『クリミナルボーダー life sentence』レビュー

"光の中を一人歩むより闇の中を君と"


クリミナルボーダー life sentence(Amazon)

点数ブランド発売日
65点Purple software2024-05-31
シナリオ
かずきふみ
原画
さめまんま、CHIHIRO
紹介サイト
life sentence 春夏冬凛|クリミナルボーダー|Purple software
備考
『クリミナルボーダー 3rd offence』の続編

作品概要

本作は全4作のロープライスによる連作シリーズ『クリミナルボーダー』の最終作。
今回フィーチャーされるヒロインはついに表舞台に正体を見せた幼馴染、春夏冬あきなしだ。

このレビューを読む方はほとんどが前作までをプレイ済みと思われ――という前作レビューまでのコピペももういいだろう。何と言ってもこれで最後だし、さすがに最終作だけ買わないという人はあまりいないと予想する。だから例によってネタバレ無しのこのレビューは手短にまとめよう。

life sentence = 終身刑

前作で大き過ぎる代償を払うこととなった樹たち。
海外マフィアとの繋がりを持ち、新たにNESTと名乗り始めた彼らは、雨紋会の組長である勅使河原吾郎の打倒へと突き進む。

サブタイトルを1st offence2nd offence3rd offenceと重ねてきたシリーズの最終作はlife sentence。韻を踏んでいて洒落ているのはもちろんのこと、このサブタイトルはシリーズのお約束を外すという宣言とも読み取れる。
そのお約束外しはゲーム開始直後のシーンから繰り出され、シリーズを追ってきたプレイヤーのメタ読みを諌めてくる。連作として積み重ねてきたからこそ成しえる演出だ。

今作のOPムービーは未プレイでもそれまでの大きな展開を読み取れる内容のため本記事では引用しない。
しかしひとつだけ言及しておくと、ムービーの最後に各作のタイトルロゴが次々と表示されていき最後にlife sentenceへと至る流れは最高にアガる、とだけ。

ヒロインは春夏冬凛ではない

前作まで遊んできたユーザーのほとんどが、ここから凛がシリーズを通してのメインヒロインとしてすべてを掻っ攫っていくようなことはないと勘づいていることだろう。
そもそもエロゲーという物語媒体における「ヒロイン」という役割に期待される振る舞いをこれまで彼女は拒絶してきたと言っていい。そのスタンスは満を持して物語の中心に立つことになった今作でも大きく変わらない。
主人公とセックスすることだけが「ヒロイン」の条件ではないのだ。

そんな彼女の今作での役割は、私の見立てでは「見届け人」である。
本作の事件を通じて行き着くところまで突き進んでしまう樹はプレイヤーすらも置き去りにしてしまう。だから彼を直視するための目が必要だ。それには、樹を幼少期から知る凛こそが適任と言える。
さらに、「大人 対 子供」の構図を軸に「大人への反抗」を描いてきたシリーズにおいて、にのまえ家と春夏冬家のお隣同士の関係の不和は、何気に物語を終わらせるに当たって避けては通れない出発点だった。樹と凛、どちらも最も身近な大人である両親への悪感情を持つ似た者同士と考えれば、凛が樹の役割――プレイヤーの感情移入先という役割を担うのは自然なことのように思える。
だから「ヒロイン」としての魅力とはまた異なる魅力を持つキャラクターとして個人的には彼女を気に入っている。

それではいったい今作の、そして『クリミナルボーダー』というシリーズのヒロインははたして誰なのだろうか。
このテーマで色々と議論することはできるだろう。ここでは、「最後に主人公の隣に立つ者がヒロイン」というそれなりに説得力と普遍性があるような気がする「ヒロインの定義」を提唱しておくだけに留めよう。

凛以外のキャラクターでは、2nd offenceでヒロインだった琴子の活躍が特に目覚ましい。
シリーズを通して最も明確に成長が描かれるヒロインとして、その成長に相応しい大見せ場がクライマックスに用意されている。
また、もう笑えない状況下にまで行き来ってしまったこの最終作において一番の笑いを掻っ攫っていくのも彼女だ。

今作で一番笑ったお気に入りのシーン。
琴子がなにをしているのかはお楽しみに。

総括

エロゲーにおいて連作形式にもそれなりにメリットはある。
やはり現実時間で長期的に追い続ける物語や登場人物には愛着が湧くものだ。特に「ヒロインへの愛着」こそが基本にして最大の関心事であるエロゲーにおいては、連作形式によってそれが最大化されるのであれば万々歳と言えるだろう。

一年半以上に渡って大きく遅延することなくコンスタントにシリーズを展開していき見事に完結させた『クリミナルボーダー』は、全体的なプロットは一作目リリース以前から固まっていたと思われる。
いわゆる「催眠アプリ」のようなエロマンガ的妄想の産物がもしもリアルに存在したら、それを用いて悪い商売ビジネスができるのではないか――という発想からはじまるある種のSF、サスペンス、ノワールとして、一貫した面白さを提供してくれた。
もちろん、ユーザーの反応を見ながらシリーズを重ねるに従い微調整もしてきただろうが、一貫性という観点においては大半の期待を裏切らない最終作に仕上がっていたように思う。

最後に、3rd offenceのレビューに続いてまたしても2nd offenceの総括から引用しよう。「ここまで堅実にホップ、ステップと踏んできた本シリーズ。続く三作目で爆発的なジャンプを、そして完結作で見事な着地を期待したい」と私は書いた。しかし、この期待はいささか順序がズレていた。
三作目では深く、深く沈み込んだ。そして、完結作でどん底から飛翔した。こう書くのがしっくりくる。

私が特に愛着を持ったあるヒロインの決着について、もう何も文句は言うまい。

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