「Virtual」=「仮想」という概念の獲得 – 『VRビジネスの衝撃』を読む

今年はVR元年と呼ばれている。Oculus RiftHTC VivePSVRといったハイエンドなVRヘッドセットの一般販売が始まったことがその理由だ。誰も彼もがVRを話題に出すようになり、そんな中『ポケモンGO』が流星のごとく現れて社会現象を起こし、VRとARがごっちゃになった言説も聞こえてくる。

昨日は人気ライトノベル『ソードアート・オンライン』のハリウッドによる実写ドラマ化という驚きのニュースが飛び出したが、このことからハリウッドもVRとのコラボレーションを打ちやすい企画を探し回っていることがよく分かる。少し前には『アルマゲドン』『トランス・フォーマー』シリーズで世界的ヒットを飛ばし続けるマイケル・ベイがVR作品の製作に関わっていることもアナウンスされ、ゲームだけでなく広くエンターテインメント業界全体がVR活用に舵を切りつつある。

テレビやスクリーン、ディスプレイといった四角い枠は取っ払われ、「映像」は「体験」へと移行しつつあるタイミングにあるのだ。

Oculus Riftがクラウドファウンディングで多額の資金調達に成功したことで火が点いたVRブームは、2014年にFacebookがオキュラスVR社を20億ドルで買収したことで一時的な流行を超えて「未来の当たり前」になるだろうという機運が高まった。

……と、ここまで書いててVRの歴史的流れとかここで書く必要ねえや眠いしという感じになってきたので、この続きは記事タイトルにも載せた『VRビジネスの衝撃 「仮想世界」が巨大マネーを生む』を読んでいただくとして、以上を前提知識とした上で本書で個人的に最も面白かったポイントだけを紹介する。

そもそもVRとは何でしょうか。
日本語では「仮想現実」という訳語が一時期に定着していましたが、これは本来の意味からするとミスリードでした。英語の「virtual」に「仮想」という訳語を与えるきっかけとなったのは、コンピュータ製品や関連するサービスを提供する老舗企業の日本IBMが一九六五年に「Virtual Memory」の商品を発表したときです。その際にシステムエンジニアが「仮想記憶」と訳したことに端を発します。

『VRビジネスの衝撃 「仮想世界」が巨大マネーを産む』より

この流れにより日本人は「Virtual」=「仮想」という概念を獲得するに至る。この後本書で言及されているが、英英辞典で「virtual」を引くと「仮想」とはかなり毛色の違う概念であることが分かる。以下の訳は本書のもの。

  1. very nearly a particular thing(ほとんど実質的なもの)
  2. made, done, seen etc on the Internet or on a computer, rather than in the real world(現実世界よりもむしろ、インターネットやコンピュータによって作られ、行われ、見られる)

従って、英語圏における「virtual reality」は原義的には「現実世界とは異なるが、ほとんど実質的には現実世界である」ことを意味する。一方、日本では「virtual」=「仮想」であり、「バーチャルリアリティ」は「仮想的な現実世界」を意味する。この言語間のギャップにより「virtual reality」≠「バーチャルリアリティ」となり、互いに異なる進化をとげることとなる。

つまり日本式の「バーチャルリアリティ」は「ここではない、どこか」を創りだすことを志向し、「ほとんど実質的には現実世界」≒「ここ」から離れて日本独自のキャラクター文化が花開く仮想の世界を作り出そうとしているだ。

「ミクミク握手」や『サマーレッスン』など、仮想のキャラクターとのコミュニケーションを楽しみ、本来は実在するはずのない世界を、あたかも現実だと認識するような実在感を持って体験させるところに、日本のVRコンテンツの特性があるのかもしれません。このように考えていくと、序章で指摘したような、「バーチャルリアリティ」の訳語「仮想現実」を誤訳である、とも言い切れなくなってきます。

『VRビジネスの衝撃 「仮想世界」が巨大マネーを産む』より

僕はエロゲーオタクなので「バーチャルリアリティ」と聞くやすぐさま炎道イフリナとの現実感を伴う出逢いという夢を見る。炎道さんを知らない人のために言っておくと、彼女はフィギュアの身体であり、身長は12センチである。そんな彼女が動き、喋り、笑い、魔法をぶっ放す世界はもちろん「ほとんど実質的には現実世界である」わけがない。だから僕は要求する。僕がまた炎道さんを前にして恋におちてしまえるような「バーチャルリアリティ」の構築を。誰かがやってくれないならば僕がやるしかない。

VRビジネスも魅力的な話だが、僕は僕の闘いのためにVR技術という武器を振るいたい。

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