2020年10月~12月に観た新作映画を振り返る

はじめに

昨年1月より隔月で始めた新作映画振り返り記事も今回で2020年分は最後になる。
2020年の最後にふさわしい大増量版として今回は3ヶ月分をまとめて振り返ろう。ただ単に10月が鑑賞本数ゼロを記録してしまい弾数がなかっただけなのだが。

ところで、年末には恒例の年間ベスト10晒しをツイッターにて行った。
本来ならばこの振り返りシリーズのようにお気に入りの映画をより分量を割いて紹介したかったところだが、この記事自体が2021年が始まって10日ほど経っての投稿ということからも分かるように、準備の時間が取れなかったため断念。

それでは2020年10月から12月にかけて私が劇場で鑑賞した新作映画について、それぞれ鑑賞直後のツイートと予告編動画、そして簡単な感想を並べよう。

2020年10月~12月に観た新作映画

羅小黒戦記~ぼくが選ぶ未来~

中国で大ヒットした劇場用長編アニメーション作品である『羅小黒戦記』は2019年に一部ミニシアターで公開されて日本でも好評を博した作品だが、今回アニプレックス配給で吹き替えを含めたローカライズがされて大規模公開された。
昨年から気になってはいたので、このように観やすい形で大規模展開してくれたことはありがたい。

本作の見所は次の二点。
中国アニメらしさを少し残しつつも日本アニメに寄せたかわいらしいデザインのキャラクターたちの魅力と、アニメーションならではの超ハイスピードバトルアクションだ。

主人公である黒猫の妖精シャオヘイの愛らしさはそのビジュアルからして説明不要だろう。そんなシャオヘイと師弟関係を築いていく人間のムゲンは、そのクールな立ち振舞のまま、自然とボケをかましたりする様がやはり可愛らしい。
その他大量に登場する脇を固めるキャラクターの中で個人的に好みなだったのは「館長」ことパンジン。そのビジュアルに大塚芳忠さんの声がぴったりで、まさしく「老練」を体現するキャラクター。少ない出番ながら、その一声で妖精たちを指揮する様は説得力ありまくり。

アクションシーンはどのシーンを切り取っても非常にクオリティが安定しており、目で追えるギリギリを攻めたスピード感のバトルはとにかく「気持ちいい」の一言。
日本的アニメーションの技術が他の国でも継承され、その国ならではの表現がそこに乗っかった本作のような作品がどんどん出てきてくれると個人的には面白くなるなあと思う。


スパイの妻

ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞した黒沢清監督の新作。元々はNHK制作テレビドラマで、その劇場版だ。

黒澤清監督作というだけで当然注目せざるを得ないのだが脚本には『寝ても覚めても』の濱口竜介さんも参加しており個人的にはその点にも注目していた本作。
太平洋戦争前夜という時代劇であると同時に、夫とその妻の関係が怪しい方向へと進むメロドラマ有り、国家機密をめぐるサスペンス有り、更には中盤に出てくるある映像はホラー出身の黒澤監督らしい不気味さを漂わせるという、非常に盛り沢山な内容となっている。

戦時下の歴史ドラマで陰謀の証拠を掴んだ夫婦の人生が国家により翻弄されていくというという題材は、確かに国際的な映画祭で高く評価されやすそうだと感じた。個人的には黒澤監督作の中で突出した傑作という感じはしなかった。
しかし、そこに夫婦関係にあるパートナーが互いに得体のしれない存在に見えてくるという『寝ても覚めても』にも通じる不気味さを底に敷いたこの座組ならではの味付けが効いており、それも含めて映画祭で評価されたのであれば嬉しく思う。


罪の声

84年のグリコ・森永事件をモチーフとした犯罪ドラマ。
当時事件で用いられた脅迫テープの声が自分のものであると気づいた男と新聞記者がバディ化して事件の真相へと踏み込んでいく。

まだ生まれていない時代の大事件ということで、そもそものグリコ・森永事件について勉強になったし、日本初の劇場型犯罪という(あえて不謹慎に言えば)「面白さ」にグイグイ引き込まれた。

劇場型犯罪という、マスメディアがこぞって報道すること(そしてそれを遠巻きに面白がる大衆がいること)で成立する犯罪に巻き込まれた人々の無念を浮かび上がらせ、さらには昭和から令和へと時代を超えて改めて事件を総括することで、人生を狂わされた人の再生までを描ききるところに作り手の誠実さを感じる。

総じて良く出来たドラマではあるが、日本映画全般の問題である子役演技や、ドラマのシリアスさにそぐわないステレオタイプな描き方をされたうつ病やヤクザの描写はノイズになった。


ウルフウォーカー

アニメーションスタジオ「カートゥーン・サルーン」の新作。眠ると魂が肉体から抜け出し狼となるというアイルランドの伝承を題材に、二人の少女の出会いを描く。

カートゥーン・アニメーションといえば「子供向け」というイメージが先行しがちだが、本作はそんなカートゥーンの技法をゴリゴリに洗練させて完全にアートの領域に踏み込んでいる。
デフォルメの利いた単純なデザインながらまるで『かぐや姫の物語』のように線そのものが躍動するような手の込んだタッチで動くキャラクターに、人工物と自然物とで表現方法すらまったく異なる背景美術とが合わさって、どこを切り取っても絵画的な美しさを湛えている。
アイルランドの歴史を踏まえたシナリオも、絵画的な画面に引けを取らない美しさの音楽も、まるで隙がない。

他者に縛りつけられた者が、他者を縛りつける側に回ってしまったことに「気づく」ことで成長する。このような「気づき」に登場人物と一緒にハッとさせられる映画はやはり好みだ。
カートゥーン・サルーンというアニメーションスタジオを知ることができたことも収穫で、観たことによって得られたものの総量でいえば年間トップレベルの作品だった。


ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒

スタジオライカによるストップモーション・アニメ。
英国紳士の主人公と相棒となるビッグフットのコンビによる、インディ・ジョーンズ的冒険を描いたアドベンチャー映画。

ストップモーション・アニメという手法の難しさを強く感じた作品であった。
大変な時間と労力と資金を費やして作り込んだ先に、きっとCGアニメーションでは表現できないものがフィルムに焼き付くのかもしれないが、私の感性ではどうしてもその領域に至った表現の総量が満足する量に至らず、どうにも割りに合っていないように感じてならなかった。

もちろん「人形に命を吹き込む」という職人技にはありがたさしか感じず思わず襟を正したくなる思いだが、襟を正すほど意識するに従って、この手法を選択したことで得られる価値が捨てたコストに合ってないんじゃないかと。
そういう思いに囚われて、映画としては非常に面白いんだけど、どこかモヤッとした感じが残った。


ストックホルム・ケース

誘拐・監禁事件において被害者が犯人に対してある種の好意を抱いてしまう現象「ストックホルム症候群」の語源となった銀行立てこもり事件の映画化。

そりゃ加害者がイーサン・ホークだったら魅力的に見えるだろ! とツッコミたくもなるが、確かにその演技の所作でキュートさを醸し出している。
ひとつの銀行内という限られた空間で低予算な感じもあるが、次第に協力関係を築く犯人と立てこもり被害者たち VS. 警察の交渉ゲームがサスペンス的に面白く、「ストックホルム症候群」という警察側としては直感に反する事象によって有利不利が揺らぐところは本作ならではの魅力だろう。


ワンダーウーマン 1984

DCエクステンデッド・ユニバースに属する『ワンダーウーマン』の続編。

大ヒットした前作は個人的にはまあまあといった温度感だったが、今作についてはすべてのアメコミヒーロー映画の中でもトップレベルで好きな作品となった。

ワンダーウーマンことダイアナが「真にワンダーウーマンになる」クライマックス手前のシーンはヒーローが誕生する瞬間を捉えた名シーンであり、その後の「闘わないクライマックス」は愛と平和の象徴であるワンダーウーマンというヒーローの在り方そのものを描いている。
そんな理想主義的なテーマを描ききるために、80年代風の明るくちょっと緩いヒーロー映画の文法に則って展開され(故に1984)、『ダークナイト』以降のヒーロー映画とは異なる空気をまとっている。それでいて近年のヒーロー物が何度も繰り返してきた「君もヒーローになれる」というセリフをそっくりそのまま使いつつ、(制作時期の)2019年にそれを実践する方法までを提示しきっているところが本当に凄い。

公開が延期されたことでコロナ禍やトランプ大統領の大統領選敗北といった歴史的な事象が映画に反映されていないことで、どうしても「2020年のヒーロー映画」という感じがしないのが本作の不幸ではあるが、今後年に一回は観直す映画になりそうだ。


ジョゼと虎と魚たち

84年に発表された同名小説の長編アニメーション映画化。生まれつき足が不自由な女性ジョゼと、そんな彼女の「管理人」としてこき使われる恒夫と恋愛模様を描いたラブストーリー。

決して甘いだけでない青春ラブストーリーに仕上がっており、観ていて虚を突かれた思いがした作品。それでも原作や2003年の実写版と比較するとまだまだ甘いという声も聞こえてくるが、それは今後確認しよう(原作購入済み)。
「物語」が人を救う物語にめっぽう弱い私にとっては後半の展開には刺さりまくりで非常に気に入った作品である。ただ、ラストのラストで二人をすれ違わせる『君の名は。』的展開には「もうそういうのいいからさっさと幸せになってくれー!」と願わずにはいられなかった。

上で挙げた年間トップ10のツイートは本作を観た直後にアップしたこともあり、まだ本作を冷静に受け止めきれておらずトップ10に掲げることに躊躇したのだが、今なら8位あたりに入れていいかも。

余談だがパンフレットも良かった。非常にフォントサイズが小さい文字がぎっしりと並んだ私好みの「読ませる」パンフで、監督から主演からキャラクターデザイン、コンセプトアート、果ては劇中画の担当まで本作を作り上げたメインスタッフへのロングインタビューが充実している。

おわりに

2021年もいきなり緊急事態宣言が発令されて映画館も時短営業に切り替わるなど、今年も新型コロナウイルスに振り回される一年になりそうだ。

そんなことを考えつつ、この記事を書きながら今週末見に行く映画のチェックをしていたら『恋する遊園地』という題材が好みすぎる作品を見つけた。例年通りに映画館に通えないかも知れないが、それでもその枠の中で好きな作品を探していきたい。

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