『魔法使いの夜 -WITCH ON THE HOLY NIGHT-』レビュー

"時間をかけて、大切に、大切に創られた一作(皮肉でなく"

魔法使いの夜 通常版
魔法使いの夜 通常版

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TYPE-MOON (2012-08-10)
売り上げランキング: 267
点数ブランドプレイ時間
80点TYPE-MOON約20時間
シナリオ
奈須きのこ
原画
こやまひろかず
紹介サイト
魔法使いの夜
備考
 

音声なし、選択肢なしの一本道作品。その漢らしい仕様は寡作なTYPE-MOONが時代に取り残されたわけでなく、ビジュアルノベルという表現を一歩進めるがための選択。

舞台は1980年代後半。見習い魔法使いである蒼崎青子と、山奥の田舎から都市へと引っ越してきた静希草十郎を中心とした、ジュブナイル・ファンタジー。

TYPE-MOONがこれまで世に送り出してきた『月姫』『Fate/stay night』などと同一世界の物語。特に本作主人公兼ヒロインである蒼崎青子は奈須きのこワールドにおける最重要人物の一人であるだけに、その物語が語られるのは嬉しい。

別作品と共有されるキャラクターや設定の数々はそれだけで熱いモノを感じさせる武器であるが、一方で、上記の作品が未プレイであってもまるで問題なく本作を楽しめるだろう。同じTYPE-MOON作品の中ではプレイ時間も短めなので、奈須きのこワールドへの入り口としてもおすすめできる。

当然ながらプレイ時間が短い分、シナリオの密度はしっかりぎっしり詰まっている。熱いバトルシーンはもちろんのこと、自分の命を握られているようなシビアな状況下でもユーモアを忘れないキャラクター同士の掛け合いなど、エンタメ作品として時間を忘れて一気にプレイできる物語に仕上がっている。

そんなシナリオを支える――どころか、物語以上に目立ってやるぜと気合入りまくりな画面演出に触れずして本作を語るのはおそらく不可能だろう。

動く、回る、流れる! ハイクオリティな立ち絵や背景などの素材の数々が、ふんだんなアイデアによって画面を彩る。クリックするごとに一つのセンテンスが物語られて、それに連動した演出ギミックがそのセンテンスに命を吹き込む。

これぞまさしくビジュアルノベル! ここまでの異常な凝りようは、どれだけの時を経ても業界標準とはなり得ないだろう。

そんな画面演出に負けじと〝音〟の面でも大健闘。キャラクターボイスがない分、余計に意識することになるBGMは、豊富でどれも心地良い。バトルシーンに欠かせないSEも多分に用意されていて、各シーンを盛り上げるのに一役買っている。

これだけのバックアップを受けて、キャラクターの魅力も一級品だから本当に隙がない。特に主人公である蒼崎青子のキャラ造形は奈須きのこの定番といえる安定したツンデレヒロイン。ボケボケしたもう一人の主人公である静希草十郎によって、殺意のこもった警戒心が少しずつ解されていく冷静沈着な魔女・久遠寺有珠もまた魅力的。

ただ、非18禁作品ということもあってか恋愛描写は少なめで、それ以外の感情によるキャラ同士の心の繋がりに重きが置かれている印象。恋愛の上でのキャラ萌えを期待する作品ではないかな。

主役三人ほどの出番はないものの、サブキャラクターたちにもしっかりとしたアピールポイントがあり、すでに制作する意思が表明されている続編にてどのような活躍が見れるのかも楽しみにしたいところです。

そんなワケで。次の作品は早く出してよ、型月さん!

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