【ネタバレ有り】『クリミナルボーダー』3話までのまとめ
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はじめに
ぶっちゃけた話、3話のネタバレ無しレビューで書けることは全然なかった。
プレイした方なら御存知の通り、後半のショッキングなシーンの比重がかなり大きい作品であり、そこは絶対に伏せるべき事項だったこともある。
しかしそれ以前に、全4話のうちの第3話という中途半端な立場の作品を未プレイ者を対象に語るということの難しさがあった。それはこのブログで一貫している方向性との齟齬であり仕方ないのだが、書く側としては消化不良で腹痛待ったなしである。
というわけで、最終作をプレイする前に全編を対象にレビューとは別枠でネタバレ有りの感想をフリースタイルにまとめておこう。
1stについても3rdをプレイした前提で記すため、まだ3rdをプレイしていない方はご注意ください。
タイムライン
感想をまとめるにあたり本シリーズの時系列を大雑把にまとめた。
密度にはばらつきがあるが、作中で描かれるすべての日付は網羅されているはずだ。
文字サイズが小さすぎて読むには適さないだろうが一応画像に変換している。ブログ機能を用いてアップすると劣化して読めたものじゃないので、こちらで共有する。興味があったらどうぞ。
特に、星印(★)が付いている事項は登場人物の心情が大きく変化したと個人的に思った重要なイベントである。
このタイムラインを作ろうと考えたきっかけは、セーブ画面でしか示されないが、一応出来事の年月日が明確に設定されているからだ。
おおよそ各話ごとにどれくらいの作中期間で物語が展開されているのかを俯瞰するのに役に立った。
樹がいつ、誰と出会い、何をしてきたか。そしてどのように心情が変わっていったか――咎人の境界線を踏み越えていったかを追いたい。
1st offence「逸脱者の矜持」
後々に響くことなのではじめに言っておくと、このシリーズで一番好きなヒロインはこの1stでフィーチャーされる萬屋ひなだ。レビューでも書いたが、やはり「萬屋兄妹」というセットで見事に魅力の相乗効果をあげている。
全体のプロットから見返してみても樹が「大人と戦う」ことを決意するに至るきっかけとなるキャラクターであり、言わずもがな最重要ヒロインだ。
キャラクター類型としては今をときめく「オタクに優しいギャル」の系譜に当たる。
エロゲーヒロインとして求められる貞操の固さを携えながら、主人公を前にしたときだけに見せるちょっと独特な貞操観念という形で「オタクに優しいギャル」をうまく昇華しているイメージだ。
そこから生じる「当たり前にセックスもする女友達」感は、主人公が複数人と性的関係を結んでいく連作エロゲーというフォーマットの最初のヒロインとして必要な「重くなさ」もある。たぶん、ここのバランスが悪かったら二作目以降で他ヒロインと関係を持つにつれてユーザー側がしんどくなっていたことだろう。
プレイ当時、以下のようなツイートをしていた。キャラクターの魅力を引き立てる演出も見事だ。
テキスト、スクリプト、演技の合せ技で老舗ブランドらしい練度の高さを強く感じる小技演出だ。
『クリミナルボーダー1st offence』、主人公の心情とそれを読むプレイヤーの心情とが緩やかにシンクロしていることに、時間差でヒロインに指摘されて気づかされる、という笑いはノベルゲームならではの体験で好き。「え、そんな入れるの?」って台詞が食い気味早口なのも巧い。 pic.twitter.com/DVMclIRKqw
— こーしんりょー@SpiSignal (@KO_SHIN_RYO) May 18, 2023
中盤の電子ドラッグ乱交シーンをギャグテイストで処理した問題について。
このシリーズの表現のレギュレーションについて、3rdをプレイした視点でこの1stを見返してみると、どこまでエグい表現をするかという問題は作り手側でも議論があったように思う。
性暴力を含んだエンターテインメントとしてユーザーが引いてしまう(以降の購入をためらってしまう)ような表現に線を引き、どこまで「リアル」に描くかを葛藤した末のあの処理だった、と今は理解する。
逆に言えば、1stであの乱交シーンをエグみをもって表現した場合は、3rdでのあの出来事は直接描写されていたかもしれない。その良し悪しは議論の対象になるだろう。
最終作への伏線について。
ひょっとしたらと考えている描写として、樹が電子ドラッグをMeTubeに非公開でアップロードしている点に注目したい。
もしも電子ドラッグがコピーされたとしても、それを作ったのは自分だとアピールできるようにアップロードを削除せず残しておこうと提案したのはひなだった。ある意味、彼女が遺したもののひとつだ。
また、思い返せば1stにだけ選択肢が存在する。コージに脅されたときに樹がどのような行動を採るかという内容で、どちらを選んだとしても直後にメリルが助けてくれるため大きな分岐は生じない。
もちろん、ゲームとしてプログラムが分離されているためどちらを選択したかのフラグは保持されているはずもなく、ほとんど意味のない選択肢となっている。
この演出の意図を考えると、樹の身に危機が迫ったそのときはユーザーに判断を委ねますよ、という目配せのように思う。
であれば、大きく物語を分岐をしても後々の整合性的な問題が生じない最終作でヤバい選択肢が提示される前フリではなかろうか。そう考えるとちょっと怖い。
2nd offence「悪の一分」
個人的にはこれまでの三作で最もストレートに面白いのはこの2ndだと思っている。
理由は単純で、「店を持つ」という登場人物たちの目標が明確であり、そのひとつの目標に向けて(敵役も含めて)各々が動くために必然的に登場人物間の接触が増えるからだ。
次々とトラブルが起きる物語展開のドライブ感と、キャラクターの魅力の掘り下げとが不自然なく両立できるお話だったのが大きい。
つまるところ、二作目という繋ぎの作品としての交通整理を卒なくこなした印象だ。故にストレートに面白いが、ユーザーに与えるインパクトでは3rdに劣る。
『クリミナルボーダー 2nd offence』。口調が普段と違って敬語になってて本気度がうかがえるセリフなんだけど、演技的にも言い方で笑える台詞にもなっていてゲラった。 pic.twitter.com/OzUo3Jbqli
— こーしんりょー@SpiSignal (@KO_SHIN_RYO) January 18, 2024
個人的に好きなシーン。
声色からそれが本音と分かるように演じ分けた小波すずさんのコメディ演技が見事。
凛も作中で述べていることだが、実はすべてがひなの手のひらの上なのでは、と感じるところがある。
レビューでは「空気を読めすぎる」力と表現したが、樹が琴子と至った後のファミレスでのアフターフォローのシーンは物語展開上でひな自身の底知れぬ能力が最も発揮される。
彼女の真の能力は「空気を読めすぎる」力をはっきり自覚した上で行使する、その人誑し力とも言えるだろう。ある意味でエロゲーヒロインが最も携えるべき素質ってやつだが、同時に本作の物語においては樹と他の人物を繋げる裏方として最高の効果を発揮している。
振り返ってみると樹たちの支柱はある意味でひなだった。単なる確認だ。
琴子は1stから3rdにかけて大きな成長が描かれるヒロインだ。描き方によっては「もう一人の主人公」になりえるくらいに変化が大きい。
それまで孤独だった存在が仲間を得て葛藤を乗り越え成長する、という見方をすれば樹と同じ道を歩む存在といえる。
レビューの文脈を踏まえて言えば琴子もまた分かりやすく「子供」なのだ。正義の極道というありもしない幻想を信じ込むことで現実から逃避し続けてきた子供。
そんな子供が成長した姿が3rdでしっかりと反映されているのが面白い。連作だからこそ映えるキャラクターデザインをしていると感じた。
実は結構コージが好き。
そもそも前作で怒烈弩の面々の前でレイヴを見せられて公開オナニーをしてしまった段階で個人的に好感度はうなぎのぼりだった。
そんな彼が東雲からの圧力(パワハラ)で追い詰められて、麻薬でラリったまま暴挙に至って自滅するわけだが、まるで自分を見ているみたいで心が痛んだ。共感するところそこかよ。
3rd offence「ひび割れから差し込む光」
ネタバレ無しでレビューを書くのが非常に窮屈だったことは言うまでもない。
だからはじめに叫んでおこう。ひなが殺されちゃった! この人でなし!
タイムラインを起こしたことではっきりしたことだが3rdは時間の流れがそれまでよりも早い。
1st、2ndはそれぞれ作中時間で20日間ほどの物語だが、3rdでは40日ほどが流れる。
その理由は明確で樹の目標が「雨紋会を潰す」という大きく抽象的なものにシフトしたからだ。
店について凛やひなと細かなやり取りはなされているであろうが、それらはスキップされてどんどん時間が進んでいく。
必然的に、今作のヒロインであるメリルとふたりで過ごす時間が多い。開店するまでの過程で様々な人物と会っては調整・相談を繰り返していた2ndとは対象的な作りだ。
これは予想だが、海外マフィアが入り込んだことでますます目標が大きく、抽象的になったlife sentenceはより長期に渡る物語になるだろうと考えている。
何かショッキングな展開が起きるということはプレイ前から知っていた。発売当時からざわついた声が聞こえてきたからだ。この展開はどうなんだ、みたいな。
プレイ前の予想としては、本命はヒロインの退場――と思わせて、実は各ヒロインよりも人気がありそう(こーしんりょー調べ)な辰也の退場だ。そうは言っても途中でヒロイン格のキャラクターを退場させる覚悟があるのだろうか、と。
あるいは樹に対するショッキングな暴力シーンも予想していた。片腕かペニスくらいは持ってかれるかもなと。
この予想は、1stと2ndでヒロインたちによって樹の外見が変わっていくというそれまでのお約束展開から導いた。何らかの事情があって、メリルによって樹に外見的に変わってしまうような傷を負わされる、みたいな展開はいかにもありそうだと思っていた。
だからひなのスマホを東雲から渡されるシーンはなかなか堪えた。
正直、辰也退場の雰囲気がかなり濃く演出されていたことからこれはミスディレクションなんだろうなあと察してはいたので、これはいよいよという予感はあった。
東雲たちによって殺害されたひなは、最終的には死体をシチューメーカーでどろどろに溶かされて樹によって海に捨てられる。
カレー作りが趣味で街の洋食屋さんのお店を持ちたいと夢を語った少女の成れの果てがシチューというのはなんとも悪趣味な最期だ。
ひなの死は直接的に描かれない。
シリーズを通して主人公である樹から視点が離れるシーンは多くはないが、見るに耐えないその現場はユーザーに見せないという判断がなされている。
メリルからの伝聞で間接的な表現で語られるのみだが、殺害に至る過程で性暴力があったとしても不思議ではない。しかし、描かれない以上は何が彼女の身に起きたかは想像するしかない。
描かないという手法を取った上で、もっともユーザーにショックを与えうる方法として採用したのがシチューだったということだろう。きっと、樹はもうカレーを食べられないね……。
そんなショックを与えてくれた3rdであったが、はっきり言ってひなが殺されるというショックと、そこからの東雲への復讐に全振りした作品で、それまでのシーンが全部「前フリ」となってしまっている点は単体のエロゲーとして明確な欠点と言えるだろう。
しかも東雲への復讐を果たしても心は虚しいまま。さらに畳み掛けるように、ひなを殺害するに至った東雲の行動すらもすべては吾郎が裏で手を引いていたのではないかという結末は、はっきりとアンチカタルシスな作劇だ。
この行き場のない感情をどう処理するのかがlife sentenceのポイントとなるだろう。
メリルが学園に転入し、樹と接するにあたっての振る舞いについてひなを参考にしたと言っている。
ひなの死後、メリルは樹のことをイッキと呼ぶ。ひなが樹だけでなく、メリルとも一体になったことを示す演出だ。
メリルは大人の思惑ではなく、初めて自らの意志で栞を殺害する。ひなと一体になったことで、彼女は道具から人間の子供へと生まれ変わる。
ひょっとしたら気づいていない人もいそうな小ネタ。
ひなの死後、ときおり樹が見るひなの幻覚のシーンのバックログを見てみよう。憎い演出が施されている。
ルカの偽名は映画が元ネタと言及されるがこれは『ゴッドファーザー』。後に樹が仲間たちのことを「ファミリー」と表現する、その前フリとしても機能している。
ファミリーの名前はNest。巣。おそらく雛=ひなが還るべき場所というイメージを喚起させるための名称だろう。
おわりに
雑然とではあるが、ネタバレ無しでは語りきれなかった考えや発見を吐き出すことがができた。
周回遅れながら、ようやくこれで心置きなく最終作『クリミナルボーダー life sentence』に着手できる。頑張っていきます。