『White Princess 〜一途にイっても浮気してもOKなご都合主義学園恋愛アドベンチャー!!〜』レビュー

点数ブランド発売日
25点feng2003-11-07
シナリオ
早川柚流
原画
あおいまなぶ
紹介サイト
feng OFFICIAL WEBSITE :: WhitePrincess
備考
 

ヒロインとプロローグ

本作のメインヒロインは四人。
狭義の幼馴染の望月 真心こころ新川 透子
かつて通っていた道場で一緒だったという広義の幼馴染の武内 花織
始業式で意気投合したハーフの華岡・アレクサンド・柚那
ここに男友達枠(可愛い系)の白瀬 鳴海が加わり、主人公を含めて6人の仲良しグループの学園生活が描かれる。

入学式から夏休みまでが回想という形で語られ、これが実質的にプロローグとなる。
プロローグの最後にはヒロインのうち一人とキスをすることで関係が進展し、その新たな関係性の中で二学期を迎え、物語の本編が始まる。

一途にイっても浮気してもOK?

本作のコンセプトはすべてサブタイトルで語られている。ずばり「一途にイっても浮気してもOKなご都合主義学園恋愛アドベンチャー」だ。
エロゲーが一途な恋愛を描いたりご都合主義であったりすることはスタンダードなので良いとして、やはり目を引くのは「浮気してもOK」の部分だろう。

改めてメインタイトルに目を向けると「White Princess」
正直言ってこのタイトルはゲーム内容を言い表しているものとは思えず、やはり浮気を題材にした先駆的作品である『WHITE ALBUM』への目配せ的オマージュなのかもしれない。

本作は先述した通り、プロローグ時点でひとりのヒロインを選択し、以降いわゆる「正妻」ポジションとして位置づけられる。
物語本編ではその正妻をキープしたまま他のヒロインに手を出すことができ、そういう意味では確かに浮気はできる。

しかし、たとえ浮気ができても本作で"浮気を楽しむ"ことはできない

例えば、本作の非正妻ヒロインが、主人公と正妻ヒロインが付き合っていると認識した上でアタックしてくるといった描写がない。
特定のヒロインが正妻であることをきっかけとして生じる差分もあまりなく、だれと付き合っていても整合性を崩さない汎用的なイベントをこなしていく過程で提示される選択肢で正妻とも、正妻以外のヒロインとも、自由にイベント(エッチ含む)が楽しめるだけ。
つまるところ、浮気ができると謳っているパートはそのほとんどがただの共通パートでしかないのだ。

パッケージなどで用いられている「彼女がいてもいいから私と付き合ってください!」というキャッチフレーズを見て、プレイ後になんとも虚しい思いがした。
ヒロイン側から玉砕覚悟の猛烈なアタックを受けて、恋人を裏切ってしまってでもころりとそちらに傾いてしまう、といった罪悪感を味わうことができなかったからだ。

ご都合主義を背負う覚悟

もちろん、修羅場もない。
他のヒロインと行為に至ったことに正妻ヒロインが気づくといった描写がないのだから当然だ。
どれだけ浮気をしても、それはやはり汎用的に使えるシーンが連なる共通パートでしかないのだからそういった差分が生じることがないのだ。

一応、そういった胃がキリキリするような展開は「ご都合主義学園恋愛アドベンチャー」に相応しくないという言い訳は立つが、そんな自称「ご都合主義」をあらかじめ掲げることこと自体にいらだちを覚える。

エロゲーにおける「ご都合主義」はプレイヤーへのおもてなしとして機能する分には最大化すべき要素であると私は考える。
最速かつ一直線に主人公に惚れる美少女、エッチシーンの障害になりうる主人公の両親の不在。
これらは本作にも搭載されているエロゲーの定番で、ストーリーとしては確かにご都合主義であるが、プレイヤーは美少女とのイチャイチャとエッチを楽しむためにもエロゲーをプレイしているのだからその都合の良さは基本的にプラスに働く。

しかし本作の「ご都合主義」はそれを免罪符として用いているようにしか見えない。
複数のヒロインの心情が絡み合う複雑なフローチャートとテキスト差分で正面から浮気を表現することを避け、単に選択肢を大量にばら撒くだけで後の展開にまるで影響しない寄り道を用意することでそれを浮気と言い張り、浮気というコンセプトから生じる面白さはまったく達成されずいたずらに特定エンドの難易度が上がっているだけ。

「ご都合主義」をサブタイトルに掲げているのは自虐ギャグのつもりだろうが、そもそも自虐で笑える程度にはぬかりなく面白い作品に仕上げてくれというお話である。

型どおりな個別ルートシナリオ

本作は共通ルートでいくら浮気をしようとも基本的には正妻ヒロインの個別ルートに進む(一応、正妻ヒロインの個別ルートに入らず特殊ルートに入るパターンもあるが話が複雑になるためここでは割愛)。
個別ルート中でフラグが立っていれば正妻+特定ヒロインのハーレムエンド、または正妻ヒロインとのちょっと過激なIFエンドに入ることもできる。

先述した通り、本作は浮気を表現するために大量の選択肢がばら撒かれており、かつどれがフラグに関わるのかも分岐後のテキストから読み取れないことが多く、特にIFエンドのフラグを立てるのは非常に難しくなっている。
そのIFエンドもヒロインのキャラクター崩壊も辞さないでエロシーンを展開するという内容のため攻略に苦労する割にはあまり嬉しくないのが悲しいところだ。

さて、どれだけ浮気をしても所詮は単なる共通ルートを超えた先に待つ正妻ヒロインの個別ルートであるが、メインヒロインである4人ともそのストーリーはひとつの型で説明できる。
その型を箇条書すると以下のようにまとめられるだろう。

  1. ピアノの発表会や部活の大会など、ある試練をきっかけにヒロインがメンタル不調をきたす
  2. メンタル不調を理由にヒロインは主人公と距離を取ろうとする
  3. 主人公や周辺人物のメンタルケアにより回復に向かう
  4. メンタル不調を乗り越えてハッピーエンド

こうしてまとめると、当時はまだ泣きゲーブームの強い影響下にあったことをうかがわせる内容だ。
この型自体が悪いとは言わない。感動的なハッピーエンドへとストーリーを導く上である程度は優秀であるといって良いだろう。
欠点を挙げるなら、この展開によってヒロインの心の弱さや醜さといった弱点をさらすことになるため、調理方法を間違えるとヒロインの見たくなかった姿を見せられて結果的に心が離れてしまうことが起こりえる。
個人的には透子ルート柚那ルートは特にバランスが悪くヒロインの魅力を欠いていると感じた。端的に言えば、ヒロインが理解不能なヒステリーを起こしているような見え方をしてしまっているのだ。
唯一、この型をうまく活かしていたと評価できるのは真心ルートだけだろう。

真心は日本人にも関わらず特異な体質で金髪碧眼なのがコンプレックス。
そのことがメンタル不調の原因のひとつとして機能するのだが、そこにピンク髪紅眼のサブヒロインが平然と登場するため作中のリアリティラインがブレブレなのが惜しい。
とはいえストーリーを下手に重くしすぎずメンタル不調の解決も軽やかにこなした真心ルートはそこそこ楽しめた。

各ルートの完成度の良し悪し以前に問題なのが、プレイしていてこの型が透けて見えるほどに分かりやすく型通りであることだ。
ルートを重ねるにつれて先の展開が手に取るように分かるようになり、天丼ギャグ的にちょっと笑えてくるかもしれない。まあ、そこで笑えてもゲームとしては面白くないのだが。

総括

最新のパッチを当てれば不自由なく遊べるが、販売当初はバグが酷かった。
不定期的なクラッシュ、4行以上のテキスト表示で文字送りが止まる、BGMの再生が不安定、回想やCGが追加されない……とにかく大量のバグを抱えていた。
このことからも開発終盤(ちなみに二回延期している)の現場はてんやわんやで、作品としてのクオリティを磨くどころではなく、製品としてリリースできる状態にすることで手一杯だったと推察される。

長々としたサブタイトルで本作のコンセプトはすべて提示されているが、そこから想像できる面白さを内容に込めることに失敗していると言わざるをえない。
失敗したコンセプトからそっと目を背ければ、辛うじて複数人物間の掛け合いは賑やかで楽しかったと評価できる。しかしシナリオは弱くエッチシーンも淡白、必然的にキャラクターの魅力を最大限引き出せないまま、大量の選択肢による高難易度によりただただ疲弊する作品だった。

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