に難くない。私自身、比較的クリエイティブな仕事に就いていることもあって、本作でも描かれるような長らく関わった企画が突然打ち止めになることも(まさに本作の空白期間に)経験しており、その「シビアな現実」に打ちひしがれる姿には共感してしまう。

しかし、我々はすでに本編で登場人物たちが成長した姿を見ている訳で、たとえ万策尽きかけても結束の力で乗り越えられるだろうという信頼がある。あおいが「アニメーションをつくりましょう」とやおら歌いはじめるミュージカルシーンからは「シビアな現実」に対して一転攻勢、劇場アニメ『空中強襲揚陸艦SIVA』の企画を携えて一発逆転に打って出る。そういう意味ではTVシリーズを視た人にとっては想像以上のことは起こらない、誤解を恐れず言えばこの劇場版『SHIROBAKO』自体が「面白過ぎない」企画だ。だからこそ様々なアニメーション表現による「遊び」が前面に出てくる。本作で描かれることはほぼ全て「地味なコミュニケーション」であり、それをゲームやキャッチボール、あるいは殺陣(!)といった様々な表現を介しながら映像化される。それら心地よい「仕事」が積み重なって、ラストのあの「成果」のカタルシスに繋がっていく。ファンムービーとして見事な終わり方であった。

最後にあえて言及するなら、遠藤の嫁さん周りの描写ははっきり嫌いである。


『Fukushima 50』


東日本大震災による津波によって引き起こされた福島第一原発事故の現場を描いたノンフィクション映画。

新型コロナウイルスの影響が本格的に表出してきた頃に上映が開始され、作品のオチに当たる2020年東京オリンピックも公開後に延期が決定されるという、完全に新型コロナウイルスに振り回された作品となってしまった。そんな不幸な境遇にある作品であるが、あの震災から時間は進み続けており、その最中に起きた世界的な事故の記憶も薄れゆく中で、その恐怖を映画というエンターテインメントとして永く記憶させるためにも作られるべき作品であったことは間違いない。しかし、ツイートにも書いたが本作では肝心要の「面白さ」という点でパンチが弱く、これが永く後世に参照されるような作品になるとは到底思えないというのが正直な感想だ。

ツイートにもある通り、史実通りであるが故に待ちの時間が映画の中で多くを占め、そんな時間をありがちな家族ドラマで埋めようとするもそれが原発事故という題材とうまく絡んでいるとも言い難い。また、日本映画史上初めて在日米軍の協力を得て撮影されたシーンもあるがその挿入の仕方も戸惑いを覚えるレベルの唐突さであり、そもそも外国人周りの演出が下手くそすぎて外国人が出るたびに画面が再現ドラマレベルに落ちてしまうのが致命的だ。ゴジラを原発事故のメタファーとして描いた『シン・ゴジラ』も外国人演出は変な所が多かったが、本作と比べれば遥かにマシだったと上昇補正したくなるレベルである。

現代日本の一大事故という題材に対してリターンが小さい、もったいない映画であった。


『21世紀の資本』

ベストセラーになった経済学書をベースとしたドキュメンタリー映画。

私もブームになった当時に辞書のように厚い原作(とか言いながら電子版だが)を雰囲気読破したこともあって、あれを映画にするという企画自体にまず驚いた。しかし、パルム・ドールとアカデミー作品賞を獲った『パラサイト 半地下の家族』の名前を出すまでもなく今まさに格差社会を問うこと自体がフィクションにおいても大きなブームとなっていることから、まさにこのタイミングでの映画化は腑に落ちるものである。

原作では世界各地域の3世紀分の統計データをまとめ、ざっくりと言えば資本主義社会においては持てる者はより豊かに、持たざる者はより貧しくなるということ、つまり経済格差は必然的に拡大するということをデータで裏付けし、それでは21世紀はその格差をどう是正すべきかというビジョンを示す。そこで、この映画では各年代を描いた映像作品の引用を多く交えながら、過去から現在に至るまでの経済にまつわる大きな出来事をそれぞれ丁寧に取り上げ、ボトムアップ的に同じ結論へと観客を誘う作りとなっており、映画的でなかなかにスリリングな作りとなっている。

本作で現実を直視させた後、我々にできることはなんだろうと、思わず考えたくなる(そしてすぐ放棄したくなる)、そんな一作である。


『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』

DCコミックのヒーローが一つの世界観に集結するDCエクステンデッド・ユニバースの最新作は、『スーサイド・スクワッド』で数少ない褒めポイントであったハーレイ・クインを主人公としたスピンオフ作品。

ツイートに「イフリナイズム」と書いたが、これはもう私が絞り出せる最大級の褒め言葉であることは言うまでもない。もはや世界共通語となった「Kawaii」であるが、私にとってその真髄は圧倒的に自由であることであり、つまりは炎道イフリナである訳だが、本作のハーレイ・クインはジョーカーという彼氏からも開放されて自由に生き、自由にアクションする姿を見せてくれる。

また、映画としても近年のトレンド全部盛りといった様相で、スーパーヒーロー(ヴィラン)映画であり、ポスト#MeToo時代な女性映画であり、そして『ジョン・ウィック』のスタントチームによるハードな肉弾アクションが堪能できる。

そして何よりマーゴット・ロビー主演・プロデュース作品である。ハーレイ・クインという「信頼できない語り手」の独白という構造や、ローラースケートアクションといった要素はどうしても彼女が同じく主演とプロデュースを兼ねた傑作『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』と接続したくなる。個人的にオールタイム・ベスト映画である『ウルフ・オブ・ウォールストリート』で初めて観たマーゴット・ロビーがトップスターへの階段を自分の力で登っていく。今後の活躍も要チェックだ。

おわりに

実はまだ敬愛するエミール・クストリッツァ監督の最新作『世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ』が観れていない。はたして、緊急事態宣言の終了後の世界で私は劇場で本作を観ることができるのだろうか。乞うご期待。

最後に、私の鑑賞記録はWorkFlowyにて5つ星評価でリアルタイムにまとめているので、興味があればウォッチして欲しい。

Share & Bookmark

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です