ション! – 『LAMUNATION!-ラムネーション!』体験版をプレイ
ラムネーション!
ツイッター上で激烈な反応で盛り上がっていた『LAMUNATION!-ラムネーション!』体験版。
その体験版をプレイしたきっかけは次のツイート。
ラムネーションは「超高速」をコンセプトに作ってるので、展開についていくのは結構大変です(
ガイ・リッチーの作品とかを参考にしました— けっぽし/2.26予約開始 (@Kepposhi) 2016年5月19日
別にガイ・リッチーはそれほどファンではないのだけれど、『スナッチ』等のタランティーノっぽさが好きなのでそれっぽい感じなのかなあと気になった次第である。
ファースト・インプレッション!
プレイ開始直後からアヴェ・マリアが鳴り渡り、画面の隅からスタッフ名が順にクレジットされる。
あらかじめ「ガイ・リッチー」という単語を察知していたこともあり、どことなく最近の映画っぽい雰囲気で、いきなり舞台は上空。
プレイヤーは今から何が起きるのかもわからないままヒロインが無線越しに登場。幼馴染と妹が謎の唾液交換。
あれよあれよと状況は進み、ヒロインともども空へダイブしてタイトルコール。
「ラムネーション!」
体験版を最後までプレイすればこのシーンの意味が分かるという構成になっている。
さてさてそうして物語が始まるのだが、本作には物語はほとんどない。
一応、物語の軸としては主人公の幼馴染である碧海らむねが実家のラムネ工場で作るラムネを流行らせようとみんなで頑張る、というストーリーラインはある。
しかし、そのストーリーラインは非常に薄い線であり、基本的にはそれと全く関係のない主人公とヒロインたちによる行き当たりばったりなドタバタに終始する。
どれくらい行き当たりばったりかというと、ヒロイン二人の頭と頭がごっつんこして『おれがあいつであいつがおれで』な意識入れ替わり展開があるのだが、その5分後には「なんやかんやあって元に戻りました」とアナウンスされて何事もなかったかのようにストーリーが進む。
しかし私はこれを本作が仕掛けた壮大な伏線であると読む。
このシーンでは互いに身体が入れ替わった二人が、そのまま身体の持ち主のモノマネをすると無駄に上手いというギャグが挟まるのだが、ここまで来ると身体と意識が別人であるとは分からなくなってしまう。そう、実は二人の身体は戻っておらず、互いが互いの性格をトレースし、演じ続けていたという事実が終盤で明かされるんだよ!(ナンダッテー!
とまあ、こんな感じの凝ってる上に意味のないやり取りが延々と続くゲームです。
ナレーション!
本作独自のポイントとして、「ナレーション」を挙げたい。
本作は基本的に小説的な地の文がなく、代わりにお姉さんボイスの「ナレーション」が状況を説明する†01。
つまり、登場人物でない三人称の語り部からして強いキャラクター性を帯びており、プレイヤーと同じくちょっと引いた視点から主人公たちのドタバタを眺め、時に状況説明をし、時にツッコミを入れ、時に登場人物たちとお喋りしだす。
そんな、読み物というよりも映像作品的な発想に基づいた「ナレーション」による不思議なエロゲー体験はちょっと新鮮だった。
しかし、弊害もある。
プレイヤーが登場人物の会話を聴いて当然感じるであろうことを、「ナレーション」がそのままボイス付きで説明するものだから過剰に説明的になってしまっているシーンが多々ある。
過剰な説明は掛け合いのテンポにブレーキを掛ける上に、単純にバカにされているようでイラッと来る。特に本作はジャンル名を「ノンストップハッピーコメディADV」と謳っているだけに、テンポの悪い「ナレーション」の挿入は相当にキツい。
もちろん、制作側も勝算があってこの「ナレーション」という独自のストーリー・テリングをしている訳で、それがコメディ的に巧くハマって笑えるシーンもある。
打率は……4割くらいかなあ。野球なら強打者だが、コメディアンとしては半分以上の笑いを殺してしまっているので致命的かもしれない。
テンション!
本作はコメディであり、基本的には高いテンションで支離滅裂な言動を繰り返すキャラクターのおかしさで笑いを取ろうとするタイプの作品である。
この手のコメディは度を越してテンションを上げてギャグを詰め込み過ぎると、かえって「面白いでしょ? ね? ね?」という作り手の顔が見えてきて萎えるものだが、本作は意外とその点はわきまえているように感じる。
先述した「ナレーション」というギミックも、支離滅裂でボケた言動を繰り返す登場人物を「ちょっと引いた視線」で見せることで、いくらか暴走を押さえ込む機能を果たしているように感じた。
『ラムネーション!』体験版。良い意味で思っていたのと違う。もっとハイテンション系コメディかと思っていたが、テンションは抑えめにキープしてて寧ろ洒落た感じ。意地悪な言い方をすればアメリカ文化かぶれなギャグの連打は確かに好き嫌いが分かれそう。
— こーしんりょー@SpiSignal (@KO_SHIN_RYO) 2016年5月23日
そう、テンションを抑えることで、いい具合に洒落た雰囲気を出せているところもあるのだ。
特に、個人的に気に入っているところとして作中でのSNSの扱いがある。
SNSを通じて誰かの感情が爆発的に発信・共有・拡散される高揚感を巧く表現できている。
最近の映画で言えば『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』のあの感じだ。
加えて、本作にはツイッターへの投稿機能がある。
物語が「共有する」というアクションの劇的さを示すことでプレイヤーにも「共有する」ことを促し、そのための手段もきっちりと用意しているのである†02。
そうすることで、「共有する」という感動が物語から現実へと即座に波及していくように作られているのだ。
この目の付け所はかなりいい線をいっており、敢えて本作っぽく言うならば「Marvelous!」って感じだ。
その一方、洒落たところもあればまだまだダサいところもある。
いわゆる「俺TUEEEE!!」的な主人公活躍シーンでは、ギャグではいくらか引いた視線で語れていたのとは一転して、ナルシシズムを感じる痛~い描写が満載で率直にキツい。
主人公の格好良さを示すにも、もっとはっきりとしたオチを付けてくれた方がバランスがとれたかなあと感じた。
アテンション!
私のタイムラインでは本作に対するネガティブな意見がガンガン共有されていたが、個人的にはそんなメッタメタに叩くほど悪い作品でもなかったなってのが率直な感想だ。
見るべきところはしっかり用意されているし、新しいことにチャレンジしようという心意気も感じられる。そうでなくとも、ディスコ感、テクノ感の強いやっぱりアメリカ文化かぶれな本作のBGMの質が低いとは誰も言えまい。
確かに、度を超したスラングの連打や、風刺の効いてない放り投げてるだけの時事ネタなど、作品としては洗練されておらず、未成熟なところも多い。
しかし、本作はまさにその未成熟な若々しさで攻めるタイプの作品だと捉えているのでこれはこれで有り。譲歩しすぎ?
どちらにせよ、私個人としては「みんながクソだと言ってるからプレイしていないけれど貶めちゃう」ような付和雷同スタンスには常に否を唱えていきたい所存なので、まあ時間があるなら体験版に手を出してみて、癖の強い味付けに20分耐えられるかを試してみるのがいいのではないだろうか。
脚注