『珊海王の円環』レビュー

"変わらないことは悪である"

珊海王の円環

珊海王の円環

posted with amazlet at 16.05.08
エウシュリー (2016-04-28)
点数ブランドプレイ時間
30点エウシュリー約60時間
シナリオ
藤原組長、八雲意宇、如月聖
原画
やくり、夜ノみつき、うろ
紹介サイト
珊海王の円環
備考
ゲーム性(戦略SLG)有り


いきなり個人的なことで恐縮なのだが、「面白いとは一体なんなのだろうか」という、短い人生を捧げてでも探求する価値のある命題をたっぷりと考えるよい機会となった。

本作は6人の登場人物が船を駆り、お互いが持つ珊海王の円環(ゆびわ)を奪い合うシミュレーション・ゲーム。6つの円環を全て集めた勝者は伝説の海賊である珊海王との謁見が叶えられ、その願いを何でも聞き入れてくれるという。

プレイヤーは最初にこの6人の登場人物から主人公を1人決め、それ以外の登場人物たちがそのまま敵対勢力となる。加えて、各登場人物ごとにエンディングが2つずつ存在することから、全てのエンディングを見届けようと思ったら合計で12周プレイする必要がある

そこで本作の問題は、ひたすら周回プレイが退屈であることにある。退屈なプレイを何度も何度も繰り返して、やっと全てのエンディングを迎えた後に残るものを考えると、全てのシナリオをプレイしようと意気がっている人を見つけたら思わず全力で止めたくなるレベルである。

では、一体なぜ周回プレイが退屈であるのかを語るその前に、まずは一周目の面白さはどうなのかから話を始めよう。

本作のSLGパートを簡単にまとめると、広大なマップを船で移動し、部隊を島々に上陸させて領地を増やし、各領地から得られる資源を元に航行を切り盛りしながら敵対勢力との戦闘を繰り返すことで支配力を弱め滅亡させることを目標に試行錯誤する。まさに海賊対戦シミュレーションだ。

プレイ序盤は領地拡大に敵対勢力への牽制などやらなければいけないタスクが多く、一周目はそれに追われながら色々なプレイングを試していく過程が楽しく熱中できる。しかし、敵対勢力を倒していき、序盤の乱戦模様から数が減っていくと最後にやることは残党勢力の掃討しか残されない。つまり、一周目の段階ですでにどんどんと退屈になっていくゲームデザインなのだ。

さて、一周目を攻略したので二周目は別の登場人物で始めよう。ここで選択した登場人物以外がやはり敵対勢力となるので、一周目との違いは当然ながら敵が一組入れ替わるだけである。

ゲームの仕様でそうなってしまう以上、各登場人物ごとの能力差やイベント内容で差別化を図るしか無い。しかし、本作ではプレイヤーが周回プレイをすることでゲーム内容の知識がつき、効率的な攻略方法を発見すればするほど、登場人物ごとの有利不利の差別化要素は効果的な攻略方法に吸収されてしまい、ほとんど無視できてしまう差でしかなくなってしまうのである。

その原因は、セミオート進行でプレイヤーの介入要素が限られる戦闘システムや、戦況に影響を与えるようなイベントが皆無であること、そしてワンパターンな攻撃しかしてこないボス戦など複合的なものなのだが、つまるところは実はプレイヤーの工夫の凝らし所が少ないプレイングの幅の狭さこそが根幹なのではないかと考える。

こうして、一周目の段階ですでにどんどんと退屈になっていったゲームプレイが、周回を重ねる毎に相乗効果でどんどん退屈になっていく。私のプレイが巧いのかは分からないが、どのシナリオでも危なげなくクリア出来てしまう難易度で刺激も足らず、まさに淡白な作業と化していく。

周回すればするほど代わり映えのしなくなるゲームパートと、ゲームパートの添え物としての薄味のストーリー。全てのシナリオにおいて円環を6つ集めてからのゲーム展開がエンディングの直前までほとんど同一であることがそれを象徴するかのようだ。

辛うじて、エッチシーンについては海賊らしい荒々しさで女を抱いていくシチュエーションが多く、個人的にはツボを突かれるシーンが多かったことが不幸中の幸いである(描写はヌルいが)。特に、主人公候補の一人である領主ボルハ・ロヘルについては汚っさん枠として強烈なシーンが多く、加えてその迫真の不快感からくる部下とのコミカルな掛け合いもよく出来ており、彼のシナリオだけは満足することが出来た。

また、ゲームの性質から大量のゲーム素材を必要としながらも、それら一つ一つのクオリティはかなり高いため、見た目だけは面白そうに見えてしまいかねないところも褒めるべきポイントとなるだろう。

ここまで散々酷評してきたが、しかし新しいゲームシステムに挑戦する姿勢だけは素直に評価したい。変化することをやめた瞬間から、このゲームの周回プレイと同様に価値の無いものになってしまうのだから。

最後に余談となるが、対象ゲームの基本的な要素を全て遊びつくしてから点数付けとレビューを行うという本ブログのスタイルが、本作においても、そして私にとっても不幸を招いてしまった。とりあえずは全てのシナリオを長時間かけてクリアしきった自分を褒めてあげたい。


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